第三章 ローレライの負の遺産編
第一話 弥生とカホ、子連れの旅
時は少し巻き戻り、弥生とカホはフウカとクリス、二人の赤子を連れてまずはアイシャの実家にある場所を目指していた。
その旅には、ギルドの統括官であるアイシャと、リンドウの領主であるナックも同行していた。
「まずは首都のグルメールを目指すのね」
「そうだな。いくらなんでも他領の領主である俺が、他の領内においそれとは入って行くと不味いかもしれないからな!」
「もう、ナック……まだ不機嫌なの? リュミエールさんだって快く見送ってくれたじゃない?」
屋根のあるカーゴ付きの四頭引きの豪華な馬車。ナックが用意したものであるが、何故か御者台に座らされたナックは、不満げにカーゴを挟んで弥生と会話していた。
「まぁまぁ、ナックさん。二人とも赤子を連れているのですよ。授乳している所見たいのですか? アカツキさんとルスカ様にチクりますよ」
「絶対止めてくれ……」
ナックは大きく欠伸をすると、空を見上げる。澄み渡る真っ青な空。眠りを誘う心地よい日差し。
元傭兵とは思えぬ体たらくに、アイシャもあきれ顔になる。
「お、見えてきた、見えてきた」
森を挟んで真っ直ぐに伸びる街道を四頭の馬に引かれて馬車は、遥か先にうっすらと見えるグルメールへと進んでいく。
ここまで、魔物一匹姿を現さず、のんびりと旅路を過ごしてきた。
特段珍しいことではないものの、弥生はキョロキョロと落ち着かない。
「どうしたの、やよちゃん?」
「うん……なんだか誰かに見られている気がして……」
「えー、またぁ? あ、ちょっとナックさん見てないですよね?」
「見てねぇって言ってんだろ!」
カーゴの窓越しでギャーギャーと喚く二人に、アイシャは好きにやってくれと、頭の耳をパタンと畳んだ。
弥生は一人、不安になりながらもしっかりとフウカを守るべく抱き寄せたのであった。
◇◇◇
「グルメールに着きましたよ」
アイシャは自分の身分を証して、馬車は首都の中へと入っていく。
「このまま城へ向かいますね? ヤヨイーさん」
「アイシャさん、お願い。セリーちゃん、元気にしてるかな?」
少し前に城仕えとして入ったセリー。目的はもちろん国王であるパクことエルヴィス国王の側室。
首都は、今国王のご婚約のお祝いムード一色であった。
「こんなに盛り上がっていたら、却って警戒して城に入れないんじゃ?」
「大丈夫だろ。俺が居るからな」
城は飾り付けにより彩られ、多くの旗がはためく。城門の兵士にナックが話しかける。
「さすがね、ナック!」
「あー、いやーヤヨイーにそう言われるのは嬉しいけど、あの門兵、顔見知りというか、同期だし……」
一時、衛兵としてグルメールにある城で仕えていた頃の顔見知り。もちろん、ナックが貴族となったことも承知で、不安になるくらいに二つ返事で通してもらえた。
馬車を預けて、城の中へと入っていく。大きな階段が目の前に現れ、その先にはデカデカとルスカの成長したイメージ図の絵画が飾られている。
一歩、弥生達が踏み出すと、上の階から物凄い勢いで一人の老齢な男性が駆け寄ってきた。
「フウカちゅわあああん、おじいちゃんでちゅよおおおお!」
両腕を広げ、フウカに向かってキスをする勢いのワズ大公。
「きゃあああああっ!! “障壁!”」
フウカを抱いた弥生の前に光で出来た壁が立ち塞がりワズ大公は、勢いそのままで突撃していく。
「どぅわあああっ!」
見事に跳ね返されたワズ大公は、赤い絨毯の床を一回転、二回転と転がり弥生達から離れていく。
気丈夫のワズ大公は、すっくと立ち上がり何事もなかったように服の埃を払うが、城仕えの女性達や、衛兵にしっかりと見られていた。
誤魔化すように一つ咳払いをして、周囲の者達を下がらせると、ワズ大公が今度はゆっくりとフウカに近づく。
しかし、それを阻止すべく立ち上がったのはナックである。
「ワズ大公! フウカの祖父は俺だ!!」
「ふっ、この若造が祖父だと抜かすか、いいだろう、相手になってやる」
ワズ大公とナックの間に火花が飛び散る。そして、残された弥生、カホ、アイシャの三人は、とっとと階段を上がっていくのであった。
◇◇◇
ナックとワズ大公を放って置いた弥生達は、三階へと上がっていく。
「ヤヨイーさん!!」
「セリーちゃん!」
廊下に出ると、高そうなティーセットをシルバーのトレイに載せて運ぶセリーと再会する。
同じような格好をした女中の列の最後尾にいたセリーは、列を乱さないように最前列のちょっと年配気味の女中に注意されてしまった。
「どうかしましたか、騒がしいですよ。それにワズ大公は何処に──あれ、皆さん?」
「ダラスさん」
会議室から顔を出したダラスを見つけた弥生達は、皆頭を下げて挨拶する。
そして、ダラスも弥生が抱いている赤子を見て、ワズ大公が会議室から出ていった理由を察した。
「ちょうど良かった。その子がワズ大公がいつも話すフウカちゃんですね。良ければエルヴィス国王にも一目逢わせてやってください。前々から顔を見たいと言っていましたから」
会議室から出てきたということは、重要な会議でもしていたのだろう。
本来なら忙しいと、一蹴されるところをダラスの粋な計らいでエルヴィス国王に謁見出来る事となった。
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