第十話 青年一家、ピクニックを満喫する

 想像以上に元の姿を取り戻しつつあった丘は、当事者であったアカツキ達に時間の経過を感じさせた。

丘だけではなく、アカツキ達は丘からリンドウの街一帯を望む。

魔王アスモデスに破壊され尽くしたリンドウの街は、以前以上の姿を取り戻していた。


 失われても取り戻せるものなのだなと、アカツキ達は感慨深いものを感じていた。


「アカツキ、アカツキ! フウカにも見せるのじゃ」


 乳母車からフウカを出すとアカツキは、ルスカへと渡す。フウカを抱っこしながらルスカは石に腰を降ろすとフウカに、リンドウの街の景色を見せる。


「どうじゃ? 彼処がワシらの街じゃ、フウカ」

「あー、あぁ~」


 フウカはまるでリンドウの街を掴もうと手を伸ばして動かす。そんな二人をアカツキと弥生は敷物を敷いて見守るように眺めていた。



◇◇◇



 楽しみにしていたお弁当を敷物の上に並べる。おにぎりと唐揚げ、卵焼きとエビフライ、それと鮭のフライ。

ルスカは自分用に分けていたゴマが振りかかったおにぎりを手に持ち、エビフライをつまむ。


「美味しいですか、ルスカ?」

「旨いのじゃ!」


 ルスカがエビフライを噛るとサクサクと心地よい歯ごたえとプリプリのエビに舌鼓を打ちつつおにぎりを噛る。

口一杯に頬張るルスカを見て、アカツキと弥生は笑みが漏れた。


「フウカも早く食べれるといいのじゃがの」


 まだ二ヶ月のフウカは、ルスカの差し出したおにぎりに興味を抱き、掴もうと手を伸ばす。


「まだ、早いですよ。ルスカ」


 アカツキに諭されルスカがおにぎりを自分の口に入れると、フウカは急に愚図りだしてしまった。


「わ、わ、わ、どうしたのじゃフウカ。よしよし」


 食べかけのおにぎりを敷物の上に置きルスカはフウカを抱っこしながら体を揺する。


「ははは。もしかしたら、ルスカちゃんにおにぎり取られたって思ったんじゃないかな?」

「え? ち、違うのじゃフウカ。ごめんなのじゃ、意地悪したわけじゃないのじゃ」


 ルスカはフウカをあやしながら、少し丘を歩き出す。普段フウカが愚図り出すと、歩きながらあやさないと中々泣き止まないのだ。


「ふふふ。すっかりお姉ちゃんね、ルスカちゃん」

「そうですねぇ。でも子供の成長は早いですよ。いずれ逆転しますよ」


 これ以上成長しないルスカと成長真っ盛りのフウカ。弥生はそう遠くない未来にフウカがルスカを抱っこする姿を想像して吹き出してしまう。


「アハハハ! ルスカちゃんが『お姉ちゃんなのに……』って困惑する姿が目に浮かぶわ、アカツキくん」


 ようやく泣き止みかけたフウカによって、指を口に突っ込まれて横に引っ張られ鼻を押されて、されるがままに変な顔にされたルスカは、既に困った表情をしていた。



◇◇◇



 お弁当を食べ終えたルスカ達。敷物の上では弥生はフウカの側で眠りについていた。夜泣きなどで慢性的な寝不足の弥生。アカツキとルスカは、少し離れた場所にある石の上に腰を降ろしていた。


「いい街なのじゃ」

「そうですね。人々も優しい人ばかりで……もう、以前のようにしてはいけませんね」


 ルスカは頷くと手に持っていた瓶の蓋を開けると、一つだけイチゴの飴玉を手に取り口へと放り込む。コロコロと口の中で転がしながら、隣に座っていたアカツキの足の間に移動する。


「アカツキの言う通りじゃ。この街を危険に晒してはならぬのじゃ……だから、明日から昨日の件を調べるのじゃ、ワシは」

「ルスカ。あなたが一人背負う必要はないのです。私もいます。ナックもいます。弥生さんだって……。だから、そんなに気負わないでください」

「うむ、そうじゃの。ワシにはアカツキがいるのじゃ!」


 不安は払拭されてルスカは満面の笑みをアカツキに見せつける。

アカツキとルスカは、この日再びパーティーとして始動するのであった。



◇◇◇



 気が晴れたルスカは丘に寝そべり弥生達と、一眠りすることに。

昨日は、ルメール教のことでの不安やピクニックの興奮で、寝不足気味ということもあり、直ぐに深く眠りに入った。


 アカツキは一人、座って空を眺めながら自分の体内に神獣エイルや、同じ神獣のレプテルの書にルメール教について問いかける。


 表向きは魔王信仰、しかし実態は只の犯罪集団。ルスカからは、そう聞いていたのだが、魔王がいない現在、表の顔が無くなることになる。

にも関わらず、タイミングよく牢屋に歪みが生じるのは少々おかしいと、アカツキも思っていた。


 しかし、元々寡黙なエイルはともかく、レプテルの書まで回答が無い。聞けばホイホイと答えるレプテルの書。アカツキは何度となく問うが、返答は一切なかった。


(答えが無いのではなく、)


 流れる雲を眺めながらアカツキは、嫌な胸騒ぎが治まらずにいた。



◇◇◇



 ピクニックの翌日アカツキとルスカは、まずはナック邸へと足を運ぶ。

ナック同席のもと地下の牢屋へ向かい、泥棒達が消えた場所を調べるためだ。


「忙しいのにすいません」

「いやいや、俺も気になるし、何よりお前たちの頼みなら断れんよ」


 牢の前に到着するとルスカは、危険がないかどうか確認したあと中へ入る。

恐らく泥棒たちが繋がれていたであろう、壁から伸びる鎖の先には足枷。それが無造作に残されていた。

そうそう容易に外せないと思わせる分厚い足枷だが、鍵は閉じられたまま。

つまりは繋がれた状態で消えた事を意味していた。


「血のあとも無いですか……」

「言ったじゃろ。塵になるって。血液一粒残さず、な」

「手掛かりになりそうなものはねぇな。で、どうするんだ、これから」


 ナックはお手上げだと身振りで示す。アカツキも、これ以上は手詰まりであり、二人の視線はルスカへ集まる。


「手掛かりは、ルメール教の紋様の入ったメダルしかないのじゃ。もしかしたら、馬渕と関わりのあったなら何か知っているかも知れぬのじゃ」

「あやつ?」

「うむ。あやつ……今は魔族を取り仕切っている、モルクじゃ」


 魔王アドメラルクの側近で老獪な魔族モルク。一時はアスモデスに従ったものの捕らえられた後、解放され魔族を取り仕切る者が不在となったドラクマへ戻っていった。


「だとしたら、ドラクマへ行かないといけないってことですか?」

「うむ、そうじゃの。それについでにもう一つ。ヨミーの奴を復活させるのじゃ!」

「ドラクマか……行くならグランツ王国の北側からになるな。悪いけど、俺はそこまでついて行けねぇ。ここを離れる訳にはいかないしな」


 ナックは本当に申し訳なさそうに眉間に皺を作る。


「ありがとうございます。グランツ王国へは私とルスカで向かいます。ですが、一つお願いが。弥生さんとフウカの事、お願いしていいですか?」

「あ、当たり前だろ! お前もヤヨイーも俺にとっては大事な親友だ!」


 ナック邸の門前でナックと別れたルスカとアカツキは、直ぐにでも出発する事を決めて、一度家に戻り弥生に事情を伝える。


「ドラクマに? また随分遠くに……。はぁ、仕方ないなぁ。相変わらずだね、二人とも」

「すいません、弥生さん」

「すまぬのじゃ、ヤヨイー」


 いつものことかと弥生は、無事に戻って来ることを約束させて、二人を見送るのであった。

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