第十四話 青年、勇者に説教する
「な、何ですか、あなた達は!?」
大きな音に驚いたルビアが、家の奥から出てくる。玄関にいたのは、背丈の高い男と、その男の肩に手を乗せ「やりすぎだ」と嗜める男性の二人。
ドワーフであるルビアにとって、その背丈の大きな男性はとても威圧的に感じるだけでなく、背中から蠢く緑色の複数の蔦が、普通ではないと恐怖を抱かせる。
「ロックさんは居ますか?」
にこやかに笑う背丈の高い男性の狙いが、旦那であるロックを狙っているとルビアは、手を大きく広げて通らせない態度を示す。
「か、帰って下さい! どなたか知りませんがロックさんは、今誰にも会いたがっていませんから」
「それは、困りましたね……。ですが、私達もここまで足を運んで来て、ハイそうですかと帰る訳にはいかないのですよ」
「おい、アカツキ。後ろ!」
アカツキと流星の背後には先ほど逃げ出したドワーフ達が。一度は逃げ出したものの、ロックの家での大きな音に、再び出てきたのだ。
槍や手斧などで、かなり殺気立っている。
これでは、完全にアカツキ達は悪者である。このまま立ち去る選択肢もなく、かといって手をこまねいて、じっとしておいても、背後のドワーフ達が何時襲いかかってくるとも限らない。
「退いて貰えませんか? 私はロックさんにお話があるだけです」
アカツキが一歩家の中へと足を踏み入れると、背後のドワーフ達も一歩詰め寄ってくる。
「流星。後ろのドワーフを任せていいですか?」
「おいおい、落ち着けアカツキ。何を苛立っている?」
らしくないアカツキの行動に流星も、どうしたものかと頭を悩ませる。
ルビアも一歩も譲る気はなく、アカツキにも、退かない姿はロックに対する愛情の深さを感じさせた。
カタリと、ルビアの背後で音が聴こえたアカツキは、エイルの蔦を木の床に突き刺す。
「うわぁあ、な、なんだ、これ!?」
ルビアは背後から聞こえた声に、アカツキへ背中を向けて家の奥へと戻ろうとするが、腕に蔦が絡まり捕まる。
「は、離して!」
殺気立っていたドワーフ達は、ルビアの姿に家に乗り込もうとするが、目の前にいた流星が虎型の魔物に姿を変えると、それ以上踏み込めなかった。
「ようやく、会えましたね。ロックさん」
家の奥から蔦にぐるぐるのす巻きにされたロックが姿を現すと目の前に立ちアカツキは挨拶をする。
「だ、誰だよ、お前は!」
「直接話すのは初めてですね。私はアカツキ・タシロ。ルスカの保護者です」
ルスカの名前が出るとロックからアカツキに詰め寄ってくる。
「ルスカ様の保護者? だったら、あんたから頼んでくれよ。あの銅像。恥ずかしくて外に出れねぇよ!」
「知りませんよ、そんなこと。別に構わないじゃないですか、勇者でも英雄でも」
「む、無茶言うなよ。俺は只の貴族の三男坊。勇者ってのも偽者なんだしさ。プレッシャーなんだよ、あんなの建てられると」
アカツキは、ロックの首にエイルの蔦を巻き付け吊り上げる。
「く、苦しい……は、離してくれ」
「あなたは、勘違いしていませんか? ルスカは、優しいからあなた達の事を許したのでしょうが、忘れていませんよね? あなたがルスカにした仕打ちを!」
「うっ……そ、それは」
「いいですか? あなたが年齢はともかく幼いルスカを砂漠の真ん中に放り出した糞野郎なのは、変わりません! いわゆる人として最低のあなたが、アスモデスに立ち向かい、こうして生き延びドワーフの人達に慕われている。あなたの成長は、他の人より大幅に成長したのです。だったら、勇者として、英雄として受け入れなさい! 堂々としたらいいのですよ!!」
「あ……えっ、ほ、誉められてる?」
アカツキは、ロックの体からエイルの蔦を外し、ルビアを掴んでいる蔦も外して背中へとしまう。
すぐにロックとアカツキの間に割り込んだルビアは、再び手を広げてアカツキを睨み付ける、が、ロックはすぐにルビアを下がらせてアカツキと向き合うと敬意を表して頭を深々と下げるのであった。
◇◇◇
ロックは、ドワーフ達に問題ないと伝えて帰らせると、アカツキと流星を家の中へと招き入れる。
ルビアには、すっかり嫌われてアカツキを睨み付けて離さない。
改めてロックに自分たちの素性を話す。ロック達勇者パーティーがアドメラルクと組んで逃亡した別荘先で、アカツキが馬渕から呪いを受けて瀕死になった時、アカツキは意識は無かったが二人は出会っていた。
今となっては、ほぼほぼ初対面。ルスカがアスモデスを倒し馬渕を倒したことは知っていたロックだが、そこにアカツキも参戦していたと流星から聞いて驚く。
アスモデスの恐ろしさを身を持って知っているロックとしては、一気にアカツキへの見方が変わっていった。
「俺の剣? 多分今は倉庫にあると思う。ちょっと待ってくれ」
ロックにここへ来た事情を話すと、ロックはルビアを一人残して倉庫へと向かった。
ふんっと、鼻息荒くそっぽを向くルビアに、本当に嫌われたなと、気まずい空気が流れる。
誰も喋らなくなり、流星はいてもたってもいられず、外へ空気を吸いに行く。
外には遠巻きで見ているドワーフがチラホラと見える。流星は、一人のドワーフに近づき声をかけた。
「何かようか?」
「あの……ロックさんを、どうやって立ち直らせたのてすか? 俺達も色々やって来たのですけど……」
流星にも、その答えはわからない。「さぁな」と言って肩をすくめる。
「あいつは昔から一人でいるのに、他人に介入すると、妙に説得させられちまう。変な奴だよ」
だからこそ、クラスで一人を好んだアカツキを忘れている者は居ないのだと。
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