第十八話 青年、森エルフと出会う
アカツキ、流星、ガロンは、ロックへと挨拶もそこそこに早朝村を出た。
ロックやルビアからは強く引き留められたが、急な用事が出来たと理由を付けて断る。
ガロンを頭に乗せたアカツキと流星の馬は、休むことなく駆け抜けていく。
「もし、アカツキの言うように原田がそれだけの力を手に入れていたなら、ちょっとヤバいぞ」
「そうなのですか?」
「俺の印象を言わせてもらうと、かなり自分勝手な奴だった記憶があるしかなり横柄な態度も時折見せていた。特に力の弱い女子に対してはな。それだけの力を身に付けたなら、確実に私利私欲のために使うはずだ」
流星が抱く原田の印象は余程最悪なようで、悪いところしか挙げようがないほど。
アカツキは、背筋がゾッとする。もし、原田が本当に弥生に対して好意を抱いていたとしたらと考えると、いてもたってもいられず馬の脚を止める様子は一切なかった。
「一応、昨晩の内にカホに注意しておくようには“通紙”で言っておいた。大丈夫だとは思うけど、万一にな」
安心させるように流星は気を遣うが、妙な胸騒ぎが止まらない。
それは、アカツキだけでなく、流星も同じであった。
ドゥワフ国の北にあるレイン自治領との境の森に入ったアカツキ達。森の中では、なかなか速度を出せずに苛立ちを覚える。
『オイ、ツケラレテルゾ』
「気づいてますよ。森に入ってからですね。しかし、襲ってくる気配がないですね」
「様子見、か?」
『ツケテ来テイルノハ三人ノヨウダ。只……』
「どうしました? おかしなところでも?」
『我ハ鼻ガ効ク。コノ三人ハ、イキナリ現レタノダ』
なるべく気づかれないように後ろを見ずにアカツキ達は進む中、ガロンがいきなり『止メロ!』と叫ぶ。
そして、声に反応して馬を止めたアカツキも、遅れて気づく。つけてきた気配が突如失くなっていたのだ。
「これは……どういうことですか?」
『現レタ時ト同ジデ、突如消エタ』
「とるに足らないと思われたか、勘違いでつけられたのか……」
二人と一匹は、再び森を突き進む。殆んど休まずに森を抜けるとアカツキの提案で、レイン自治都市には寄らずに回り道をすることに。
もし、つけられた原因が自分達にあるならば、下手に街に入って騒ぎにしたくなかったのである。
レイン自治都市をぐるりと大回りをしてアカツキ達は北へと進む。西にあるシャウザードの森には向かわず、次に向かったのは東側。
元々帝国が支配していた小国がいくつもあり、その国を更に抜けるとローレライの最東にある高く険しい山々の麓に広大な森が広がっている。
その森の中に、目的地である森エルフの村があるはずだった。
リンドウの街にあるギルドの受付ナーちゃんとルルの故郷。広大な森ゆえになかなか見つからないだろうと踏んでいたアカツキであったが、意外な形で村は見つかる。
「こ、これは……」
「森が……燃えている!」
空へと立ち上る黒煙に、少しでも近づくと熱気を感じるほど真っ赤に森を染め上げる。
「これは……ちょっと近づけませんね」
「おい、あそこに人が倒れているぞ、アカツキ!」
森の入り口に倒れている女性。アカツキ達が近づきその姿に驚く。
真っ白の肌はススで汚れ、美しい顔立ちは苦悶の表情を覗かせる。
長い耳からエルフだと気づいたアカツキ達は、息を確認したあと、最寄りの街へと戻り解放することに。
医者によると危ない状態ではあったが、今は命に関わる状態ではないと言われて、アカツキ達は安堵する。
医者が帰ったあと、アカツキはアイテムボックスから小瓶を取り出す。
「懐かしいな、それ」
流星も散々お世話になったルスカ特製の回復薬。ルスカの意向によりこの回復薬は、一般には流通していない。効果が高いゆえに、医者が廃業することを懸念してだ。
アカツキは万一に備えて数本、用意をしていた。
エルフの女性に小瓶を口に付けて飲ませる。これでしばらくすれば回復するはずである。
「雨が降ってきましたね」
アカツキは窓をポツリポツリと濡らす様子から部屋に雨が入らないように窓を閉めきる。空は曇天に覆われ、かなりの雨量を降らすと予想した。
「これで火が消えれば森にも入れるかもしれませんね」
窓の遥か向こうでいまだに燃え続ける森を見てアカツキはポツリとそう呟いた。
◇◇◇
しばらくすると、エルフの女性は目を覚ます。初めはアカツキや流星に怯えていたものの、ナーちゃんやルルの名前を出すと大人しくなってくれた。
「それで一体何があったのですか?」
「……あの、あなた方は、この山の向こうに住んでいる人がいるのを信じますか?」
アカツキと流星は頷く。元々そこへ向かう為に、こうして森エルフの村を訪れたのだ。
「ローレライを追い出された人達のことですね」
女性は驚き目を丸くした。知っていることにも驚きであったがその実情まで知っているとは思わなかったようだ。
そして、エルフの女性はポツリ、ポツリと何があったのかを話し出した。
「突然でした。納屋の一つに火の手があがると、次々と村の中に知らない人達が入ってきてエルフを片っ端から殺していったのです。それだけでは終わらず火の手も次々とあがりました。初めは皆、隣国が攻めてきたものだと思いました。しかし、襲ってきた人達は口々にこう言ったのです。『我らの土地を返しに貰いにきた』と。森エルフは昔からこの場所を寝床としています。そして、先祖がローレライから原住民を追い出したと伝承にもありました。だから、その言葉で私たちは気づいたのです。これは報いなのだと……」
エルフの女性は、この事態を近隣にも知らせるべく逃げ出してきたのだが、恐らく無駄に終わるだろうとアカツキは判断した。
レイン帝国時代、レインハルトに長く住んでいたアカツキは、原住民の話など聞いたことなかったし、書物を漁ったが書かれていなかった。
ルスカから聞いて初めて知ったくらいだ。
人々から忘れられていった記憶。ローレライの負の遺産が今、ローレライ全土を襲おうとしていた。
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