第十六話 魔族、襲来する
戦争を裏で操作しているのは、やはり馬渕とその仲間のリリスと分かりルスカ達は、今後の方針を決めるためにグランツリー中央の城の最上階。
王の間、改め女王の間となった場所へと主要な人物が集まっていた。
ルスカや弥生は当然としてイミル女王、流星、カホ、タツロウにチェスター、ヤーヤーやハイネルも居る。
今後の方針も何もルスカと弥生の目的はアカツキを救うために動くのだが。
ただ、この国もまだまだ安全ではない。
戦争を行っている軍が反旗を翻して王都グランツリーを襲うことも考えられるし、魔族が襲ってくることも考えられる。
壊れた建物などは、流星が率いてきたギルドパーティー達やゴブリンが早急に行ってはいるが。
結局ルスカ達は二手に別れることに決まる。戦力としてグランツリーにはギルドパーティーとゴブリン達が残り、流星とヤーヤーやハイネルもこの場に留まり、ルスカと弥生、カホとタツロウは、エイルに会うべくグルメールへと戻ることになった。
チェスターもこの国に留まる。戦争に参加している父親、そして父親に安全策を取るように伝えに向かった母親が心配だと。
立場的には我が儘を言えないチェスターだが、ルスカに必死に頼みこむ。
「別に構わぬのじゃ。ただ、ここでしっかり働くのじゃぞ」
許可を貰い嬉しくて何度もルスカの頬にキスをするチェスター。“ビクリバコ”で気絶させられるまで、ほんの数秒だとも知らずに。
出発の準備で忙しくなったルスカ達。イミル女王も、今の立場を守りぬくためには、後顧の憂いは取り除かなくてはならない時が来ていた。
地下牢に閉じ込められていた元王や重臣たちの処刑である。
罪状は国に危機を招いた反逆罪。預言者ノインを始め、重臣の上級貴族達は次々と首を斬られていく。
イミルの父親である元王、母親の王妃、そして姉と兄。王族も止める立場でありながら、諫言に耳を貸して近隣のグルメールや帝国と険悪な関係を築くことになり、危機を招いたとして処刑された。
これは、見せしめの意味もある。
自分の身内を処刑したとして、上級貴族の家族からの恨みを躱すことと反逆罪は本来は家族全体に及ぶのだぞと、脅しの意味もこめて。
処刑の場にイミル女王が現れることはなかった。
一人自室にこもり、さめざめと涙を流して泣いていた。
◇◇◇
ルスカが出発準備を終えて、イミル女王が手配した馬車に乗り込んでいたその頃。
レイン帝国とグランツ王国の戦場では、グランツ王国軍が手をこまねいてた。
何度もレイン帝国側の砦にアタックしても、あっさりと跳ね返される。
全ては砦前に一人陣取る長身金髪の男。
アタックすると、それほど死者は出ないが、怪我を負う者が多く動けない者がイタズラに増えるだけであった。
「伝令!!」
帝国側の砦を忌々しい表情で、文字通り指を咥え爪を噛むグランツ王国軍の指揮官。
そこに一通の命令書が届く。
それはイミル女王からの戦争中止の命令。
「イミル王女様が女王? 一体グランツリーで何が……?」
偽物の命令書かも知れないと一概に信用出来ず、指揮官は困惑する。
後ろを見ると兵士達も疲弊しており、何より何度アタックしても、たった一人に苦戦を強いられる事に士気が落ちていた。
「今、撤退しても偽物の命令書のせいに出来るか……」
指揮官は、馬を翻すと「撤退!!」と命を出して、王国側の砦に戻ろうとした。
その時──崖になっている場所から一匹のライオンのような魔物が登ってくる。
たった一匹か……そう思った刹那、様々な唸り声と共に蛇型の魔物やら犬型の魔物やら多数の魔物が崖を一気に駆け上がってくるではないか。
グランツ王国軍は、あっという間に混乱をきたす。撤退命令で気が抜けたところを襲われたのだ。
戦おうという気概は失われていた。
指揮官すらも、一目散に逃げ出す有り様で統制すらとれずに、兵士達は次々と襲われ殺されていく。
グランツ王国側の砦も、何事と慌てて門を閉めてしまう。
砦内へ戻れなくなった兵士達や指揮官は、必死に門を叩き助けを叫ぶ。
パニックになっているのは砦内も同じで、門を開けるべきと言う者と閉めておくべきだと言う者と二つ別れる。
「かかれー‼️」
門と魔物の大群に挟まれ絶体絶命のグランツ王国軍に、一縷の希望の光が差す。
魔物の大群の更に背後から襲いかかるのは、ルーカス率いる帝国軍。
そして、単独で次々と斬り殺していく魔王アドメラルク。
ルスカになるべく人を殺すなと言われてフラストレーションが溜まっていたアドメラルクは憂さ晴らしをする。
だが魔王である自分に対して平然と襲いかかってくる魔物に、更にフラストレーションが溜まり、憂さ晴らしで斬るという永久機関がここに完成した。
「ルーカス殿、来たぞ」
アドメラルクは魔物達が上がってきた崖の方に目をやると、ルーカスも視線を移し、初めての経験に緊張で喉を鳴らす。
崖を百人近い魔族が、そしてその最後方には新魔王アスモデスの姿があった。
◇◇◇
アドメラルクが息子であるアスモデスを視認したころ、グルメールでも魔族により襲撃を受けていた。
予想通り場所は、元ラーズ公領の北のエルラン山脈から。
ここは、ワズ大公が自ら兵を率いて対応していた。
現在グルメール王国内には、戦力となるギルドパーティーがほとんど残っていない。
一般の兵士だけだと、数で押しきるしかない。
しかし、ワズ大公には余裕があった。
“グレイトウォール‼️”
土壁が地面から盛り上がり魔物の進軍を分断させる。
「ふはははは、魔物どもよ感謝するぞい‼️ このクリストファーに戦いの場を与えてくれたことをのぉ‼️」
ワズ大公の余裕の理由は、このクリストファー。自称ルスカの弟子で、流星、カホ、麗華の師匠でもある。
実力はルスカも、若ければ勇者パーティーのメンバーに選ばれていてもおかしくないと言わせるほどである。
「無理するなよ、クリストファー殿」
「なーに、ワズ大公。お主のような若僧にはまだまだ負けぬからのぉ」
ワズ大公も結構な年齢ではあるが。
クリストファーは、尽きないのかと思わせるほど、次々と魔法を放ち魔物の数を減らす。
しかし、一向に魔族の姿が無い。
ようやく現れたかと思えば、とても魔族には見えず、どちらかといえば人間の女性の様に見えた。
虚ろな目、口からは
体にはポッカリと穴が空いており向こう側が見える。
クリストファーは、ギリギリと歯軋りを立てて怒りを露にする。
「レイカくん……」
再会の喜びなどない。かといって逃げ出した事、麻薬を盛った事を怒る気にもなれない。
むしろ再会した麗華の悲惨な姿が、クリストファーの心を締め付ける。
「儂が……儂が、眠りにつかせてやるからのぉ」
ギラリと睨み付けるクリストファーの視線に刺激され、虚ろな目をした麗華が言葉に言い表せない奇声を上げると、その体がドロドロと溶けていく。
「こ、これは……‼️」
ワズ大公が驚くのも無理はない。溶けていく肉体が再び集まりその巨体を晒す。
ルスカやアカツキから報告を受けていた通りの事象。
「グルアアァァァァァッ‼️」
麗華の姿はそこには最早無く、巨人と化した改造魔族が吼える。
ルスカが苦戦をした改造魔族。
この場に居ない事に、ワズ大公は額から流れる冷や汗が止まらなくなっていた。
「ワズ大公。あれは儂がやる。やらねばならぬのだ」
クリストファーは、一人改造魔族と化した麗華に立ち向かうべく、巨人の眼前に立ち塞がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます