第八話 弥生とカホ、エルフの村を探す

 リンドウの街では、互いの伴侶が遠出している為に自宅でお茶を交わしていた弥生とカホの二人。

テーブルの横には木製のベビーベットが置かれており、そこにはフウカと、カホと流星の子クリスが仲良く並んで眠っていた。

クリスという名は、もちろん、これは亡き師であるクリストファーから頂いたものであった。


 優雅にお茶の時間を楽しんでいたカホと弥生であったが、スキル“通紙”を通して流星から連絡が入ってきた。

内容は、グランツ王国でアカツキと合流したという事と魔石の事。

そして、妻である自分達のことよりも、二人の幼い子供はどうしているのだとしか書かれていないことに少し二人は頬を膨らます。


「それじゃあ、アイシャさんとエルフのナーちゃんさんから魔石に関して話を聞けばいいのね。私の話題には触れないで」

「アカツキくんから流星を通してきた話だと、そうみたい。流星も同じだよ、酷いよね、やよちゃん。わたしも手伝って二人の鼻を明かそう!」


 続いて流星から、原田勇蔵という人物に関して何か知らないかと連絡が来る。

二人はその名前を聞くと、あからさまに嫌な顔をするのであった。


「げ、原田って、あの原田?」

「原田くん……か。正直言うと私は好きじゃないなぁ」

「それはわたしも一緒だよ。あの原田だよ、原田。わたしが知る限りやよちゃんに気があったんじゃないかな。よく、ジトーッて舐め回すように見ていたし」

「ちょっと、冗談でも止めてよ。ほら、鳥肌凄い」


 弥生は見事に鳥肌が綺麗に立った腕を、カホに見せつける。

冗談、冗談と笑いながら、カホは紙に原田に対しての印象を書いていく。


「でも、あの原田くんが今回の黒幕なのかな……確かに余り良い印象は無いけれども、あの馬渕と組んでいたというのもね。想像つかないや」

「そう? わたしの方はそうでもないよ。やよちゃんは当時誰にでも優しかったから印象無いだけ。わたしなんか、簡単に想像つくよ。例えば、馬渕がやよちゃんを狙った理由が、彼にあるとかね」


 弥生の持つ原田の印象は、良くない噂は聞くものの性格は小心者というイメージであり、馬渕とは余りにも対照的すぎた。


「どういうことなの?」

「あくまでも、わたしの想像よ。想像。例えば馬渕が『三田村をお前にやるから、手を貸せ』とかね」


 一気に弥生の背中に寒気が走る。もし、あの時ナックが助けてくれてなければ……想像しただけで悪寒は止まらない。

カホも、弥生の青ざめた顔を見て、ちょっと言い過ぎたかと反省するのであった。



◇◇◇



 弥生とカホは、フウカとクリスを乳母車に仲良く乗せると、その足でアイシャの元へと向かう。

いつもと変わらぬ賑わいを見せるリンドウの街。

道すがら顔見知りでもある白髪のよく似合うおじいさんとおばあさんが、フウカとクリスの話題を切っ掛けに二人に声を掛けて来る。

しかし、弥生は何故か落ち着きがなく、しきりに辺りを気にしていた。


「どうかしたの? やよちゃん」

「う、うん。何か見られているような気がして……気のせいみたいたけど」


 カホは先ほどちょっと弥生を脅し過ぎてしまったかと猛省して、落ち着かせようと弥生の手を繋ぐ。

弥生もカホの心情を汲み取り、心配かけまいと手を握り返した。


 二人が乳母車を押しながら、以前より大きくなったギルドの建物の前に着くと、乳母車を固定してフウカとクリスを抱き抱えて、扉を開いた。

酒場と併設している受付に、子連れそれも乳幼児を連れている若い年頃の女性が現れて、いかつくむさ苦しい男共は、色めき立つ。

中には声を掛けようとする者もいたが、二人の素性、特に弥生に関して知っている者が体を張って止める。

アカツキやルスカの名前を知らないギルドパーティーは、ほぼ存在せず、新たにギルドに入った者にも知れ渡っていた。


 なんか騒がしいなとしか受け止めず、何事もなくナーちゃんの元へと向かう弥生とカホ。ナーちゃんと隣にいたルルも二人に気づくと会釈をする。


「お久しぶりです、ナーちゃんさん。それと、ルルちゃんも」

「珍しいですね、弥生さん。それに、そちらは……」

「私の親友のカホです」


 弥生に紹介されたカホはナーちゃんとルルに軽く会釈をする。


「実は、お二人に聞きたいことがあって……」


 弥生は、二人に魔石のことを伝えた後、エルフの住み処が何処なのかを尋ねる。

ナーちゃんとルルは互いに顔を見合せ、何故か難しい顔をしていた。


「あの……どうかした?」


 言いにくそうな二人に、受付台に若干前のめりになり、ナーちゃんとルルの顔を覗き込むカホ。


「いえ、すいません。魔石……ですか。見たことは無いですが、確かに大昔エルフの一人が勇者パーティーに入ったとかなんとか……住み処の場所を教えるのは構いませんが、お二人はご存知無いみたいですので。

実はエルフには森エルフと山エルフの二つがありまして……私とルルは、森エルフなんです。ですから、山エルフの詳しい場所までは……」

「でも、勇者パーティーの話を伝え聞いているんだったら森エルフなんじゃないの? 魔石を持っているのは」

「はぁ……。私達は、そう主張するのですが、実は山エルフも同じような主張をしていまして……」


 会話の途中で受付横の扉がバタンと開かれる。上の階から降りてき姿を見せたのはアイシャであった。二人を見つけるとお尻の尻尾を振りながらアイシャは、嬉しそうに側へと駆け寄りフウカとクリスの顔を覗き込む。


「あれ、弥生さんにカホさん。珍しいですね、お二人が此処に来るなんて」

「ああ、アイシャさん。良いとこに来てくれた」


 弥生はアカツキと流星からの伝言を伝える。バーン・カッシュの曾孫であるアイシャに、バーンがルスカから魔石を譲り受けた話を聞いていなかと。


「曾祖父が? うーん、残念ながら聞いたことはないですね。実家は残っていますが、随分と長い間誰も住んでいませんから」

「じゃあ、場所教えてよ。わたしとやよちゃんが向かうから、調べてみるよ」

「ちょっと待ってください。一応グルメールにありますが、遠いですよ。お子さん連れていくのは危険です」

「だって、流星もアカツキくんも今グランツに居るしなぁ」

「わかりました、わかりましたよ。ワタシもついて行きます。もし、お二人やお子さんに万一の事があったら、ワタシ、アカツキさんとルスカ様に殺されます」


 アイシャは慌てて出かける準備をしに二階へと戻っていく。ギルド全体の統括官として忙しいはずだが、そんなことより、何よりルスカとアカツキが恐ろしい為に。


「それじゃ、ナーちゃんさん。話を戻すけど、山エルフか森エルフのどちらも行かないといけないってことよね」

「そうですね……でも、一言だけ。エルフって、両方めんどくさいですよ」


 弥生にとってそんなことはアカツキ達からエルフであるナーちゃんの話を聞く限り分かりきっていた。なので、問題無いと森エルフと山エルフの住み処を聞き出す。


「森エルフの住み処は、今は無くなりましたが帝都レインハルトの北東にある森の中にあります。アカツキさん達が向かうのなら、それだけで大丈夫です。その森をウロウロしていれば誰かしら現れます。何せ男性に飢えてますから」

「それは、私達にとって大丈夫じゃないんだけど……」

「山エルフはファーマーの街の北にあるエルラン山脈の何処かに居るはずです。分かりますか、エルラン山脈?」

「うん、分かるよ」


 エルラン山脈。馬渕率いるルメール教が逃げ込んだ場所。高い山々でグランツ王国とグルメール王国を二分している。

この山脈がある為にグルメールとグランツ王国はザンバラ砂漠を縦断しなければならないのだ。

そして、弥生達はもちろん、アカツキやルスカも知らないが麗華が馬渕に殺された場所であった。


「すいません、お待たせしました。仕事は全部ヤーヤーさんに押し付けて来たのでいつでも行けます」

「アイシャさんの実家はどの辺にあるの?」

「ワタシの実家は首都を越えた所ですね。結構距離ありますけど、馬車はどうしますか?」

「馬車かぁ。無駄遣いするわけには行かないしなぁ。ナックにでも相談してみるよ」

「じゃあ、わたしは流星に報告しておくね」


 弥生はアイシャを連れてナックの元へと向かい、カホはその場で流星へ連絡するのであった。



◇◇◇



 カホから連絡が来た流星は、内容を見て頭を抱える。幼子を連れて旅など無茶だと。流星は、アカツキの元に内容を伝えるべく部屋へ訪れる。


「おいおい。アカツキ、カホから連絡来たんだが、あいつら自分達で捜索するって言ってきたぞ。どうする?」

「はぁ……多分、そうなるかとは思いましたけど……。アイシャさんも居るなら、大丈夫でしょう。弥生さんは、馬渕との一件で自分は役に立てなかったって思い込んでましたから、今度こそは……ってことでしょうね」

「カホもそうだな。カホは最後は結局、此処グランツ王国に残っていたからな。その思いも人一倍強いかもしれないな」

「お互い大変ですね。仕方ありません。私がカホさんに連絡していいですか。ついでにナックへも同行してもらえるようにお願いしておかなければ」


 アカツキも流星も互いに苦笑いを浮かべると、ナックへのお願いを兼ねて渋々返信するのであった。

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