第二話 幼女と青年、ドラクマへ②

 夜のザンバラ砂漠は昼と違い、むしろ冷え込む。アカツキとルスカは、砂埃から身を守るのもあり、大きな毛布を被り馬に乗って砂漠を進む。


「ペッ、ペッ……口に砂が入ったのじゃ」

「もっと口元まで覆ってください」


 二人は月の無い暗い砂漠をひたすら休まずに進んでいく。人通りが増えたとはいえ、やはり砂漠を進むには危険が伴い、すれ違う人は、少ない。

それでも、たまにすれ違う人がいるのは、平和な証。

アカツキもルスカも、今回の事は杞憂に終わって欲しいと願っていた。


 夜通し進むも広大な砂漠。日は徐々に真上へと昇り始めていた。

それでも毛布は砂埃を防ぐのと、直接日光を受けないように被るしかない。

日が昇ると何度か岩場で休憩を挟みながら水分を摂取する。


「あれ、確かこの辺りでしたよね。ルスカと出会ったのは」

「違うのじゃ、もっと東のはずじゃ」

「いえいえ、ほらあの岩場。出会ってすっぽんぽんだったルスカを連れて行った岩場ですよ。あの形、覚えてますよ」

「うっ……そ、それは忘れて欲しいのじゃ。いや、しかしあんな岩場だったかのぉ」


 二人が出会い約二年。短くも長い時間一緒にいたことを二人は懐かしみながら旅を続けるのであった。



◇◇◇



 ザンバラ砂漠を抜けた後、アカツキ達はグランツ王国へ入ると首都のグランツリーへ向かう前に、新しく出来た街へと入っていった。

まだ名前すらない、この街はグランツ王国とグルメール王国の両国の協力で完成したばかり。

砂漠を進む旅人にとって、起点となる街なのだ。


 砂漠を進み疲れ果てた馬を休ませる為に、宿をとり馬に水を与える。


「初めての旅、お疲れ様なのじゃ。あと少し、よろしくなのじゃ」


 砂だらけの馬体をルスカは掃除をしていく。その間、アカツキは宿の台所を借りてご飯を作っていた。


「アカツキ、終わったのじゃあ」

「着替えそこに置いてますからね」


 案の定、水浸しのルスカを予想していたアカツキは、椅子の上にルスカの着替えを一式用意していた。

濡れた服を床に置き、すっぽんぽんになったルスカは新しい服へ着替える。


「アカツキ。この服は……」


 熊ちゃん印のパンツを履いたルスカは、真っ白なワンピースを手にして困惑する。旅をする衣服ではないし、まだ、弥生が妊娠中にルスカに買ったお出掛け用で、ルスカ自身もすぐ汚してしまうので、あまり着たことは無いものであった。


「どのみちグランツリーに行けば、すぐにイミル女王と会うのですから、我慢してください」

「そうじゃが……」


 渋々白のワンピースに袖を通すルスカだが、背中のボタンが止められない。


「アカツキ~。止めて欲しいのじゃあ」


 アカツキは握っていたおにぎりを置いて布で手を拭くと、ルスカの背丈に合わせて屈み、白く透明な肌をした背中をボタンを止めて隠していく。

ついでにと、ルスカの髪をとかし、纏めた髪をアップして後頭部で髪止めで固定してやる。


「出来ましたよ」

「鏡借りてくるのじゃ」


 ルスカが宿の主人のもとへと走り出すと、アカツキは濡れた服を拾いアイテムボックスへとしまうのであった。



◇◇◇



 食事を摂ったあと少し休憩したアカツキ達は、宿に泊まることなく出発する。

馬も元気を取り戻し軽快に旅を続ける。

街道に入ると、行き交う人も増えてきて首都グランツリーが近いことを指し示す。


「アカツキ! 見えたのじゃ」


 街道を北へと進み始めてから数時間。ようやくグランツリーにある城の先端が見えてきた。

最初に来た時は、貴族街と一般の街との境界線にあった城壁は取り除かれて、今まで無かった真っ白な外壁が首都全体を取り囲む。

魔王もおらず、時折魔物が現れるくらいではあるが、それでも万が一に備えて作られた外壁。

門の前には、街へ入る為の行列が出来ていた。


「随分と厳重ですね」

「そうじゃの。言われてみれば確かに」


 一人一人丁寧に荷物検査を行っている。当たり前といえば当たり前の行動ではあるのだが。アカツキ達の番になり門番二人がアカツキへ付く。


「次! 何処から来た?」

「グルメール王国のリンドウの街からです。何かあったのですか?」

「数日前に城に泥棒がな。捕まえはしたのだが、牢から逃げられてしまってな。ところで、お前たち荷物は? まさか手ぶらで砂漠を越えたのか?」

「ええ、まぁそうです。問題でも?」

「一応聞くが、変わった紋様のメダルとかは、持っていないか?」

「メダル……ですか? いえ」

「そうか。よし、通れ」


 アカツキ達は何事も無かったように門を通ると大通りから脇に逸れて小道へと

入る。


「ルスカ。もしかして……」

「うむ。リンドウの街と状況が似ておるのじゃ。泥棒、牢から居なくなる、紋様の入ったメダル……急いで城に行ったほうがよいのじゃ」


 アカツキ達は馬を返して大通りに戻り一路城を目指す。

王国の首都でありその中心である城。もちろん、ここにも警戒する門番が多数いた。


「止まれ! 何のようだ!」

「私はアカツキ・タシロ。この子はルスカです。急ぎイミル女王に二人が来たと伝えてください」

「女王様にだぁ……」


 門番は、ジロジロとアカツキやルスカを見定める。粘着するような不快な視線。


「アカツキ」


 アカツキを見上げるルスカの顔には「ぶっ飛ばしていいか」と書かれており、アカツキは黙って首を横に振る。


「ダメだ、ダメだ。お前らみたいな奴に、会わせる訳にはいかない。帰った、帰った!」

「そうですか。急いでいるって言ったんですがね」


 アカツキの背中から五本の翠色の植物の蔦が伸び、門番を弾き飛ばし城門の閂を地面を通り外すと門を押し開けて入っていく。


「お主がやるのじゃな……」


 専売特許を取られルスカは何処か寂しそうである。

騒ぎを聞き付け、警備の兵士が集まり出す。


「アカツキさんに、ルスカちゃん! どうして此処に。あっ、兵士の皆さん引いてください。この方々はイミル女王様の友人ですから!」


 殺気立つ兵士がアカツキ達を取り囲むも、兵士に紛れて現れたのは、元勇者パーティーの一人、現在実家のあるここグランツリーでシスターとして教会を一手に任されたチェスターである。


「お久しぶりですね、チェスターさん」

「そうですね……って、何で騒ぎの原因が貴方なんですか、アカツキさん!」

「なんじゃ、もしかしてワシかと思ったのか?」

「いえいえ、滅相もない!!」


 チェスターは慌てて取り繕い誤魔化すと、兵士に二人が安全だと伝え、自ら城の中へと案内してくれた。


 王の間から新たに女王の間らしく、内装には花などが飾られて女性らしい雰囲気へと変わっていた。


「お久しぶりです、イミル女王陛下」

「ああ、頭を上げてください。それよりも話は兵士から聞きました。もう少し普通に入ってこられないのですか」

「はは。申し訳ない、まぁ、ルスカに城を壊されるよりマシでしょう」

「イミル女王陛下。兵士にもう少しお二人の事を熟知してもらった方がいいかもしれません」


 女王として最低限に着飾ったイミルの隣には、元側近であったアデルが立ち進言してきた。アデルは現在女王の配偶者、王配となっていた。


「アデルさん。いや本当に申し訳ない」


 アカツキは、少しやり過ぎたかと反省する。


「それで、今日はどうされたのですか」


 イミル女王が早速本題へと移ると、アカツキは、リンドウの街の一連を説明するのであった。

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