第三話 幼女と青年、ドラクマへ③

 グランツ王国の女王イミルにリンドウの街での一件を話したアカツキ。


「グランツリーでも同じような事があったと聞きました。よければ詳細聞かせて頂けませんか?」

「それについては私から話しましょう。陛下、よろしいですね?」


 アデル王配は、見て貰いたい場所があるとアカツキとルスカを連れて女王の間を出ていく。その場所へ向かう道すがらアデルが話したのはリンドウの街と似通った事件であった。


「では、やはり跡形もなく?」

「はい。ルスカ様の仰った“歪み”が原因だと思います。しかし、互いに似たようなことから偶然発生したとは考えられにくくなりました」


 ルスカとアカツキを連れて来たのは、地下牢。牢はもぬけの殻で、恐らく繋がれていたであろう足枷が無造作に置かれており、他にも槍と鎧兜が落ちていた。


「実は、見張りの一人が居なくなった直後、中に入ったのです。そして、もう一人の兵士が目撃しました。人が砂状になり壁の中へと吸い込まれていくのを!」

「ルスカどうですか?」

「もう歪みは閉じておる。入っても大丈夫じゃ」


 アカツキはアデルにお願いして牢の中を調べるが、特に何ら変わりはなく一通り調べて出てくる。


「捕まえた泥棒が持っていたのが、このメダルです」


 アデルから受け取ったメダルには、間違いなくルメール教の紋様が刻まれていた。


 アカツキは自分達の目的がドラクマに行きモルクから、ルメール教の現在の状況を聞くつもりだと話す。そして、ドラクマへ向かうに辺りもう一つ。

再びイミル女王に会うと、ドラクマへ復興の人材派遣の件を話した。


「確かにモルクから、そのような手紙を受け取っております。近々派遣するつもりでした。そうですよね? アデル」

「はい。募集は終了しており千人規模で派遣の予定です」

「実は、その件で一つ考慮して欲しい事が……」


 アカツキはアデルに然り気無く、目線で人払いを匂わせる。アデルは見張りの兵士を外に出し、未だにいたチェルシーにも出てもらう。


「私だけ、除け者ですかぁぁぁぁ!」


 渋るチェルシーを強引に兵士が連れていく。これで女王の間に残ったのはアデルとイミル女王の二人。

アカツキは、ルスカの事と食らうものの事は伏せて、獣人の派遣について待ったをかけた。

詳細は伏せ、獣人がドラクマに長期滞在すると身体に良くないとだけ伝える。


「それで一ヶ月毎の交代制ですか」

「はい。グルメールからも此方にドラクマへ派遣する者達がやってくるでしょう。その際、グランツ王国の方で取り仕切って貰いたいのです」

「わかりました。陛下。このアデルを責任者として任命してください。私自ら指揮を執った方が良いでしょう」

「アデル。お願いできますか?」

「はっ!!」


 アデルはイミルの前に出て跪く。

その後、アデル自らドラクマへと向かうとアカツキ達に話し派遣部隊と共に同行することに。


 派遣部隊は、人と獣人の混合でまずは五百人。


 アカツキとルスカ、そしてアデルはグランツリーの北門から抜けてドラクマへ続くゲートへと向かうのであった。



◇◇◇



 アカツキ達は、グランツリーの北にある海を目指す。ドラクマへ続くゲートは海の中。小さな漁村へ着いた五百人の派遣部隊に村民は、慌て出す。

しかし、アデルが村民に事情を話し船を出してもらうようにお願いするも、漁村には小舟くらいしか無いという。


「まずは船造りからじゃな」


 最初の派遣部隊の初仕事は、船造りとなった。大仕事だが、派遣部隊にいた獣人達の働きは素晴らしく重労働を全く過酷と思わず、僅か一週間で百人規模の船を五艘完成させた。


 各船に漁村から船乗りを雇い、船は海を進む。


「ルスカ。この辺りですか?」

「うむ。やるのじゃ」


 ルスカは船頭に立ち、両手をかざすと海が荒れ始め船が揺れ出す。

そしてしばらくして海中から島が浮かび上がってくる。

派遣部隊は島に上陸し、アデルは雇った漁村の船乗りに一ヶ月後迎えに来るようにお願いすると、船は去っていった。


 平坦な島には魚などが打ち上げられていた。ルスカを先頭に島の中心へと向かうと大きな穴が地面に開いていた。

中を覗くと何処まで深いのかわからないくらいに、闇が続く。


「これがゲートなのですか?」

「そうじゃ。ここから飛び降りるのじゃ」


 派遣部隊の人たちは、ざわざわと騒ぎ出す。大の大人が怖がってどうすると、ルスカがお手本として穴へと飛び込み、アカツキもそれに続く。


「ここで一ヶ月待つのですか?」


 アデルの言葉に、後に引けなくなった派遣部隊も次々と飛び込み、最後を見届けてアデルも飛び込んだ。


「ついたのじゃ」

「ここが、ドラクマ!?」


 ドラクマ側のゲートも島と同じく地面に穴が開いており、そこから次々と派遣部隊五百人が吐き出されていく。


 魔族と魔物の住む世界。もっと、おどろおどろしいものを想像していた一団は、緑が広がり、自分達の住むローレライと何ら変わらない世界に驚く。

唯一、ローレライと違うのは空が赤いくらい。


「夕方? いえ、違いますね。日は高い」

「んーー! 久しぶりなのじゃ」


 ルスカは大きく背伸びをしてドラクマの空気を吸い込む。


「不思議ですね……何処か懐かしさすら感じます」


 アデルの言葉に、派遣部隊の面々も同意するものが多数見受けられた。


「それはそうなのじゃ。ドラクマは始まりの地じゃからのぉ」


 ルスカは、そう言うと岩場を飛び乗っていき、今居る高台から降りていく。

アカツキも後に続くと、アデルの指示で派遣部隊もルスカの後ろをついていくのであった。



◇◇◇



 ドラクマには街と呼べるものが一つしかない。そして街の中心的な建物であった魔王が住む城は、瓦礫の山と化してルスカの目の前にあった。


「ワシの城が……」


 ガックリと両ひざをついて落ち込むルスカ。元魔王として権威を失ったなどではなく、ただ思い出を失った……そん気がして。

大挙して人がドラクマに来たと聞きつけ、モルクとモルクの副官であろう魔族の男がやって来たのはそんな時であった。


「おお。よく来てくれた。感謝する」


 牙を生やし四つ目の強面顔のモルクを見た派遣部隊は尻込みするが、アデル王配とルスカ、そしてアカツキは平然と握手を取り交わす。


「早速だが、復興を手伝うにあたって色々決めたいのだが」

「ああ、バルス!」


 バルスと呼ばれた副官らしき男。青い肌に白い瞳と顔色が悪く見える。


「あれ? あなた、たしか……」


 以前アドメラルクの使者としてナック邸を訪れた魔族であり、アカツキは面識があった。


「その節は。今はアドメラルク様の想いを継いだモルク殿に従っております」


 以前出会った頃より、随分と態度が軟化していた。魔族と人との距離が縮まった影響だと思われた。

アデルは派遣部隊を引き連れてバルスへついていく。


 そしてアカツキは、本来の目的を果たすべくモルクにルメール教の現状を尋ねようとするが、ルスカが「野暮用を先に済ませたい」と割って入ってきた。


「モルクよ。城の門はこの辺りじゃったか?」

「そうだな。大体その辺りだ」


 瓦礫の山の前に立ったルスカは瓦礫を登り始める。それを見たアカツキはエイルの蔦でルスカを掴むと容易く瓦礫の頂上へ。


「次は何処に?」

「そのまま真っ直ぐじゃ。アカツキ」


 ルスカを抱きかかえたアカツキはエイルの蔦を器用に使い瓦礫を飛び越えていく。魔族のモルクでもついていくのがやっとにも関わらず。


「そこを左じゃ」


 昔いた城を思い出しつつ、ルスカは目的の場所を目指す。


「アカツキ、そこじゃ。止まって欲しいのじゃ」


 到着した場所はやはり瓦礫が積まれており特に何も見受けられない。ルスカはアカツキから降りると魔法で瓦礫を吹き飛ばそうとするも、アカツキに止められる。代わりにとアカツキは、軽々と瓦礫を取り除いていく。

すると、瓦礫に埋もれた地下への扉が出てきた。


「ここにこんな扉が……」


 モルクも知らなかったようで、驚いていた。アカツキは扉の取っ手を力一杯引く。重く分厚い石の扉が、ギギギと鈍い音を立てて開かれた。


「ルスカ、ここは?」

「昔のワシの研究室みたいなものじゃ。アカツキ、ランプを」


 アイテムボックスからランプを取り出して明かりを灯すとルスカを先頭に地下へと降りていく。


「ここを封じる為に、この扉の上に城を建てたのじゃ。パペットを悪用されんよつにな」


 階段を降りるとひんやりとした地下道へ。ルスカが壁にランプの明かりを向けると、そこには様々なパペットと思われるものが立ち並んでいた。

どれもこれも大きさは、ヨミーほどある。

ルスカは、それらを無視して先へと進む。

アカツキとモルクも追いかけるが、道は途切れており行き止まりになっていた。


 しかし、そこでアカツキとモルクが見たものは、他のパペットの大きさと同じくらいの頭をした巨大なパペットであった。

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