第十五話 アイシャ、一人立ち向かう

 ルスカ達が、グランツ王国を乗っ取ろうと計画していた時、アイシャは流星達ギルドパーティー一行を見送った後、一人ある場所へと向かっていた。


 それは神獣エイルの住み拠の洞窟。現在はギルドで管理して出入りを禁止している。

しかし、カホと流星経由でルスカからの話に神獣エイルとレプテルの書のことを聞いたアイシャは一つの決意を秘めていた。


 ルスカには毎度ながら厄介事が舞い込む。現に今もそうだ。アカツキを助けたいのだが、戦争が邪魔をしている。

アイシャは、少しでもルスカの手間を省けるように、エイルからアカツキの薬のことを、最低でも薬の詳細を書いているかもしれないレプテルの書のある場所を聞き出すつもりだった。


 前回エイルと会った時は、アイシャは相手にされずに会話もしていない。

今回も無駄足になるかもしれないが、少しでも自分に出来ることはしたかった。


 アイシャは責任を感じていた。もし、アカツキ達がレイン帝国へと向かうとき、ギルドマスターの責務を放棄してでもついていっていればアカツキがこんな事にならずに済んだかもと。


 もちろん、これはただの驕りだということは、アイシャ自身分かってはいる。

けれども、アカツキの悲報を聞いた時、激しく後悔したのだ。


 エイルは死を司る神獣と聞いた。エイルの声を聞いたアカツキは、その死が間近に迫っていたから。

ならば自分の命を賭ければエイルは話をしてくれるかもしれない。

死んで情報をルスカに伝えられなければ意味はないから、死ぬつもりも一切ない。

これはエイルとアイシャの我慢比べでもあった。


 洞窟を進みエイルの前に立つアイシャは、尻尾と耳をピンと立てて、睨み付ける。


「エイル! 私の話を聞いてください!」


 アイシャはエイルに向かって呼び掛けるが、蔦で覆われた女性の顔はその目を閉じたまま。

顔の横の白い花も今は沈黙を保つように蕾となっていた。


 我慢比べだと、その場に座り淡々と何度も呼び掛けるアイシャ。アカツキの経緯と呪いを解く薬の事、レプテルの書の居場所をエイルに尋ね続けた。


 ルスカが丁度グランツ王国の城の内部に突入していた頃、アイシャはエイルの目の前で倒れる。

水も飲まず、食べ物も摂らず、ただエイルに向かって尋ね続けていたのだが、遂に眩暈を起こしてしまい仰向けになり洞窟の天井を眺めていた。


 不覚だった。

元々は力尽きる前に洞窟を出るつもりだったのだが、ギリギリを攻めすぎたのだ。

立ち上がった瞬間に、眩暈を起こして動けなかった。


(ダメ……ですかね……あーあ、家事も出来てお金持ちの人と結婚したかったなー)


 ここまで諦めずに訴えてきたアイシャも、心が折れかけ始めていた。


(曾祖父に会ったら、褒めてくれるかな……って、ダメダメ! 私はまだ、なにもしていないじゃない!)


 最後の力を振り絞り口を動かすアイシャだが、声が出ない。必死に動かすが乾いた喉は上手く発声してくれなかった。


(エイルのアホ……唐変木……絶対化けて出てやるから、デカ女!)

『…………』


 最早悪口しか出てこない。


(あー、もうダメ……何も考えられない……)


 アイシャは見上げていた天井に今までの人生を思い描く。所謂走馬灯である。

ぼんやりと描かれる思い出は、ルスカやアカツキと出会った頃の事ばかり。

厄介事が多かったが、この時が一番楽しかったのだと再確認する。


(私が命を賭けた理由は、これか……)


 瞼を閉じたアイシャは、自然と笑顔を浮かべていた。


『…………誰ガデカ女デスカ』




◇◇◇




 グランツ王国のクーデターを成功させたルスカは、女王となったイミルに対して戦争を急ぎ止めるように提案する。

イミル女王も、アデルとゲイルをすぐに呼び寄せると停戦の書状をしたために執務室へと入っていく。


 ルスカと弥生、カホと流星の四人は地下牢に閉じ込めている元王妃や重臣達の元へと向かう。

四人はある男の牢の前で足を止めた。


 男の名前はノイン。自称預言者の男である。年老いてなお、欲深そうな顔をしており、しきりにルスカ達へ「罰が当たるぞ」と叫び続けている。

ノインに聞きたい事は、ただ一つ。何故、今戦争を進言したのかだ。


「何故、戦争を進言したかだと? そんなもの儂の預言に決まっておる」


 預言など無い。ルスカが聞きたい事は、そういう意味ではないのだ。


「そうではなく、戦争を起こした理由なのじゃ。戦争を起こせばグランツ王国にメリットがあるから起こしたのじゃろ」

「ふん。そんなこともわからぬのか。戦争で勝って賠償金を帝国から奪い下級貴族に与えて不満を取り除くためだ。それの何処が悪い」

「ちっ! そんな事を聞きたいのではないわ! その入れ知恵を誰がしたのか知りたいのじゃ!」


 ルスカ達の目的は、少なくともこの世界では戦争で賠償金を取るという考えはない。それにルスカ達には入れ知恵した相手の予想がついている。

あくまでもこれは確認に過ぎないのだ。


「な、何のことだ!?」


 ノインの目は右へ左へと落ち着かないでいる。とても分かりやすい人間で助かると安堵する。

そして、この程度の揺さぶりでボロを出すような奴には、拷問が効果的だ。

ルスカは、白状するまで拷問する旨をノインに告げると牢を後にしようする。


「ま、待ってくれ。話す、話します!」


 ノインの話では、帝国から使者が来て自分が対応したらしい。その使者は若い女性であったためノインは手厚くもてなし、王国側に抱き込もう、あわよくば懇ろにと考えた。


 ノインの企ては上手くいく。その女性は帝国が勇者パーティーを捕まえたから処分してもいいかと伝えに来たと言う。

そこでノインは王に進言、勇者パーティーを助けると名目で帝国に宣戦布告を、グルメールには宣戦布告を受けたから協力しろと要請するように。


 その女性から賠償金という策を入れ知恵してもらう。戦争の名目が立つようにする為に。

王は、ノインの提案を受けて動き出したのだった。


「その女性は、何というものじゃ?」

「えっと……確か……リリーと言う名前です」

「リリー? はて、何処かで聞いた名じゃ……」


 ノインから聞き出したリリーという名前。弥生もカホも流星も何処かで聞いたような気がしていた。


「あ。あぁ~~~~!! ラーズさんだ!」


 地下で大声で叫ぶ弥生の声が反響して、ルスカ達の鼓膜を直撃して思わず耳を塞ぐ。

弥生は、そんなルスカを気にする事なく一人「そうだ、そうだ」と納得していた。


 落ち着いたルスカも、弥生の言葉でリリーの存在を思い出す。それは、ワズ大公の息子ラーズの起こした事件で唯一捕まらなかった女性。

ラーズを唆し、幻影魔法で兵士を狂わせた張本人と思われる人物。


 どんな姿をした女性かは分からないが、少なくとも魔族側にはいるのは間違いないのだ。

ラーズは、そのリリーという女性に関しては一切口にせずに処刑された。

ノインにリリーという女性の容姿を尋ねるが、返ってきた答えは美人だとか、色っぽいとか他愛のない情報ばかり。


 他に何か無いのかと問いただすと、ノインは拷問が嫌で何かないかと必死に思い出していた。


「あっ」


 ノインが小さな声を漏らすのをルスカは聞き逃さなかった。言いたい事があるならハッキリ言えと、ルスカは再び拷問をちらつかせる。


「いや……もしかしたら儂の聞き間違いかも……」

「いいから言うのじゃ!」

「一度、リリーが誰かと会っているのを見たのだが、その……相手は分からなかったがリリーが“マブチ様”がどうのこうのと……」


 四人は一斉に眉間を指で摘まんで天井を仰ぐ。やはり、その名前が出てきたかと。


「ん? マブチ“様”じゃと?」


 ルスカには、一人だけ馬渕を様付けで呼ぶ女性に覚えが。それはマブチとルスカが対峙したとき、魔王アドメラルクを押さえ込んだリリスという魔族を。

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