第四話 幼女と青年、久しぶりの再会

「ほらほら、サボっていないでベッドのシーツを持って来てください。あと、ついでに洗濯しますから、荷物から着替えを持ってきてくださいね」

「はーい。ってアカツキくんが洗うの?」

「へっ? 洗わないつもりですか?」

「いや、私の下着もあるのだけれど……」

「それがなにか?」


 掃除に勤しむアカツキに対して顔を赤く染めている弥生は困った表情をしながらも、もじもじとスカートの裾をつかみながらどうしようかと悩んでいた。

恥ずかしくないと言えば嘘になる。

確かにこの世界の下着はシンプルな物ばかり。

それでも、一切の迷いもなく自分の下着を洗おうとするアカツキに少し不満であった。


「はい、シーツと下着!」


 プイッとそっぽを向きながら頬を膨らまし弥生はアカツキにシーツと下着を手渡す。


「そうそう、ベッドどうしますか? もう少し広い方がいいか、もうひとつ買いますか?」

「どうしてベッドの大きさなんか私に相談するのよ」


 洗濯をしながら弥生の方も見ようとせずにアカツキは何気無く聞いてみる。

しかし、弥生から返ってきた返事は素っ気ないものであった。


「いや、だって弥生さんの分人数増えましたから。寝室一部屋しかないですし。一緒に寝るしかないでしょう?」

「……ふへっ!? い、一緒に寝る?」


 驚きのあまり弥生は、変な声に裏返る。そしてみるみる赤かった顔は、ゆでダコのように赤みが増していく。


「それとも弥生さんは、私にリビングで寝ろと?」

「違っ、違うの! そうじゃなくて。私も……ここに住んでいいの?」


 弥生は耳まで赤い顔を俯かせたまま人差し指同士をくっ付けながら、恐る恐るアカツキに聞く。

おかしな様子にようやく気づいたアカツキは、洗濯していた弥生の下着から手を放し立ち上がり、弥生の手を両手で包み込む。


「もちろ……あ! あぁ、そう言うことですか。私は自然とこの家でルスカと弥生さんと過ごす未来を描いていたのですが、弥生さんは違うのですか?」


 弥生は黙ったまま首を横に振る。


「ルスカも許可してます。いえ、それどころか私と同じでルスカもここで私と弥生さんと過ごす未来を描いていますよ」

「わ、私も! 私も……同じ」


 弥生の心臓の鼓動は高まり目の前のアカツキに聞こえるのではないかと気が気でなかった。

そんな中した精一杯の返事も声が裏返らないように必死であった。


「良かった……危うく住まない人に掃除を手伝わせるところでした」

「掃除……ふへっ!? 掃除!?」


 弥生から手を離したアカツキは、再びしゃがみこみ弥生の下着を洗い出す。

一緒に住むなんて、まるでプロポーズのような言葉だと受け取った弥生は、流石に頭に来て文句の一つでも言おう、そう思ってアカツキに一歩近づくと、口まで出かけた言葉を飲み込んだ。


 弥生は、クスッと笑うと掃除の続きをするために家の中へと戻っていく。

夢中で洗濯していたアカツキの横顔は、先程までの自分と同じかそれ以上に赤く紅潮していた。


「もう。誤魔化さなくていいのに……」


 家の中へ入った弥生は裏庭へ続く扉を閉めると、扉にもたれかけ、そう呟いた。



◇◇◇



 一通りの掃除を終えると外は西の空が黒く塗りつぶされ始めていた。

ルスカを迎えに行く為にセリーの店へと向かうアカツキと弥生。


 その頃ルスカは、やはりセリーの店の宿の受付のカウンター越しにセリーと盛り上がっていた。


「その時にな、『ワシのアカツキに手を出すなー』と叫んだのじゃ」

「きゃーっ」


 ルスカの盛りに盛った話を恋愛話だと受け取ったセリーは、一人興奮してカウンター内で歓喜する。


 そこに来客を知らせるカウベルが鳴りセリーは、営業スマイルを入口に向けるが、そのまま固まってしまう。

セリーの異変に、気がついたルスカも振り返るがルスカの背丈だと、腰辺りまでしかなく、徐々に視線を上げていく。

相手の顔を見るまでもなく、ルスカにはその相手が誰であるか分かってはいたが、怖くてもどんな表情をしているのか見る必要があった。


「あ、アカツキ……ち、違うのじゃ。これは、間違いなのじゃ」


 ルスカの視線の先には鬼のような怒りの表情のアカツキが。既に半べそをかいているルスカにアカツキはゆっくりと迫っていくのであった。



◇◇◇



「ごめんなさいなのじゃ! ごめんなさいなのじゃあ‼️」


 宿に隣接している食堂で大泣きしているルスカの叫び声とスパーン、スパーンと乾いた音がリズムよく交互に響き渡っていた。


「最初に会った頃、家のことをお手伝いするって約束したでしょう!」

「ごめんなさいなのじゃ! ごめんなさいなのじゃあ‼️」


 弥生ももうこの辺りにしてあげたらと、止めに入ってきたのでアカツキはルスカのお尻を叩く手を止めた。

やっと解放されたルスカは、自分のお尻をさすりながら痛みで中腰のままで立つしかない。


「ルスカ、魔法で治療したらいけませんよ! 痛みが辛いのは私も同じなのですから」


 涙目のままルスカは、自分のお尻を叩いていたアカツキの手を見ると、赤くなり腫れてぷっくりとしていた。


「うぅ~……わかったのじゃ……ぐすっ」


 ルスカがその代わりにと両腕をアカツキに向けて抱っこを要求してくる。

脇を抱えて抱っこしてやると、顔をアカツキの胸に押し当て手足を絡ませてきた。


「あんた、凄いなあのルスカ様をこんな大人しくさせるなんて」

「確か、マンさんでしたね。ルスカを砂漠のど真ん中に置いていった……」

「うっ! いや、まぁ悪いと思っているよ、反省している……」


 タツロウの嫁や子供をリンドウに送り届けた後、マンはゴッツォの元で働いていた。

最近では、ちょくちょく料理の勉強もさせてもらっているという。


「別に怒っているわけではないですよ。ルスカが許したのでしょう? それなら私が、とやかく言う必要はありませんから」

「がっはっは! アカツキ、うちの従業員をあんまり苛めてやらないでやってくれ! ほら、何か食ってくだろ? 好きなもの頼みな!」


 ゴッツォが豪快に笑いながら、好きなもの頼めと言う割には両手一杯に抱えて持ってきて料理をアカツキの目の前のテーブルに並べていく。


「まだ、頼んでませんよ、ゴッツォさん」

「がっはっは! 気にするな、アカツキ。これは快気祝いだよ! がっはっは!」


 再び豪快に笑いながら厨房へとゴッツォは戻って行くのと同じくしてセリーが、こっそりと教えてくれたのは、アイシャやマンからアカツキが倒れたと聞かされてゴッツォは、セリーも驚くくらいに心配していたという。

何か自分に出来ることはないかと、アイシャやマンにも突っかかる位に。


 ゴッツォには借りはあっても貸しはない。ただただゴッツォの優しさと心配をかけてしまったことにアカツキは厨房に向かって頭を下げた。



◇◇◇



 翌朝、アカツキ達は日が高くなる前にリンドウの街を後にする。

ナックの叙勲式に参加するため、首都グルメールへと向かうのだ。


 相変わらず馬に乗れない弥生とルスカに挟まれるような形で、アカツキ達を乗せた馬は駆け足で進む。

道中、蛇型の魔物が襲ってきたが、アカツキが背中から出した二本の蔦で締め上げる。


「話には聞いていましたが、本当のようですね」


 戦争や魔族の襲来は終わったが、その影響というか逃げ出した魔物達の多くがローレライに留まり、魔物の出没が増えていた。


 道中で襲ってきたのは一匹だけだが、途中の野宿の時に動物以外の唸り声などが聞こえたことから、増えたのは確かなようであった。


 それ以外に特にトラブル無く、グルメールへと着いたアカツキ達はすぐに城へと向かい、名前を出すだけで、簡単に城の中へと通されるとワズ大公と偶然バッタリと出会う。


「ワズたい……」


 ワズ大公は、ルスカを見るや否や急に踵を返して逃げていってしまった。

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