第十一話 聖霊王の村
すぐには上陸せず一度ぐるりと島の周囲を探ってみる。一ヶ所だけ、家らしきものが点在しており上陸出来そうな浅瀬を見つけると、小舟を降ろして先行させる。先行させた小舟のうち一艘にはルスカとアカツキも同乗していた。
家らしきもの。ローレライにあるような石造りではなく、木製の掘っ立て小屋で生活しているようで、その島の原住民はアカツキ達を乗せた小舟に対して警戒を露にしていた。
「すまぬが、誰かポチョム長老を呼んで欲しいのじゃ!」
上陸したアカツキとルスカを、ぞろぞろと物珍しげに集まってきた原住民に対してルスカは声を張り上げた。男性も女性も服など着ないで大事な部分だけを装飾や葉で隠している程度の文化。アカツキは言葉が通じるのだろうかと心配になってきた。
ざわざわと
「あの……ポチョム長老……ですか?」
「そうじゃ。ルスカが来たと言えば分かるはずじゃ」
言葉はローレライと共通のようで理解が出来たアカツキはホッと胸を撫で下ろす。
「ルスカ? もしかして、ルスカ・シャウザード?」
「そうじゃ。それでお主は?」
「失礼しました。僕はポチョム長老の子孫でポチチと言います」
「子孫? あ、ルスカ。もしかしてルスカがそのポチョム長老って会ったのはどれくらい前なのです」
「ふむ。二百年ちょっと……あ、生きておるはずはないわ」
笑って誤魔化すルスカに、肩をガックリと落とすもアカツキはルスカに代わってポチチと話をつけることに。
「それで、ポチチさん。貴方が今の長老なのですか?」
「そんな……僕は違います。長老は聖霊王様がお決めになるので、今は別の方が」
「では、その方と話がしたいので会わせて頂けませんか? それと、あの沖にある船を上陸させても?」
「わかりました。僕が呼んで来ます。おい、みんな。船の上陸を手伝ってやってくれ」
そう言うとポチチは、村の奥へと消えていく。アカツキも話は着いたと小舟で一緒に来ていた船乗りを船へと戻した。
上陸の準備が始まると、先に小舟に乗って流星、ガロン、弥生、フウカの四人がやって来る。流星と弥生は、まるで外国の少数民族のようだと物珍しそうにしていた。
「それで、長老ってのには会えたのか?」
「いえ。あ、ああ、ちょうど来たようです」
ポチチが連れてきたのは一組の男女。長老と言うには年齢は若く、アカツキや流星達とは同じ年齢くらいに見えた。
流星や弥生も長老の顔を見ると、目を大きく見開き驚いた素振りを見せる。そして二人はアカツキとルスカを置いて長老の元へ駆け出すと、長老の方も二人に気付き走って来る。
「嘘だろ! 流星に三田村じゃないか!?」
「やっぱり! やっぱり浜か? 浜 翔平!」
「そうだよね、浜くんだよね!?」
三人は再会を喜ぶ。浜翔平。彼もアカツキや弥生と同時期にこの世界へ転移してきたクラスメイトであった。
しかし、ただ一人。アカツキだけは、ピンとこず首を傾げるのみだった。
◇◇◇
「なんで覚えてないんだよ、田代おおおおっ!!」
「ごめんね、浜くん。アカツキくんは、いつものことだから」
「そうだぜ。俺の事も全然覚えてなかったんだから、こいつは」
一回一回リアクションが大きく、アカツキの中では、既に浜は、五月蝿いやつで認識されていた。他の原住民と同じような格好をしているが、特徴らしいものがない平凡な顔。のっぺりとした日本人特有の顔で、よく弥生や流星はすぐに気づいたものだと感心すら覚えていた。
「ところで、そちらの女性……女の子は?」
「ああ。嫁のチルだ。そこのポチチの妹でもあるんだ」
「ああ、だからそんなに若いのか。いや、若すぎないか?」
浜の側で隠れながら様子を伺う少女。ブラウンの髪はショートカットにしており、どう見てもまだ十代前半といったところだ。正直、セリーと変わらないほど幼い。
「浜……お前、まさかロリ──」
「待てええ!! 誤解だ、流星!! 田代もそんな生暖かい目でオレを見るなぁああ!!」
この島は殆んど皆無と言っていいほど孤立している。自然とその血は濃くなり、島の住民が皆遠からず親戚。その為、外からやって来た浜をもてなす理由は、新たな血を入れることで、当時最も若かったチルに白羽の矢が立ったのだった。
アカツキ達は浜の家に招かれると、まず今までどうしていたのかを尋ねた。
浜は、転移で飛ばされた先がこの島であった。初めは戸惑うもポチチやチルの協力もあり、島に住むことになった浜は、最近、長老に指名されたのだという。
ローレライのことなど全くわかっていない浜は、アカツキ達から今まであった事を話すと、物凄く驚いていた。特に馬渕の変貌は信じられないといつた感じだ。
他の転移者のクラスメイト達が馬渕に騙され、改造魔族の実験体として非業の死を遂げた事を考えると、浜は運が良かったとも言えた。
「それで、田代達はこの島に一体何の用があるんだ?」
アカツキは、現在のローレライの状況を説明して協力を願い出たのだった。
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