第四話 ヨミー、復活する

「これはまた、随分と大きいですね……」

「城の地下にこんなものがあるとは……」


 少なく見ても十メートルは越える巨大なパペットが、そこには鎮座していた。

アカツキもモルクも、その巨大さに嘆息する。


「それは、動かせぬのじゃ。ほれ、ワシの目的はこっちじゃ」


 巨大なパペットの影に隠れていた隣のパペットを指差すルスカ。

それは、以前のパペットよりも小さく背丈がアカツキ程しかない。

それでも、フォルムは四角い顔、三本の指、胴長短足の三頭身とヨミーと何ら変わらない。


「こっちですか」


 アカツキはあからさまにガッカリしていた。巨大なロボットみたいなパペット。アカツキの内に眠る少年心がくすぐられる。


「そんなにそっちが良いのか? しかし、無理なのじゃ。魔石が足らぬ」


 ルスカは人と変わらぬ大きさのパペットに被った埃をモルクに手伝ってもらいながら叩き落とす。


「しかし、通路にもあった以前のヨミーさんと大きさの変わらないパペットではなく、何故この小さい方なのです?」

「元々、ヨミーは戦闘用で人の壁になるために作ったものを、そのままワシの身の回りの世話をさせる為に改良したものじゃ。それに話をすることが出来るパペットは、これだけなのじゃ。まぁ、以前の様におかしな喋り方はせんじゃろうが」

「関西弁ですか。タツロウさんが寂しがりますね」


 ヨミーの関西弁は、偶然の産物でルスカも原因がわからない。そもそも、ヨミーから抜き取った魔石とはいえ、ヨミーの記憶が残っている訳ではない。

ヨミーの魔石を使った、全く別のものとして、目の前のパペットは稼働するのだ。


 アカツキは、アイテムボックスに仕舞っていた赤い魔石を取り出し、ルスカに手渡す。

ルスカは、モルクとアカツキにパペットの上半身を持ち上げてくれと、お願いし、モルクとアカツキで、上半身を動かして連結している凹凸を合わせると、力を込めて持ち上げる。二人がかりでもかなり重いようで咄嗟にアカツキはエイルの蔦も使い支えた。


 外れた腰の部分にルスカは魔石を置くと、アカツキとモルクはゆっくり凹凸の連結部分を合わせて上半身を降ろす。

しばらく待つが、うんとも寸とも言わない。


「壊れてるのですか?」

「むう……随分と昔に作ったからのぉ。えぇい、何か動け!」


 ルスカは苛立ちパペットを蹴ると、パペットは突如両腕を振り上げ、驚いたルスカは尻餅をつく。

両腕を振り上げたまま、小刻みに揺れ出すと腰と頭が激しく回転し始める。

モルクがルスカの前に立ち身を守り、アカツキがエイルの蔦で動きを止めようとした、その時──回転していた頭と胴体が正面で動きを止めた。


「フワァー、ヨォ寝タワー」


 パペットがするはずがない、背伸びと喋り方。


「よ、ヨミー……?」


 ルスカがモルクの影から呼ぶと、パペットはルスカの方へ反応して顔を向けた。


「久シブリヤナ、ルスカサマ。シバラク見ィヒン内ニ随分ト大キィナッテェ」

「あ、アホか。お主が縮んだんじゃ」


 それは、まさに奇跡。そして、ルスカ曰く、記憶だけでなく関西弁まで戻る“奇跡の無駄遣い”。


「アカツキモ、随分大キイナッタナァ」

「いや、貴方が小さくなっただけですよ」

「アカーン! チャウガナ! 今ノハ、ボケタンヤ! ソコハ『ナンデヤネェン』ト、ツッコンデクレナ。アカン、アカンハ、キミ。タツロウハ、タツロウハドコヤ? ワイノ相方ハ、アイツシカオレヘン」


 キョロキョロとタツロウを探し始めるヨミー。もちろん此処にいるわけもなく、ガッカリと落ち込んだ。


「以前から、こんなに変なのですか?」

「いや、変なのは前からじゃが、ここまでは……」


 こそこそとアカツキとルスカが話す中、ヨミーは自分の今の体の調子を確かめながら体を動かしていた。


 新たにヨミーを連れて地上へと戻ると、モルクがお茶でもと言うので誘いを受けることに。魔族の中でも重鎮であるモルクの現在の家は、ただの掘っ立て小屋。

そこに一人で暮らしているのか、自らお茶を淹れ始める。


「しかし、お二人がドラクマまで派遣部隊を率いてくれたとは。感謝しかない」


 モルクはテーブルにお茶を並べると、頭を下げる。


「ワシらの目的は、ヨミーと派遣のことだけではないのじゃ」

「と言うと?」

「ルメール教。あれが今どうなっているのかを聞きたいのじゃ」


 モルクはルメール教と聞いて、真っ先に馬渕の顔を思い浮かべる。自分を手駒に取りアドメラルクをアスモデスに殺させ、アスモデスを改造魔王に仕立てた馬渕。忌々しいこと、この上なかった。

普段から強面の顔を更に歪ませてしまう。


「すまぬの。お主には思い出したくないじゃろうが、ちょっと気になってな」


 ルスカはモルクの淹れたお茶をすすりながら、モルクの気持ちを汲み取る。

モルクは、馬渕の顔を暴れて振り払いたいのを我慢して、少し深く深呼吸をすると、ルメール教について話を始めた。


「馬渕が死んだ後、我々の方でここドラクマに隠れていたルメール教は一人を除いて捕らえた。人数は馬渕含めて八人。メンバーの殆んどが人で魔族は、リリスともう一人のみ。捕らえた者から聞いた話だと、主な目的は転移者探しだったようだ。人が多いのはローレライでの活動が多かったからみたいだが」

「転移者探し……ですか」


 馬渕は、同じクラスメイトを言葉巧みに集め人体実験のような事をしていたと自らが話をしていた。そして、弥生も危うくその一人になりかけたのだ。

その人体実験の成果が改造魔族であった。


「ちょっと待つのじゃ。八人じゃと? それも一人除いて全て捕らえたのか? それではリンドウの街やグランツリーに現れたルメール教の紋様のメダルを持っていたあやつらは、何者なのじゃ?」

「どういうことだ?」


 ルスカとアカツキは、モルクに会いにきた事情を話す。しばらく考える素振りをするモルク。


「もしや、逃した一人が新たに?」

「可能性は無くはないのじゃ。捕らえた奴らから、そいつがどんな奴か聞けぬのか?」


 モルクは残念そうに「全員忽然と消えた」と言う。そして消えた状況がリンドウの街での一件と同じで、しっかり足枷で繋いでいたはずが、足枷の鍵は閉まったまま消えたのだと。


「だが、消える前に、そいつに関して多少は自白しておった。なんでも人は人だが、転移者ではないかという話だ」


 アカツキは立ち上がり驚くと、テーブルを強く叩く。あり得ないと。

もし、本当に転移者なのだとしたら、馬渕の凶行に手を貸していたことになる。

自分のクラスメイトの中に馬渕に同意するような者がいるとは、信じられなかった。


「待て待て。あくまでもそうではないかと言う話だ。何でもそいつは馬渕に対して、昔からの知り合いのような態度だったという。慇懃無礼な奴など、そこかしこにおる」

「しかし、それだけで転移者とは……」

「本当かどうかはわからぬ。しかし、捕まえた転移者が最期に恨み言を馬渕とそいつにだけ言っていたらしい」

「名前は、わからないのですか?」


 モルクは黙って首を横に振る。しかし、話を聞く限り転移者である可能性は、非常に高かった。


「我もルメール教に関しては多少関わりはしたが、出会ったのは馬渕とリリスのみだ。馬渕が何をしていかは知らなかった。すまない……お前の仲間を」


 アカツキ自身、それほどクラスメイトに強く関わってきた訳ではない。多少顔見知りより、やや知っている程度。

それでも、アカツキは、何処かやりきれない気持ちで一杯になる。


 カホと出会い、流星と出会い、タツロウと出会い、麗華と出会い、何より弥生と出会った。

クラスメイトと異世界のこの地で再会したことは、アカツキにとっても、人として成長させてくれた。

麗華のことは、いまだに弥生に麻薬を盛ったことを許せはしないが、それでも結末を聞き馬渕に踊らされたことで、悲惨な末路を辿ったことには同情もしていた。


 だからこそ、馬渕の凶行を隣にいながら止めなかった、そいつが許せなかった。


「ルスカ、他に手がかりは、無いのでしょうか……」

「……何故そいつが未だにルメール教を利用しているのか……まずは、ルメール教とは本来何かを話さねばならぬのじゃ」

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