エピローグ グルメール王国~リンドウの街
◇◇◇グルメール王国◇◇◇
「こら、もう少し馬車を揺らすな。傷に響くじゃろが」
「全く……元気な爺さんだな」
「二人とも、大怪我してるんだから、大人しく寝ててよ」
馬渕が倒された事がグランツ王国に滞在していたカホの耳に入ると、カホは急ぎグルメールへと戻った。
そこで、大怪我をした流星、そして辛うじて生きていたクリストファーと再会する。
そして今は、回復薬の効果で喋れるくらいにまで回復した二人を馬車に積み込み、カホの運転で三人が元々住んでいたアイルの街を目指していた。
流星、そしてクリストファーの二人には、一連の騒動を治めた功労者として、グルメール王国から褒美として、それなりの地位が与えられると聞かされたが、二人ともそれを固辞した。
クリストファーは、怪我が酷く日常生活さえ儘ならないだろう。魔導師としても、教えることすら危うい。
そして流星、カホの二人は、そんなクリストファーを放って置けず、面倒をみることを決めていた。
カホと流星、そしてクリストファーと三人でアイルの街で静かに暮らす、それが三人の希望であった。
カホは、馬車の速度を上げる。揺れる度に流星とクリストファーは傷に響くと文句を言うが、カホに速度を上げた自覚はなく、夫婦としてやっと流星とのんびり暮らせると心躍らせ、自然と帰路を急ぐのであった。
◇◇◇リンドウの街◇◇◇
破壊された家を前にアカツキとルスカは立ち尽くす。アカツキの大切な新設の
「また新しく作ればいいよ、アカツキく──って、泣いてる!?」
ハラハラと涙を流すアカツキに、弥生は一歩退くのであった。
危機は去ったと聞きつけ避難していたリンドウの街の住人達が戻ってきた。
復興は、リンドウの街の住人と首都グルメールから人員を集い始まる。
指揮を執るのは、本来ならば領主であるナックであったが、怪我が酷いためにリュミエールが先導して立ち合う。
街の住民達の仮設の住宅が、初めに造られ、まず取り掛かったのはナックの屋敷と、アカツキ達の家の復興であった。
ナックやアカツキは断るも、街の住人達は、ゴッツォやセリーから事情を教えられ、恩人であるアカツキやナックの方から取り掛かると提案してきたのだ。
「何かご希望はありませんか?」
建設の責任者の男性がアカツキに新しい家の希望を聞いてくる。アカツキは、贅沢出来ないと、細やかな希望を伝えた。
「そうですねぇ。まずは竈は三つは欲しいですね。あとは窯が家の中にあると助かります。それと、お風呂は外せませんね。お湯を貯めやすくするために一階がいいでしょうか。ああ、あとは畑を作れるスペースが欲しいですね。一度家庭菜園というのをやってみたかったのですよ。あ、それだと肥料も必要ですから馬を飼える庭も欲しいですねー」
「は、はぁ……」
気付けば、一階と二階の広さは以前の家と庭の二倍になっていた。
責任者の男性は、呆気に取られながらも、ルスカと弥生にも希望を聞くが、二人は「特にない」と、申し訳なさそうな顔で答えるのであった。
アカツキ達の家も、ナックの屋敷もほぼ一ヶ月掛からずに建設される。
一階は広い台所に三つの竈が並び、炊事場を挟んで窯が造られており、窯からは煙突が伸びて二階を突き出て屋根から飛び出ていた。
一階が広くなった分、二階も当然広くなり部屋数も自然と増えている。
「な、なんか随分大きな家ね、アカツキくん」
「あれ? 何でこんなに大きく……?」
アカツキと弥生は出来上がった家を見上げながら、想像以上に大きな家に開いた口が塞がらない。
今、ルスカはこの場には居ない。グランツ王国に三国会議の為に出掛けていた。
二人は家に入るなり新築特有の木の香りが鼻に入ると、大きく深呼吸して吸い込む。
一階を、ひとしきり見て回り二階へ上がると、ある一室には部屋の大半を埋め尽くす巨大なベッドが、鎮座していた。
アカツキと弥生、そしてルスカの寝室である。
「弥生さん」
アカツキは弥生の前で跪く。そして──弥生に結婚を申し込むのであった。
◇◇◇エピローグ◇◇◇
三国会議が終わり、ヨミーの魔石を回収してきたルスカがリンドウの街へ戻ってくる。
更に二ヶ月ほどが経っており、馬渕が倒されてから四ヶ月近くになっていた。
リンドウの街の復興は、想像していたより早く、街の
「ただいまなのじゃー」
初めはどの家が自分の家なのか判らなかったルスカだが、煙突から上がる黒い煙と、パンの焼く良い匂いに誘われて間違えることなく戻ってくる。
「お帰りなさい、ルスカ」
焼きたてのパンを持ちアカツキが笑顔で出迎えると、ルスカはアカツキの腰にしがみつき、見上げながら「ただいまなのじゃ」と同じように笑顔で返した。
庭で、畑に水をあげていた弥生も、ルスカの声を聞きつけ裏口から家に入って来て出迎えた。
アカツキは、ルスカの帰還を祝うと張り切って夕食の用意を始める。
そして、時間が掛かるからとルスカの口にイチゴの飴玉を放り込んでやると、ルスカは「何か手伝うのじゃ」と口の中で飴玉を転がしながら言うと、弥生の方を手伝うように頼まれた。
そしてルスカは弥生の畑仕事を手伝うべく二人で庭に向かうと、弥生から意外な報せを受ける。
「なに!? こ、子供?」
弥生は頬を赤く染めながら頷き「多分ね……アカツキくんには、まだ内緒だよ」と、ルスカに口止めをお願いする。
初めは驚いて固まっていたルスカであったが、次第にその顔が破顔していく。
まだ、ハッキリとは判らない。しかし、ルスカは早くも嬉しそうに弥生のお腹を撫でてみる。
もちろん、まだ全然大きくはなっていないが、この中に子供がいるのかと考えると嬉しくなっていく。
ルスカに不思議と弥生に対する嫉妬などはなく、ただただ嬉しく心の底から喜びに満ちていた。
その日の夕食は、豪勢であった。
焼きたてのパンが並び、シチューに窯で焼いたローストチキンと、ルスカと、弥生、それにアカツキはお腹が一杯になるまで食べ尽くした。
そして二階の大きなベッドでルスカを挟んで全員で就寝する。
夜も更けて街全体が静寂に包まれる。アカツキ達の家の二階の寝室に蠢く影。
静かに音を立てないように扉を閉めると、ギシッギシッと階段の軋む音が響く。
そして一階の玄関の扉を開くと、人影は外へと出ていく。
まだ肌寒い夜更けにローブと白樺の杖を片手にルスカは、二人が眠ると二階を見上げる。
「アカツキ……」
ポソリと呟いたルスカは、目尻に涙を浮かべながら何時までも二階を眺めながら家を後にしようと歩き出す。
「どこに行くのですか?」
家の二階ばかりを見ていたルスカは、声の主に気づかずにぶつかる。
「あ、アカツキ……どうして」
ルスカの目の前にはアカツキが。
「トイレに行ったのかと思えば、ローブや杖は必要ありませんからね。それでどこに行くのですか?」
「だ、だって……アカツキとヤヨイーは夫婦になったのじゃろ? 二人の邪魔を……したくなくて……」
ルスカはしょんぼりと俯くと口を尖らせる。その小さな肩は、小刻みに震えていた。
「バカですね、ルスカは。私が弥生さんが、いつルスカを邪魔だと言いました? ねぇ、弥生さん」
ルスカはハッと顔を上げて振り返ると、弥生が抱きついてきた。
「本当にそうだよ。アカツキくんと、私、そしてルスカちゃんで家族じゃない! 邪魔だなんて思ったこともないよ!」
アカツキは抱き合う二人を更に上から抱き締める。それは、それは力強く痛いくらいに。
しかし、今のルスカには、その痛みが心地よい。
「いいのか? ワシはここにいても……」
「当たり前です!」
「当たり前よ!」
ルスカはポロポロと大粒の涙を流して二人にしがみつく。二人もルスカが泣き止む夜明けまで何時までも抱き締め続けるのであった。
そして──。
「いってきますなのじゃ!」
「ルスカ! セリーさんに、午後から手伝いに行くと伝えといて下さい!」
「わかったのじゃ!」と、アカツキと弥生に見送られ、ルスカは今日も元気よく遊びに出かけるのであった。
『追放された
完
to be continued……?
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