第十三話 幼女、王女と共に国を乗っ取りにかかる

 戦争を止めてグランツ王国の国民を守るか、それとも動かずに自分の身内を守るのかイミルにとって辛い決断だった。

教会内は、イミルの答えを待ち静寂に包まれる。

あまり時間は残されていない。

そろそろ、外で警備しているであろう兵士が、異変に気づいてもおかしくはない。


「罪があるのは、わたくしも含めて……ですね」


 イミルは決断する。例え両親、兄弟から裏切り者と罵られても受け入れる覚悟で……。


 決断したイミルを束縛していたつるを解いてやると、ルスカはイミルの頬を再び流れる涙を拭いてやった。


「ありがとうございます。それで具体的にはどうするのでしょうか。わたくしには気心の知れる方などおりませんわ」

「そうじゃの……お主にはワシらを城へと手引きして貰いたいのじゃ。あとは、ワシがなんとかしてみせるからの」

「あなたが……ですか?」


 イミルには、ルスカがただの幼女にしか見えておらず、上手く行くのか急に不安になる。

何せ、失敗すれば自分も含めてこの国自体も危うくなるのだ。


「あ、そうだ!」


 チェスターは改めてルスカ達をイミルに説明する。ルスカ自身も己が誰なのかを説明するのを、すっかり忘れていたのだ。

イミルは、ルスカの事を噂程度でしか知らなかった。

シャウザードの森に前勇者パーティーの仲間である大賢者がいると。


 イミルにはルスカの真偽は取れないが、戦争を止めるためには時間を割いてはいられない。


「アデル、ゲイル!」


 急に外へと呼び掛けたイミルに、ルスカは警戒して杖を持つ手に力を込める。

教会の正門が開かれて中に二人の若い兵士が入ってきた。


「「王女様!!」」


 二人はイミルの周囲にいるルスカ達を訝しげな目で見ると、すぐさま槍を向けて構えを取るが、イミルが下げる様に指示すると槍を納めた。


「この二人はわたくしの護衛で唯一信頼出来ます」


 イミルの説明にそう言うことならと、ルスカも魔法を飛ばそうとしていた杖を降ろす。イミルは二人に改めて自分の決断を話す。

二人はルスカ達を怪しみ反対する。

その理由も、イミルの安否を気遣ってのことだったが、イミルの決意は揺るがない。

イミルがそこまで言うならばと、二人もイミルについていくと言う。


 だが、まだ人数が足りない。多くの兵士が戦場へと出てはいるが、まだ少数の兵士が残っているとアデルは話す。

とはいえ、もたもたともしていられない。

ルスカは強行策を取るしかないと提案するのだが、事後のことも考えて味方は多い方がよいと却下されてしまった。


「え!?」


 作戦の話に入っていなかった弥生が、突然声を発する。どうかしたのかと、ルスカ達は論議を一度中断して弥生の周りを囲む。


「どうしたのじゃ?」

「今、カホのスキルで経過報告していたのだけれども、何かカホ達はこっちに向かっているって」

「なんじゃと!?」


 ルスカは最悪の事態を想定する。グルメールに向かっていたカホ達が、こちらに来るということはグルメール王国に何かあったのかと。

弥生は、それを確かめるべくカホとスキル“通紙”で、会話を続けていた。


「えっと……よく分からないのだけど。ナックは取り敢えずタツロウくんの奥さんと子供をグルメールに届ける為に別れて、カホは合流した流星くんとこっちに来るって……それと……」


 弥生は、どうしてこうなったのかは分からないと前置きしてから連絡してきた内容を伝える。

流星がヤーヤーを含むグルメール国内の大部分のギルドパーティーを引き連れてこちらを攻めに来ていると。


「ついとるかもしれぬ。ヤヨイー、カホに連絡あるまでグランツリーの内で隠れて待機しといてもらうのじゃ」

「わかった!」


 ルスカは再び作戦を練り始めた。

流星達と綿密に連絡を取り、グランツリーに残っている兵士を流星達に任せて自分達がその間に城を制圧するのだと。


 王都グランツリー内には容易に入り込めるが、問題は貴族街を取り囲む城門。

警備は厚く入り込むのは容易いことではない。


 アデルが何としても門は開けると張り切るが、突入とタイミングを合わせなければならない。

そこで、白羽の矢が立ったのが日本語を扱えカホとも連絡を取れるタツロウだ。


 カホは今のタツロウを知っている。タツロウが貴族街から出て門が開くタイミングで突入するのだ。

万一の為にタツロウの警護にゲイルが着くこととなった。


「まかしとき! それに俺にもちょっと良い手が浮かんだや、それは、当日のお楽しみってことで」


 サムズアップしたタツロウは、その後ゲイルと綿密に打ち合わせを始める。


「それじゃあ決行は流星が到着後の夜。城の人間が流星達に気を捕らわれている間にワシとヤヨイー、チェスターがお主の案内で、城に突入する。これで良いな?」

「はい。王族専用の避難経路の出口をお教えしますわ。そこから、突入してください。アデル! チェスターさんに場所を」


 チェスターとアデルが教会を出ていくと、イミルはルスカに改めて成功するのかと尋ねる。イミルの不安は実質ルスカのみで城を制圧など出来るのか不安で仕方ないのだ。


「心配いらぬのじゃ。今日みたいに重臣が集まる場所に植物を置いておければより確実じゃがの」


 ルスカは先ほどまでイミルを拘束していた祭壇横の観葉植物を杖で指し示すと、成る程とイミルもその意味を理解した。


 チェスターとアデルが戻ってくると、この日は解散となる。本当の牧師は、服を再び着替えさせて階段下に置き足を滑らした様に見せかけてチェスターの家へと戻るのだった。


 翌日、教会では強盗が入ったと騒ぎになる。扉が破壊されており、気絶した神父がいたのだ。

しかし、盗まれた物は無く騒ぎはすぐに沈静化を見せることになった。


 ルスカ達はチェスターの家で潜伏していたが、タツロウだけは忙しなく外出を繰り返すので、ルスカが何をしているのかと尋ねても「内緒や」とはぐらかす。

タツロウの怪しい動きにチェスターは不安になるも、弥生が、タツロウは昔からこんな感じだと言われて、納得するしかなかった。


 二日が経ち流星達を今か今かと待ち続けていると、タツロウの「準備終わったで」との報告と同じくしてカホからもグランツリー内に潜伏成功の報告が来る。

決行は今夜。

タツロウはゲイルと合流する為に先に出ていく。

ルスカ達も王族の逃走経路の出口へとチェスターの案内で向かうのだった。


 夜も更ける、静かな街にギギギと門の開く音だけが聞こえる。

門から出てきたのは勿論タツロウ、そしてゲイルの二人。

赤く燃える松明の横を通り過ぎるとともに、タツロウとゲイルは松明を蹴り飛ばす。

と、同時に街中から一斉に松明の明かりが。


「突撃!」


 掛け声と同じくしてワァーーッと声が上がり、正門に向けて松明の明かりが突入していく。


「ほほほほ!! 結婚も決まり絶好調のヤーヤー率いる“姫とお供たち”が、一番やりを頂きますわ!!」


 何事と集まる警備兵に向けてヤーヤーの魔法が飛んでいく。ヤーヤーはAランクに上がった途端に多くのプロポーズを受けており、最近ようやく結婚が決まったのだ。

勿論、相手はヤーヤーがグルメール国内唯一のAランクの逆玉狙いであったのだが。


 しかし、ヤーヤーにはそんな事はどうでもいいのだ。ただ、結婚が決まり浮かれまくっていた。


「ヤーヤーに負けるな! “茨の道”のハイネル、参る!!」


 ヤーヤーが崩した正面から一気に門を潜り抜けてハイネルと警備兵が激突する。

そこにようやく騒ぎを聞き付けた本来の街の外壁にいた兵士達も、ヤーヤーやハイネルの後方から駆けつけてきたのだが、更に混乱をきたす結果となった。

何せ、更に背後から兵士を襲ったのはゴブリン達。

挟み撃ちするつもりが、挟み撃ちされたのである。


 それだけでは、終わらない。


 街中から一斉に雄叫びが上がった。正門を確保したヤーヤーやハイネルに続いて、農作業用の鍬などを持ったグランツリーの国民が蜂起したのである。

手を回したのは、タツロウ。

商人という顔の広さを利用して、声をかけて蜂起を促したのだ。

危ない橋を渡りたくないという者もいたが、様子をしばらく伺い優勢そうなら蜂起したらいいと利を説いた。


 結果、優勢とみた街中のグランツリーの国民も乗り遅れてたまるかと、一気に貴族街を襲ったのだった。

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