第三話 幼女と青年、久しぶりに家に帰る

 アカツキが目覚めてから一週間程して、グランツリーでは変化が起きていた。

貴族が住む場所と一般人が住む場所を隔てていた壁に負けず劣らずの大きさの外壁が出来たのだ。


 人手という名の労働力は多くいたが、元々爵位の無い貴族などがほとんどで労働力として中身が伴っておらず役に立つはずはない。

しかし、流星が連れてきたゴブリン達が加わったことで、黙々と文句を言わず働くゴブリンに徐々に元貴族達も感化される。

更にそこに重い物を運ぶという重労働を担ったのが、帝国からヴァレッタ達を案内してきたヨミーであった。


 建築で一番ネックなのが、重い物を運ぶ時である。人手は取られるし怪我をする原因のほとんどが重い物を運んでいる最中の事故であった。

ヨミーが加わったことで、建築のペースが一気に早まり、今に至る。


 柵程度だったグランツリーの外壁は、赤茶けた石造りの立派な物へと変化した。


 グランツリーの外壁の完成を皮切りに、人手が余るグランツ王国はレイン帝国との最短の道をシャウザードの森を一部切り拓いて整備を始める。

その際に、ヨミーはルスカの命令でシャウザードの森で迷子にならないようについて行くことに。

ならば一緒にとグランツリーに滞在していたルーカスやヴァレッタ、メイラの帝国組は帰国していった。


 そして、アカツキ達も……。


 ザンバラ砂漠を越えれるくらいに回復したこともあり、グルメール王国組も含めて帰国することに。

すぐにでも馬渕を追いたいが、恐らくドラクマにいるというだけで行方を掴めずにいた。


 そこで、帰国することになったのだけれども、アカツキ達はまたグランツリーへと戻ってくる予定になっている。

ドラクマに行くとしてもグルメール王国から行くには、険しい山に入るしかないし、北の砦には崖を乗り越えなくてならない。

だとすれば、ドラクマに行くにはグランツリーが近くて行きやすい。


 さらにグランツリーにはモルクという魔族もいるのが都合がよい。

モルクは、アドメラルクが再び行方不明と聞いても逃げ出そうとも探そうともせずに、捕虜として黙々と働く日々を過ごしていた。


 今回の帰国の主な目的は勿論自宅に戻るのもあるが、ナックとリュミエールの二人だ。

ナックは、帰国すれば子爵が与えられる予定になっている。

王族の娘を娶るには低い爵位だが、これはあくまでも娶れるギリギリの爵位にする為。

結婚すれば、リュミエールは家を出るとはいえ王族の親族になるのだ。

そのタイミングでナックは侯爵へと叙勲される予定だ。


 そして拝領もされる。長年、グルメール直轄となっていたリンドウの街周辺一帯を。


「それじゃあ、私たちの街の領主ってことなのですね」

「はっはっは、“領主様”って呼べよ。アカツキ」


 アカツキの問いに胸を張って答えるナック。もちろんふざけてやっているのだが、アカツキ自身もそれをわかっていながらルスカに振ってみた。


「だそうですよ、ルスカ」

「うむ。ナックはリュミエールをすぐに未亡人にしたいようじゃ」

「あ、アカツキ様、ルスカ様……冗談でもやめてください」


 リュミエールは想像しただけで既に泣きそうになっている。このあと出発だというのに、慰めるのに小一時間かかり出発時間が遅れることとなってしまった。



◇◇◇



 日が落ちて涼しくなった夜のザンバラ砂漠を進む一行。いや、一行と言うには人数が多く夜の砂漠を照らすランプの灯りはまるで大名行列である。

まずはアカツキとルスカ、それに弥生にカホ、流星。嫁と子供を迎えに行くタツロウ。ナックとリュミエールとミラも当然にいる。

更にグルメール全土から集まったアイシャとヤーヤーを先頭にしたギルドパーティーとゴブリン達。

そして後方を進むは、グランツ王国からのグルメールへの移住者である。


 アカツキ達の出発に合わせて移住者は集められたのだが、まだ半分程で百人程度しかいない。

グランツ王国から賜った馬車もそこそこあるが、ほとんどが馬か徒歩で砂漠を進むために、アカツキは天気やトラブルに最善の注意を払う。

人が増えればトラブルも増える。

馬車には基本老人や女、子供を乗せているのだが、中にはワガママな奴もいて度々馬車に乗せろと文句を言う。

その度にアカツキ達は進むのを止め、トラブルに当たるの為に進む速度は非常に遅かった。


「やっと半分くらいですか」


 日中に進むのは危険な為に簡易的な日差しを避けるテントを張り、休むアカツキ達。


「確かにアカツキの言う通りだな。あまり長引くならちょっと危険かもしれんな」


 不本意ながらこの集団のリーダーを任されることとなったアカツキとナックはお互い今後の方針を相談していた。


「文句を言う人が多々いますからね。少し強引にいくべきでしょうか?」

「そうだな、文句を言うなら砂漠のど真ん中に置いてくぞくらいの脅しは必要かもしれん」

「うーん、ルスカが昔砂漠に置いていかれたのもあるし、やりたくはないのですがね」


 ちょっと注意をしてもすぐに文句を言う為に苦慮しているアカツキとナック。


「ところでアカツキ、何とかならないのか。気になってしょうがないのだが」


 ナックの言うとは、アカツキの背後で蠢く二本の蔦。

アカツキは動かす練習をし続けていたのだが、ナックとしてはタコの足の様に動く蔦に、ついつい目が行くのだ。


「これですか……ああ、そうですね。いい案が浮かびました」


 再び出発すると、やはり同じく馬車に乗せろと文句を言う者が現れた。

何度か警告をした中年の小太りの男。

その態度から恐らく元貴族と思われた。


 再び先頭を行くアカツキ。その馬の背には前にはルスカ、後ろには弥生をいつものように乗せているのだが、今は更に馬の後ろではアカツキの蔦で縛られたあの中年の小太りの男が引きずられていた。


「ま、ま、待ってくれ! 止めてくれぇ!」


 引きずられている中年の男は、口に入った砂を吐き出しながら必死に叫ぶ。

アカツキはそれに全く耳を貸そうとはしなかった。

この男は見せしめの意味もあった。

残った一本を蠢かせながら、まだ余っているぞと脅すように。


 なんて酷いことをするとは他の誰もが思わなかった。

何故なら馬の速度は人の歩みと同じであり、縛られた中年の男は立って歩くことも出来るのだ。

これ以降文句を言う者は現れず、進む速度は予定通りとなり三日程でグルメール王国の入口の森へと辿り着けた。


 薄暗い森を一日かけて抜けると視界が開け、遠目に懐かしくも古い外壁が見える。

リンドウの街である。

意気揚々と帰ってきたアカツキ達は、外壁の門を抜けると先頭をナックと交代する。

ナックやリュミエール、それに流星達も一度このまま首都グルメールへと戻る予定であった。

アカツキとルスカと弥生、そして嫁と子供がリンドウにいるタツロウは、ナック達と一旦別れることに。


 タツロウも、早く嫁や子供に会いたいと面倒を見てくれているはずであるセリーの店へと向かい、アカツキ達と別れた。


 そしてアカツキ達は懐かしの我が家へと向かう。正直予定ではもっと早く帰ってくるつもりだったが、予想以上に時間がかかりアカツキ達は外から眺める我が家に感慨深いものを感じるのであった。


 久しぶりだと、鍵を開けて玄関の扉を開くアカツキ。薄暗い部屋の中は、かなり埃っぽさを感じる。


「これは、ちょっと掃除をしなければなりませんね。ね、ルスカ。……ルスカ?」

「ルスカちゃんなら、ちょっと雑貨屋に用事が、って行っちゃったけど」


 つい先程まで隣にいたはずのルスカの姿は無く、弥生が言うとおりならば、掃除をするのが嫌で逃げ出したのだろう。

何せ雑貨屋と言えば、幽霊のような老婆がいるあの雑貨屋。

ルスカなら怖がって近づこうともしないはずである。


「多分、先にセリーの店にでも行っているのでしょう」

「そっかぁ、逃げたのかルスカちゃん。それじゃ私呼んでくる──」


 どさくさに紛れて逃げようとする弥生をアカツキが見抜けない筈もなく、あっさりと襟首を掴まれるのであった。

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