第七話 青年、魔石を探す
アカツキは流星と共に、グランツリーにある城の一角の部屋に案内されて体を休める。
そもそもグルメール王国のアイルという街で流星は、カホとクリストファーという老魔法使いと共に暮らしているはずである。
流星だけが、かなり距離もありザンバラ砂漠を越えてまでグランツ王国に来ているとは、アカツキも予想外であった。
アカツキと流星は、用意されたお茶が置かれたテーブルを挟んで座りアカツキがお茶に口をつけながら、流星に此処に何の用があるのか聞いてみる。
「いや、実はな。お前とルスカちゃんが此処に来ていると聞いて会いに来たんだよ」
「わざわざ、お一人でですか? カホさんはどうしたんです?」
「カホはお前ん家に居るよ。流石に赤ん坊連れて砂漠は渡れないからな」
「ああ、産まれたのですね。おめでとうございます」
カホが妊娠中であった事は出発前から手紙……というより、カホのスキル“通紙”で知ってはいた。
しかし、産まれたとしても最近のはず。
アイルの街からアカツキの家のあるリンドウの街に産後の体や産まれたばかりの赤ん坊を連れて移動するのは大変であると、予想は容易い。
「何か、あったのですか!?」
「ん……クリストファーの爺さんがな、死んだ」
ルスカを除けばこの世界で最高峰の魔導師クリストファー。改造魔族にされた弟子でもある麗華との戦い、馬渕の側近であったリリスとの戦いで生きているのも奇跡的な状態であり、弟子である流星とカホが看病をしながら一緒に暮らしていたのだが、カホの出産を見届けた後、息を引き取ったという。
ルスカの弟子を勝手に名乗り、多くの弟子を育て上げたクリストファー。
齢百三十二。魔王を倒す勇者パーティーに憧れたものの、魔王は百五十年周期で復活するために、産まれた年が悪かった。
それでも、アスモデス、そして馬渕という未曾有の危機に奮闘した偉大な老導師は、弟子に見守られてその生涯を閉じたのだった。
「それでな、爺さんが昔ルスカちゃんに貰ったっていう杖をな、返して欲しいと頼まれてだな。俺が持ってきた」
アカツキは、細長い麻袋から取り出した杖を受け取るとその先端に付いた赤い石を見て驚く。
「これ、魔石じゃないですか!」
ハッキリとしたことはルスカに見て貰わなければ真偽は不明だが、ずっとヨミーの魔石を預かっていたこともあり、恐らく間違いないとアカツキは感じるのであった。
大きさは、ヨミーのものに比べたら一回り小さい。
それでも、アカツキにとってはありがたい。何せ、見つかるかどうかも怪しい代物。偶然とは言え、今後にも希望が僅かに見えてきた。
「それがどうしたんだ?」
アカツキは流星に事情を話す。ルメール教のこと、ローレライの元の住人に会わなければならないこと、その為には魔石が必要なこと。流石にルスカに関しては伏せたが、粗方の事情を流星に教えると、流星は自分の胸を強く叩いて任せろと言う。
「今からリンドウに戻るのか? 忘れるなよ、今リンドウにはカホが居るんだぜ。スキル“通紙”で、グルメールの方はカホに任せりゃいい」
「いいのですか? 手伝って貰って……」
「ばっか、手伝うに決まってるだろ」
流星は大口を開けて笑い、アカツキの肩を何度も叩く。
「それじゃ、早速……」
「あ、ちょっと待って下さい。流星に聞いておきたいことが」
アカツキは、馬渕が作った方のルメール教の中に転移者らしい者が居たと話す。
「じゃあ、俺達のクラスメイトの中に馬渕に手を貸した奴がいるってことなのか!?」
「はい。それで私も考えたのです。誰が馬渕に手を貸そうとするか」
「あ? アカツキ、お前、クラスメイトの顔覚えていねぇじゃねぇか。俺とカホも忘れていたよなあ」
「いや、本当にお恥ずかしい……」
「うん、あれは本当に酷いからな。俺、まだ根に持ってるからな」
流星は唇を尖らせて膨れっ面をする。
「それで。そいつはどんな人相なんだ?」
「わかりません。ですが、人と形は、おおよその予想はつきます」
「へぇ、どんな……いや、待て。分かった、多くのクラスメイトを騙した位だから、かなり人望はあるな、ソイツ」
「逆ですよ。いいですか、ルメール教は馬渕が中心なんです。馬渕は優等生の仮面を被っていましたからね。
「クラスメイトに……って、お前も同じクラス……まぁ、いいか。うーん、そんなに当時の馬渕と対照的な奴って……」
流星は、頭を悩ませる。既にこちらに転移してきて八年経つ。仲の良い相手ならともかく、三十人以上のクラスメイト一人一人を思い出すには時間がかかる。
目を瞑り、出席番号順に一人一人を思い出す。
そして、流星はゆっくりと目を開いた。
「一人いた。原田勇蔵。当時は背はかなり低くて、かなりぽっちゃりしている男だ。やたらと汗かきだった印象くらいしかないが、確かにクラスメイト、特に女子からは嫌われていた気がする」
「覚えてませんね」
「だろうな、お前は」
その夜、流星はカホとスキルで連絡を取る。アカツキに付き合う事を伝え、弥生と一緒にグルメールでも魔石の在りかを探って欲しいと伝えた。
「ああ、原田の事も聞いておくか」
紙に日本語で、原田について知っている事があれば教えて欲しいと書く。
しばらくして、紙に勝手に字が浮かび返事が返ってきた。
“あまり思い出したい相手じゃないなぁ。あの時、流星は野球に夢中で女子に興味なかったから、知らないと思うけど、色々ヤバいよ。盗撮、下着泥棒、更衣室の覗きと、色々騒ぎになって必ず容疑者の名前に原田の名前が挙がるくらいだもん。盗撮写真で脅して関係を迫ったこともあるって噂も出るくらい。これはあたしの勘だけど、やよちゃんの事もジロジロ見てたし……当時、やよちゃん誰にも優しかったし、勘違いするタイプかも。今隣で、やよちゃん鳥肌立ったって”
「だとよ、アカツキ」
流星は、カホからの返信を流星から受け取ると、怪訝な表情をする。
アカツキは、弥生宛に気をつけるように念を押すように紙に書いた。
「ひとまず、アイシャのところにはカホと弥生が行ってくれるだろう。エルフに関しても、リンドウのギルドにいる受付からエルフの住み処を聞いてくれるってよ。で、俺達は、どうする?」
「ここのグランツ王国の建国者がルスカの昔の仲間らしいので、明日にでもイミル女王に聞いてみましょう」
流星は、自分の部屋に戻り床に就く。アカツキも自室のベッドに入り、天井を見上げながら、原田という男を思い出そうとしていたが、結局顔すら思い出せなかった。
◇◇◇
一方、ルスカは巨大なパペットの調整に勤しむ。
まずは、軽量化。
今でもヨミーよりも軽いのだが、それでも少しでも魔石の量を減らす為に必要な事であった。
「なんじゃ、お主らは?」
巨大なパペットの前で頭を捻るルスカの背後には、魔族がズラリと取り囲むように現れる。
ヨミーが「ナンヤナンヤ、ワイガ相手ニナッタルデ」と、シャドーボクシングを行い威嚇するが、魔族達は顔色一つ変えずにいた。
「あんたが、ルスカ・シャウザードなのか?」
「そうじゃが、お主らもしかしてアスモデスの一派か? ワシに喧嘩売るつもりか?」
ルスカは白樺の杖を突き出して、一歩前へと出る。ルスカを取り囲んでいた三十人以上は居ると思われる魔族達は、一斉に頭を下げた。
「頼む! 魔王様になってくれ!」
「お断りじゃ」
ルスカは、間を置かず直ぐ様断るのであった。
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