第二話 弥生、王妃候補と対面する
ダラスの計らいでエルヴィス国王に謁見することになった弥生達。
しかし、弥生達が通されたのは謁見の間ではなく、エルヴィス国王の自室。
豪華な装飾などはなく、並べられた本棚に囲まれ、デスク一つと、ソファーに挟まれたテーブルが一つと、まるで書斎とも言える。
隣に続く扉があることから、その先は寝室なのだろう。
片側のソファーには、弥生、カホ、アイシャが座り対面のソファーに座るエルヴィス国王の腕には、優しく抱きかかえられたフウカが。
「アカツキ様に似てますね。それに、この変わった色の瞳、とっても澄んで綺麗な瞳です。弥生様のように優しい子になりそうです」
褒められ照れ臭そうにする弥生は、エルヴィス国王からフウカを受けとる。
次にエルヴィス国王は、カホの子クリスを抱きかかえる。
「そうですか、クリストファー様から、お名前を……。本当は国葬にしたかったのですが、クリストファー様の遺言を無視する訳にはいかないですからね」
「いえ。国王様のお言葉だけで十分ですよ、きっと」
クリストファーの遺言で、国王が自分に何かをする必要はないと書き残していた。改造魔族、リリスと、このローレライ全土に名を轟かせる魔導師として恥じない功績を挙げたが、クリストファー自身はあの戦争で戦った全ての者が英雄だとの考えであった。
流星とカホは、その意向を受けて国葬を断ったという経緯があった。
「ところで、叔父上は一体どこに?」
恐らくナックとまだ祖父争いを繰り広げているのであろうと、弥生達は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「失礼します」
ノックのあと、扉を開いて入ってきたのはセリーであった。
手にはシルバーのトレイに乗ったお茶とカップが。
「セリーちゃん!」
弥生は、セリーに声をかけるが会釈をするだけで話そうとしない。
恐らく、雑談は禁止されているのであろう。
城仕えには、よくある話ではある。
特に国王の側に居るのであれば、尚更。
「セリーちゃん、喋っていいよ」
エルヴィス国王は、パクの時と同じ口調で話すが、セリーは首を横に振る。
少しエルヴィス国王が寂しそうな表情をするのを、弥生は見逃さなかった。
「セリーちゃん、
困った顔をしたセリーであったが、アイシャが無理矢理腕を引っ張り自分の代わりにソファーへ座らせた。
「あ、あの……」
「セリーちゃん。パクくんにとって、セリーちゃんはこの城で唯一気のおけない人なのよ。あなたが、そんな態度じゃ可哀想よ。エルヴィス国王として、今度王妃を迎えると聞いているし、国王を支えるのは新しい王妃の役目。でも、パクくんを支えるのは? あなたの役目じゃないの? 違う?」
弥生は、セリーに言い聞かせるように淡々と説得する。国王とはいえ、セリーよりも年下なのだ。しっかりしているとはいえ、誰かが支えてやるべきだと。
ウンウンと頷くパクを見て、セリーの肩から力が抜けるのがわかった。
慣れない城仕えに、しっかり者だからこそ、セリーの肩に変な力が入っていたのだと、弥生は見ていた。
それからしばらくは全員で雑談を交わす。アカツキとルスカが再び旅に出た話や、それに流星もついていったことなど、主に奥さん方の愚痴大会であったが、エルヴィス国王も咎めることなく耳を傾け、セリーは大きな口を開けて笑っていた。
「失礼します」
扉のノックの音に全員が扉へ視線を移す。
「どうした? 誰も呼んでいないが?」
「はい。婚約者のマヤ様が国王様にお会いになりたいと」
「来客中だ。待ってもらえ」
「はい。あっ! ちょっと、駄目で──」
扉のノブが回り入ってきたのは、後頭部に一つのお団子にしたブロンドの髪、きらびやかなドレスを身にまとい、細く切れ長の目には青い瞳をした女性。
兵士が止めることなく、ずかずかと部屋に入るなり、弥生達、特にセリーに対して鋭い視線を送ってくる。
「おい、マヤ! 早く出ていけ! 来客中だと言っただろう!」
エルヴィス国王は、立ち上がり普段は見せない凄い剣幕で怒鳴りつけるが、マヤと呼ばれた女性は、臆することなく堂々としていた。
「何のお話をしておいでで? しかも、女性ばかりとは……あら、あなた。この城の女中でしょ? どうしてソファーに座っているのかしら?」
年の頃は、十五、六と言ったところか。エルヴィス国王を年下と馬鹿にしたような態度である。
セリーは、既に涙目になっていた。
しかし、ここで誰よりも早く対処に動き出したのは、アイシャであった。
アイシャは、ギルド全体の統括官でもあり、帝国亡き今、ギルドは独立した権限を持っている。
「痛っ! 腕を引っ張らないで! 獣人のくせに!」
「あなたは、まず人の話を聞く耳を持つべきですね。来客中と国王様が言われたでしょう」
「うるっさいわね! わたくしを誰だと思っているのよ!」
「じゃあ、聞きますが、あなたは、わたしが誰か知っているのですか? “エルヴィス国王! ギルド統括官の名においてこの者を捕縛します。構いませんね?”」
王族すら取り締まる。これは王族同士の争いが起こったグルメール王国から、三国会議にて提案されたことであった。
もちろん、同様にいざこざがあったグランツ王国も同意したことである。
マヤは、アイシャに後ろ手に抑えられ、そのまま部屋を出ていく羽目になった。
再びアイシャが戻ってきた時には、顔がボコボコに腫れ上がったワズ大公とナックが一緒であった。
「いや、フウカを溺愛しすぎでしょ」
流石に呆れる弥生に抱かれていたフウカも、お腹いっぱいだと言わんばかりにげっぷで反応するのであった。
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