第十三話 青年、ドゥワフ国へ

「パン一袋くれ」

「私は二袋ちょうだい!」


 匂いに誘われて列を作り並ぶ街の住人達。流星とタツロウも手伝うが、売り場が追い付かないほど大盛況であった。


 初日としては、大成功。しかし、これから以降はアカツキ達抜きでやっていかなければならない。


「ワイがしばらく手伝うわ。アカツキ達は、目的があるんやろ?」

「はい。ひとまずドゥワフ国へ。大丈夫ですよ、お嬢様。そんな顔をしないでください。また必ず立ち寄りますから」


 アカツキと流星は、二日目の販売を見守ったあと、ドゥワフ国へと向かう予定であった。

二日目も、列を作り客の数は初日と変わらず「美味しかった」とリピーターの声もチラホラと聞こえてきていた。


 まだまだ、手際よく出来ていないが、子供達も互いに協力を惜しむことなく率先して動いていたので、アカツキもホッと一息を吐けた。


「アカツキ。本当にありがとう。次に来た時は店をもっと繁盛させておくわ」

「おにぃちゃん、また来てね」

「そうそう。ヴァレッタ先生が寂しがるからさ」


 ヴァレッタは慌てて男の子の口を塞いで笑って誤魔化す。アカツキは、その男の子の頭を撫でてやりながら、必ず来ると約束を交わしたあと、馬に乗り込み、アカツキ達は自治領レインハルトを去って行った。



◇◇◇



 レインハルトを出て南の森を越えた所にあるドゥワフ国。

森を川沿いに少し東へと進むと、アカツキが転移してきてから初めて馬渕と再会した別荘がある。

馬渕から呪いを受けて死の淵をさ迷うこととなった地。

あまりいい思い出はない。

立ち寄る用事もなく、そのまま南へと森を進む。

木々の生い茂る森のため、馬車の荷台はヴァレッタに預けて馬のみでやって来た。

途中から、急に森が開ける。

レインハルトを壊滅させたあと、アスモデスが通った為に森の木々は所々その爪痕が残っていた。


 森を抜けると、そこは既にドゥワフ国内。復興されたばかりの小さな村へとアカツキ達は、立ち寄る。


「アカツキ。勇者ってどんな奴なんだ? 俺は、一度も会ったことないから顔がわからねぇ」

「私も一度、皇帝の別荘でちょっと見た程度ですよ。よく覚えていません」

「おいおい。それじゃ、どうやって見つけるんだよ」


 馬で並走しながら村を進んでいくと、アカツキはとある物を見つけた。


「大丈夫そうですよ。ほら」


 アカツキの指差した先には、一つの銅像が。


“勇者ロックを称えて”


 そう、台には刻まれており、剣を掲げた男性の銅像が鎮座していた。

この銅像もリンドウにあるものと同じでルスカの指示によるものだ。


「普通、こういうのって美化されるのが定番じゃないのか?」

「どうやら、かなり精巧に作ったみたいですね」


 銅像からもその間抜けな性格が滲み出ていた。


「お主ら、その銅像に興味があるのかい?」


 背後から声をかけてきたドワーフ。髭まで真っ白な老齢な男性だった。

アカツキ達が、じっくり馬から降りて見ていた様子を見て、声をかけてきたらしい。


「この人が今、何処にいるか知っていますか?」

「もちろんじゃ。ドゥワフ国の最南の街におるよ。ただのぉ……」

「ただ?」

「最近、街どころか、家からも出てこないそうじゃ。行っても会えるか怪しいのぉ」


 アカツキと流星は互いに顔を見合わせると、ピンときたようで、一斉に銅像を見た。


「これのせいでしょうね」

「これのせいだな」


 今やアチコチにある、ロックの銅像。アカツキ達は、自分達ならこっ恥ずかしくて、ロック同様家から出れないと考えていた。


「どうです、流星。ルスカに頼んで作ってもらいますか?」

「ははは。冗談はよせよ。ルスカちゃんなら、アカツキの方が喜んで作るだろうよ」


 アカツキ達は、老齢なドワーフにお礼を言うと馬に乗り、さっさと村を出る。

互いに何も言わない二人だが、内心帰ったらルスカに互いの銅像を作らせようと企んでいた。



◇◇◇



 見晴らしのいい荒野が続く。これもアスモデスの爪痕なのだろう。所々不自然に削られたような跡が残されていた。

魔物などにとっては、絶好の餌場になってもおかしくないのだが、馬渕やアスモデスが居なくなってからというもの、魔物自体数を減らしていた。


 とはいえ、アカツキ達を襲っても返り討ちに合うのがオチ。魔物も理解しているのか、襲ってくる気配すら感じなかった。


「ようやく見えましたね。アレが恐らくそうです」

「はぁ……やっと着いたか。んじゃ、日が暮れる前に行こうぜ」


 二人は馬を飛ばして荒野を駆け抜けていくのであった。


「おや、見かけない顔だな」


 街の門で呼び止められる。男は怪訝な顔をしながら、アカツキ達へと近づく。


「まぁ、初めて来る街ですから。見かけないのは当然でしょうね」

「ふーん。ここへは何しに?」


 男はアカツキ達の周りを一周しながら舐め回すように、見てくる。


「勇者ロックに会いにですけど、何か問題でも?」

「なにっ!」


 男は突如笛を鳴らすと、わらわらと人が集まり始める。とても話合う為に集まってきたとは思えない雰囲気に、流星も警戒する。


「ロック様は、お会いにならない。奥様の命で追い返すように言いつけられているのだ!」


 アカツキへと槍や剣を向けてくる。


「待て待て。俺達は、知り合い……でもないな。そうだ、知り合いの知り合いだ。だから、話を通してくれ!」

「知り合いの知り合い? ほぼ、他人じゃないか! 話にならん!」


 ズイッと槍の切っ先を流星へと近づける男性。


「面倒臭いですね」


 アカツキの中において、ロックに対する印象はあまりよろしくない。

何せ、ルスカを砂漠のど真ん中に置いていった張本人だ。

面倒臭いことこの上ないだけでなく、流星にも切っ先を向ける始末に、アカツキは背中から五本のエイルの蔦を出す。


「うわぁああああああっ! ば、化け物だ、にげろぉおおお!!」


 集まってきた人達は、蜘蛛の子を散らすように、街中へと逃げていく。

流星は、アカツキを止めようと、一度手を伸ばすも、自分に火の粉が降りかかりそうで、手を引っ込めた。


 家に引きこもった住民の為に、人っ子一人いない街を闊歩する。

途中、偶然と言う名の一軒の家に押し入ってロックの居場所を聞き出すと、アカツキは真っ直ぐ家を目指して、ロックが居るという家の前に到着した。


「アカツキ、お手柔らかに、な」


「ええ、もちろん」といい笑顔で言うや否や、アカツキから伸びたエイルの蔦は、ロックの家の扉をぶち抜くのだった。

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