第六話 幼女と青年、一時の別れ

「アカツキ!」


 復興の作業に加わっていたアカツキは、ルスカに呼ばれて再びモルクの家に戻る。

ヨミーも作業を止めて、モルクの家に戻ってきていた。


「どうしたのですか、ルスカ?」

「うむ。やはりあの巨大なパペットを使う他に、山の先へ向かう手が見当たらぬのじゃ」

「だとした、諦めるしか……」


 大きさに比例して魔石の量も多くなり、現在のヨミーの三倍近い量が必要だとルスカは話す。

今回の事件の鍵は、やはり元々ローレライに住んでいた者達から話を聴かなければならないのだが会いに行くことすら困難な様子にアカツキも何か打つ手は無いものかと難しい表情をする。


「うぬぬぬぬ……、アカツキ。一ヶ月後に来る船で一度戻って欲しいのじゃ」

「私一人ですか? ルスカはどうするのです?」


 腕を組み頭を悩ませるルスカは、眉を八の字にしながら雲を掴むような話を始めた。


「ワシは何とかあの巨大なパペットを少しの量で動かせるように調整してみるのじゃ。アカツキは、ローレライに戻って魔石を何とか手に入れてくれ」

「しかし、魔石は無いのでしょう?」


 魔石を手に入れろというが、無いと言ったのはルスカだ。宛もなく戻る訳にはいかない。

しかし、ルスカは遥か昔の記憶を辿り、魔石の入手手段を絞り出していた。


「……僅かな可能性はあるのじゃ。ワシがドラクマから出た時に百体ほどのパペットをローレライに持ち込んだ魔石があるのじゃ」

「百体のパペット? あ、以前アイシャさんが仰っていたグルメール王国建国前に起こったルメール教を滅ぼしたという、アレですか!」


 ルメール教を名乗り魔王崇拝を謳ったグルメール王国が出来る切っ掛けを作った事件。ルスカが百体のパペットを使い住民達と共に奮起して見事に滅ぼしていた。


「う……よく覚えているのじゃ。そうじゃ、あれらは解体して前のヨミーを作る実験で魔石の殆んどをダメにしたのじゃが、残ったのは幾つか知り合い等にあげたりしたのじゃ」

「で、その知り合いってのは、誰です?」

「うむ。覚えておらぬ!」


 肝心の事が分からずアカツキは、困った表情をする。

ローレライは広い上に、手がかり無しでは途方もない時間が掛かってしまう。


「どういう知り合いか、分からないのですか?」

「どうって言われても……ワシは殆んどシャウザードの森から出なかったしのぉ。外出したのはアドメラルクを倒しに行くくらいじゃし……」

「それって……アイシャさんの曾祖父もですよね」

「あ、そうじゃ。よくよく考えたらワシの知り合いなど数しれておるわ」


 再びルスカは頭を悩ませ記憶を辿り、魔石をあげたと思われる人物を列挙する。

まずは、アイシャの曾祖父も入っていた、転移者と思われるリョーマという青年を中心とする前回の勇者パーティー。

もう一つは、前々回の勇者パーティー。その勇者の名前はグランツと言う。


「グランツって、グランツ王国の関係者ですか?」

「うむ。しかし、今のイミル女王とは血の繋がりは無いはずじゃ」


 他にも数人あげた気がするとルスカは言う。

結局、手がかりになりそうなのはグランツ王国とアイシャくらいなものであった。あとはかなり曖昧で、前回の勇者パーティーは転移者が勇者なだけあって、レイン帝国関係者が、パーティー内に居たことと、前々回の勇者パーティーの中にはエルフがいたというくらいであった。


「わかりました……取り敢えず探してみます」


 気の遠くなるような手がかりに頭が痛くなるアカツキは、ルスカを近くに呼び小声で話しかける。


「ルスカ。今あなたは魔法が使えないのですから気をつけて下さいね。万一アスモデス派が、アスモデスを倒したのがルスカだと知れば危険です」

「大丈夫なのじゃ、ヨミーもおる。モルクもおる。それより大変なのはアカツキじゃ。頑張って欲しいのじゃ」

「わかってます。それではあの巨大なパペットを表に出しましょうか」


 それからすぐにパペットの引き上げが始まる。モルクの指示で復興は一度中断となり、魔族や獣人なども手伝う。


 引き上げは古典的な方法で行われた。

まずは入り口を広げ、アカツキがエイルの蔦でパペットをグルグル巻きにしてパペットの下に丸太を敷き詰め皆でエイルの蔦を引っ張るというやり方。


「みんな、引けぇーっ!」


 モルクの掛け声で皆が一斉に蔦を持ち引くと、ゴロゴロと丸太の上をパペットが進む。ヨミーが言っていたように対魔法処理が施された装甲が無く見た目以上に軽いと言っても、人力で引き上げるのに、ほぼ丸一日を要するに事になった。


「表に出して改めて見ると、大きいですね」

「アカツキ、ご苦労様なのじゃ。皆もありがとうなのじゃ」


 汗だくになりながら地面にへたりこむアカツキにルスカは水を差し出すと、一気に飲み干してしまう。

突如出現した巨大なパペットの周りには、珍しがって群がる魔族達が見上げていた。


「モルク、すまぬが倒れぬように固定と屋根の建設頼むのじゃ、あと調整を手伝ってくれる作業員数名寄越して欲しいのじゃ」

「わかった、すぐに手配しよう」


 それから一週間ほどでパペットを雨風から防ぐため屋根と壁が作られた。



◇◇◇



 一月ひとつきは、あっという間で、アカツキはドラクマからローレライに戻る。名残惜しそうにアカツキにぎゅーっと抱きつくルスカ。


「先に調整が終わればワシも戻るのじゃ」

「ええ、待っています」


 アカツキは、待ってくれていたアデル率いる派遣部隊に合流すると、ゲートへ向けて去っていった。


「よし、寂しがってばかりいられぬのじゃ、さっさと調整終わらせるのじゃ」

「ヨーシ、ワイモ頑張ルデェ!」


 ヨミーもやる気を出して、勢いよく立ち上がると足元で何か割れる音がする。


「ン? ナンヤ、コレ?」

「あーっ! ヨミー何しているのじゃ、折角作ったやつを!」


 ルスカが調整ように作ったパペットの部品らしきものを踏み壊したヨミーは、その後復興の手伝いに回され、巨大なパペットに関わることはなかった。



◇◇◇



 ゲートを出たアカツキは、アデルと別れ船に乗りグランツ王国に戻ってくる。

アデルは新たに来た派遣部隊と共に、再びドラクマへと戻っていた。


 アデルの代わりにイミル女王へ報告を兼ねて城にあがったアカツキは、そこにいた人物に驚く。


「流星、あなたが、何故ここに?」

「久しぶりだなあ、アカツキ!」


 互いに握手を交わす。流星は髪が肩まで伸びて一瞬誰だかわからなかったとアカツキは笑う。

転移してから再会した当初、流星を覚えていなかったアカツキも流石にこれまで苦楽を共にしてきた人を忘れることはない。

懐かしがる二人であったが、積もる話は先に延ばしアカツキはイミル女王に、アデルからの伝言を伝えた。


「そうですか。アカツキ様、お部屋を用意してあるのでそこで休んでください。誰か、アカツキ様をお部屋に案内して!」

「はっ!」


 アカツキは先導してくれる兵士の後ろを流星と共に歩く。

流星が何故ここにいるのか……偶然とは奇妙なものだとアカツキは知るのであった。

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