エピローグ

エピローグ レイン帝国~ドゥワフ国

◇◇◇レイン帝国◇◇◇


 馬渕が倒されて、早二ヶ月が過ぎようとしていた。

グランツ王国の首都グランツリーでは、早くも二度目の三国会議が行われていた。


 出席者は代表としてルスカ、グルメール王国からはパクことエルヴィス国王本人と、同行者としてマンが参加していた。

グランツ王国はイミル女王と先日婚約を発表したアデルが、そして亡国となったレイン帝国からは皇帝の娘であるレベッカと、ルーカスの娘ヴァレッタが代表として席に座っていた。


 レベッカは初め、力を失った帝国はグランツ王国に吸収されるのではないかと懸念していた。首都を失い従えていた周辺諸国から攻められるのは目に見えていた為に、それも仕方ないのかと。


 ところがグランツ王国とグルメール王国からは、復興の手伝いを申し出てくれる。グランツ王国からは、周辺諸国から牽制の意味も込めて次期国王となるアデル自ら軍で守ってくれると言う。


 レベッカは、二国からの申し出を受けると首都が復興した暁には、あくまで自分は代表として立ち、帝国から自治領として治める事を約束する。


 旧レイン帝国からグランツ王国へ避難してきた者から、復興を手伝ってくれる者を集い、レベッカとヴァレッタは、レインハルトの復興へと出立していった。


 シャウザードの森を横断する未完成の街道を通り、レベッカ達は破壊されたレインハルトを見て愕然とする。

しかし、誰よりも先頭に立ち指揮を執ったのは、レベッカの片腕と成りつつあったヴァレッタであった。


 ヴァレッタは破壊された城を見て回り、まずは瓦礫を取り除くように指示を出す。

自ら率先して瓦礫を取り除くヴァレッタ。

そんなヴァレッタに悲報が入る。


 メイラの遺体が瓦礫の下から出てきた──と。


 ヴァレッタは、自らメイラの遺体を抱えて、既に回収され埋葬された皇帝や父の隣に埋葬すると、同じ場所で見つかったメイラの杖を墓標として土山の上に突き刺す。

そして、ヴァレッタは静かにメイラの冥福を祈るのであった。


「お、あった、あったのじゃ」


 一方、グランツ王国から旧レイン帝国領についてきたルスカは、腰から折れて動かなくなったヨミーから魔石を回収する。


「これがあれば……あとは、胴体をどうするかじゃな。まぁいずれ作ってやるからの」


 ルスカは、魔法で地面に穴を開けると、手伝いで連れてきた人員にお願いして、壊れたヨミーの体を埋めるのであった。



◇◇◇ドゥワフ国◇◇◇



 ドワーフの少女ルビアは、他のドワーフ達と共にリンドウの街を迂回する形で、直接首都グルメールへと辿り着き、エルヴィス国王に直にドゥワフ国の現状を伝えたあと、しばらくはグルメールに滞在していた。


 アカツキとルスカが馬渕を倒して、三国会議に参加するためにエルヴィス国王自ら出立すると聞き、ルビアも同行を願い出た。

別に、グランツ王国に用があるわけではなく、やはりドゥワフ国が、そしてロックがどうなったのか気にかかるからという、個人的な事情。

しかし、エルヴィス国王は、同行を許す。


 グランツ王国への道中、被害の大きいリンドウの街を訪れたエルヴィス国王一行。ルビアは、この時初めてロックの仲間であったマンと出会い、マンにロックの最後を伝える。


「……あいつらしいといえば、あいつらしいな」


 マンは、エルヴィス国王にお願いして自分もドゥワフ国へ向かいたいから同行させて欲しいとお願いする。

マンの実質的上司であるゴッツォも賛成してやる。

ルスカも、自分は三国会議の代表として参加するためにグランツ王国へと向かうから、同行した後、ドゥワフ国へ行きロックを弔ってやれと、マンの同行を後押ししてやった。


「一人でアスモデスに立ち向かったのか……あやつも成長したのじゃ。もしかしたら、本当に勇者だったのかもしれぬな」


 ルスカからロックは大賛辞を受ける。そして、マンは、必ずその事をロックの墓へ伝えると約束を交わした。


 グランツ王国へ着くと、マンとルビアは、まずはチェルシーを訪ねてロックの訃報を伝える。

それを聞いたチェルシーは、「私も行く」と教会の仕事を部下に任せて出発の準備を始めた。

チェルシーの準備が出来るまでの間、マンはロックの実家に伝えるが、三男ともなれば薄情なもので、偽物というレッテルを張られ恥をかいたと冷たい言葉しか返ってこなかった。


 チェルシーの準備が出来て、マン、チェルシー、そしてルビアは一足早くドゥワフ国へ向かう。

シャウザードの森を突き抜け、レインハルトを悲痛な顔をしながら通り過ぎると、森を抜けてドゥワフ国内へ。


 レインハルトの南にあったドゥワフ国との境界になる森は、アスモデスが通り暴れた跡が酷く、森のていをなしていなかった。


 ドゥワフ国は、逃げ遅れた人の中で、辛うじて生き延びることが出来た人達によって、簡易的な家が建てられようとしているところであった。


 ロックを先頭にアスモデスに立ち向かったドワーフ達は、既に埋葬されており、墓の前でルビアは泣き崩れた。


「ロックさぁぁぁぁん!!」


 森の端に作られた土山のお墓。そんなお墓に抱きつくルビア。

ルビアの姿に、同席していたマンは天を仰ぎながら涙を堪え、チェルシーはさめざめと涙を流す。


「俺は……俺は、お前を誇りに思う。ロック……」

「逃げれば良かったのよ、いつものように。格好つけて、こんな良い娘残して。あなたは……」


 二人は、この時ほどロックと友達で良かったと思うと同時に、どうして……と、悲しい思いに打ちひしがれていた。


 そして、そんな三人を草場の陰から覗いている人物が。


「どうしよう……凄く出づらい」


 ロック本人だ。彼は生きていた。

臆病風に吹かれて逃げ出した訳ではない。

彼は懸命にアスモデスに立ち向かっていった。

周りのドワーフが次々と命を落とす中、ロックは踏ん張ったのだ。

しかし、アスモデスの圧倒的な力に、仲間の数は更に減らしていき、彼自身も覚悟した。


「逃げてくれてもいいのだぞ。勇者殿」


 老齢のドワーフが、ロックにそう言うが、ロックは逃げなかった。

最後まで立ち向かうつもりでいた。

ところが、彼はアスモデスに襲いかかり返り討ちに遭い吹き飛ばされると、地面をゴロゴロと転がり、そして木の根元に出来た大きな穴に体がスッポリ入ると、奇跡的にピッタリと嵌まってしまったのだ。


「ぬ、抜けない……」


 元々アスモデスは、ロック達を鬱陶しい蟻のように思っており、生い茂る森の葉で彼を見失うと、どうでも良くなり進軍を進めた為に、ロックは命を拾ったのであった。

その後、生き残ったドワーフ達に助け出されるまで、木の根元に挟まったままであった。


「どうやって出てていこう……ルビアちゃんには会いたいけど、マンとチェルシーはなぁ……」


 気まずいロックは、マン達の様子を伺うことしか出来ずにいた。

ところが、突如ルビアが小刀を引き抜いて、自分の喉元へ突き立てようとするではないか。

慌ててマンとチェルシーは「「「止めろ!」」」と同時に叫ぶ。


 聞き覚えのある声。慌てたのは、マンとチェルシーだけではなかった。


「ロック!?」


 最初に気づいたのはマンとチェルシーであった。自分等の後ろには、手を伸ばして止めようとしたまま固まるロックの姿が。


「ロック、お前──」とマンが言うや否や遅れて気づいたルビアがロックの胸に飛び込み、何も言えなくなってしまう。


 涙で濡らした顔をロックの胸元へ擦り付けるルビアを抱きしめ慰めながら、ロックは、マンとチェルシーに生き延びた経緯を話す。


 二人は、やはり生き延びていた事を内心喜ぶも、どこかで仕返ししてやらないと気が済まない。


「そう言えば、ルスカ様が、お前は“真の勇者”と絶賛していたぞ。もし、生きているのをルスカ様が知ったら……なんて言うだろうな?」

「いっ!? ちょ……や、やめてくれ。マン、チェルシー」


 マンとチェルシーは、そっぽを向いて口笛を吹きながら帰国しようとし出す。

慌てたロックは、二人の後を追いかけるのであった。

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