第十八話 クリストファー、決死の覚悟
ローレライ全土で開始された魔族の進行。レイン帝国に迫って来た魔族の軍勢はヨミーの一人勝ちに終わりを見せた。
ドワーフの援軍で混乱しているところを、ヨミーに突撃されて魔族、魔物は散り散りになる。
ヨミーを魔物と勘違いして逃げ出したドワーフ達も、元勇者ロックの説得により帝都レインハルトへと戻ってきていた。
ヨミーと唯一面識のあるロックは今、ヨミーの頭上で振り回されている。
「うわぁあああああぁぁ‼️ だ、誰か降ろしてくれー‼️」
涙目になりながら今にも掴まれた服が脱げて飛んでいきそうになっているロックは、助けを求める。
「オ前ガ、全テノ元凶ヤ~‼️ ルスカサマハ連レ出スシ、シカモ、ワレ何ヤ。何デドワーフ共ト一緒ニナッテ逃ゲテンネン‼️ 一度会ッタヤロガァ‼️」
ロックはルスカと初めて出会った時にヨミーと出会っていたのだが、先ほどはヨミーを見ていの一番に逃げ出したのである。途中、その事を思い出すまでは。
「あの……ヨミーさん」
ロックを振り回すのに忙しいヨミーの背後から声をかけたのルーカスの娘ヴァレッタ。その隣には親友であり盲目のメイラの姿も。
二人は汗だくで息を切らせている様子から、走って来たのだろう。
補助をしていたとは言え、盲目であるメイラを走らせるのは危険なのは一目瞭然である。
つまり二人は、それほど緊急の用事でヨミーの元へと来たのであった。
「ナンヤ? 今忙シイネン」
「あの、ヨミーさんはシャウザードの森に住んでいたんですよね。私たちをグランツ王国まで森を案内してもらえないでしょうか?」
「ルスカサマニココヲ守レテ言ワレテンネン。勝手ナコト出来ルカイナ」
主人であるルスカの命令しか聞かないと融通の利かないヨミーに対して、メイラが怒鳴る。
「そのルスカサマに用があって会いに行くのだよ‼️ アカツキの……アカツキの救う薬の材料が三つの内、二つが分かったのさ。あんたの大好きなルスカサマが喜ぶ知らせだよ。それでもかい?」
「ソレヲ早ヨ言エヤ。任セトキィ、案内クライ朝飯前ヤ。ワイ飯食ワンケド」
ヴァレッタはメイラと共に、メイラの人脈を使い様々な方法でアカツキの薬に関する情報を集めて回っていた。
そして見つかったのである。元々は薬として使われていないモノなので、帝国の研究者も模索していたが、薬に拘り解明に至らなかったのだ。
それに対してヴァレッタ達は、薬に拘ることなく情報を集めた為に昔の料理に使われていた調味料なのだと判明したのである。
同じものも見つかり、帝国の研究者達にも確認してもらった後、ヨミーの元へと向かったのであった。
◇◇◇
朗報が舞い込む帝国に比べて苦戦を強いられていたのはグルメール王国であった。
ワズ大公率いる軍勢がエルラン山脈の麓で迎え打って出たのだが、今はジリジリと後退させられていた。
原因は麗華が変貌した改造魔族。クリストファーが単体で対応していたのだが、改造魔族には魔法反射が施されており魔法使いであるクリストファーは攻め手がなく、防戦一方であった。
ヨミーよりも大きい改造魔族からは伸縮自在の肉の塊が飛んで来るは、魔物の大群に苦戦するはで被害は増えるばかり。それでもクリストファーは機転を利かし、ヨミーの魔法耐性とは違い魔法反射であることを利用する。
反射なのだから斜めに当たれば、きっちりと予想する方に跳ね返るのだ。クリストファーは角度を何度となく変えながら、跳ね返った魔法が魔物の大群に向かうように調整を重ねる。
杖を突きながらも走り回るクリストファーに、年寄りに負けてたまるかとワズ大公の軍勢の士気も上がりなんとか踏みとどまることに成功していた。
「くそぉ。あの巨人、なんとかならぬのか!?」
魔法が効かないなら、軍で押して物理で当たるしかないが、ここまでで半分まで減らしておりワズ大公も攻め手に喘いでいた。
「ぐるわあァァァァァァッ‼️‼️」
改造魔族の雄叫びがビリビリと鼓膜を刺激してワズ大公や兵士は思わず耳を塞ぐ。
このまま後退すると、ファーマーの街にまで被害が及びかねない。
クリストファーも老体にむち打ち、体力の限界も近い。足がもつれて倒れそうにも何度となくなる。
しかし腐っても自称ルスカの弟子である。一手、一手だけ手は残されていたが、今の状況では無理であった。
そんな苦戦しているワズ大公の元に伝令が駆け寄る。
「ワズ大公‼️ ダラス様が王国本隊を率いてすぐ側まで来ております。もう少しのご辛抱を‼️」
伝令を聞いたワズ大公の軍勢は一段と活気付く。
「大公! 師匠!」
しばらくすると東の方からダラスを先頭に今のワズ大公の軍勢の倍近い兵力を率いてやって来てくれた。
そして、ダラスの隣で並走して馬を走らせるナックの姿も。
パク──エルヴィス国王として一世一代の大博打。首都のグルメールにはほとんど兵士が残っておらず、全てワズ大公の救援に差し向けたのだった。
ダラス一人、クリストファーの元へと駆けつける為に軍から離れると、指揮はナックへと移りそのまま魔物の大群へと突入していく。
ナックは剣を抜くと、初めは馬に乗りながら剣を振るうが半ばまで入っていくなり馬から飛び降りる。
元々傭兵業をしていたナックにとって、馬上からとういうのは本来のスタイルではない。ルスカにさえ、認めさせたナックの剣の前に魔物の死体の山を築く。
ワズ大公もいずれは自分の姪の婿になる男の奮戦に負けじと、自ら先頭に立ち勢いは更に増す。
「師匠‼️ あれは、一体!?」
ダラスも報告で聞いていただけで、初めて見るその巨体に目を丸くする。
「ダラスよ、待っておったぞ」
何度となく体勢を崩しかけていたクリストファーは、ダラスの背中をパーーッンと気合いを入れるように叩く。
「ダラス、よく聞け‼️ 今から作戦を話す」
ダラスにしか聞こえないくらいの小さな声で、作戦内容を話す。
それはダラス自身も危険を伴うが、何よりクリストファーの命にも関わる。
ダラスは無言のまま頷き、自分の馬の背にクリストファーを乗せると、改造魔族から離れるように距離を取った。
「師匠……ご武運をお祈りします」
それだけ言うとダラスは再び戦場へと戻っていくと、ダラスは改造魔族の気を逸らすべく角度をつけて魔法を反射させていく。
ワズ大公の側まで戻ってきたダラスはクリストファーの作戦内容を伝える。
チラリとクリストファーの方に視線をやったワズ大公の目には、すでに準備を始めている姿が遠目に見える。
「死ぬなよ、クリストファー……」
ワズ大公も準備に入る。ダラスと別れたワズ大公は、わずかな手勢を率いてナックへと合流する。
「なにぃ!? あの巨体の動きを止めて兵士で一斉に襲うだぁ!? 出来るのかよ、そんなこと‼️」
クリストファーの魔法で動きを止めた後、軍勢で足元を狙い引き倒し更に追撃を加える。ナックの心配はもっともで、あのルスカですらあの改造魔族を倒した後は疲弊していた。
老体のクリストファーで可能なのか、この作戦の肝はまさしくそこだった。
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