第十二話 幼女、王女を拘束する

 まだ日も昇る気配のない夜中に浮かぶ王都グランツリーの教会から漏れる微かなランプの灯り。

それを建物の陰から覗き込む四人の人影。


「あの灯りはずっとついておるのじゃな?」

「消えることはないわ。聖女認定の時に消すなって言われて夜中に度々新しく点けていたもの」


 ヒソヒソと小声で話すのは、ルスカとチェスターである。ルスカ達は、教会を襲撃するべく様子を空が暗くなってからずっと伺っていた。


「しかし、ギルドが当てにならないのは残念だったね」

「まぁ、貴族どももそれほどバカではないと言うことじゃ」


 ルスカ達がチェスターの母親を見送った後、真っ先に向かったのがグランツリーのこの貴族街のギルドだった。

人手不足もあり、人手を借りようと思っていたのだが、ここのギルドマスターと堂々と人目を気にせずにこの国の伯爵が話をしているのを目撃する。


 人目を憚らないということは、それほどこの貴族街では、よくある事なのだとルスカは即座に判断してギルドを頼るのを止めたのだった。


 タツロウが言うには一般人が住む街にもギルドはあるものの、貴族街と隔たれた門が、容易には突破は無理だと。


 結果ルスカ達は、ひとまず第二王女に会うべく作戦を実行に移すのだった。


「よし、接近するのじゃ」


 教会の裏口へと回り、中の様子を伺う。特には人影は無く、チェスターが言うには二階に当番の神父が一人いるはずだと。

裏口には当然鍵がかかっており、扉は開かない。


“ビクリバコ”


 ゴンッ、と鈍い音が静かな暗闇に響く。取っ手と鍵の位置を狙い扉に穴を開けたのだが、物音がすれば二階の神父は降りて来るのは当然である。


「なにやってるのよ、ルスカちゃん」


 弥生に咎められるが平然としているルスカは、壊れた扉を開き中へと入っていく。


「な、なんだね!? キミは!」

“ビクリバコ”


 再びゴンッと鈍い音と共に、額にコブを作って失神した神父が階段から落ちて来た。


「ルスカ様、過激やなぁ」


 タツロウは呆れながら、テキパキと神父の服を剥いでいく。最早只の追い剥ぎね、と言う弥生も、教会内を物色して隠れれそうな場所を探していた。


「この祭壇裏とかどうかな?」

「うむ。あと、そこの観葉植物を祭壇脇に移動させて欲しいのじゃ」


 弥生とチェスターは、ルスカの言われたとおり教会の隅に置かれた観葉植物を二鉢、祭壇の横へと移動させる。


「格好、おかしないかな?」


 神父服に身を包んだタツロウが、似合うかと体を回転させてみた。


「おかしくはないですが、おかしいのは喋り方ですね」

「そんなん無茶やで。俺、転移してからもずっとこれやし」

「黙っとくのが一番じゃな、タツロウ」


 お喋りのタツロウに黙っておけるか不安な三人だったが、男はタツロウのみ。

やむ無しと、再度黙っておくようにと念を押した。


 祭壇にはタツロウが、弥生とルスカは祭壇の裏タツロウの足元に隠れる。

チェスターは、本物の神父が目覚めて逃げ出さないように縄で縛り、見張っていた。


 そこにガチャリと音がして教会の正面の扉が開かれる。中に入ってきたのは、一人の女性なのだが、白いローブを頭から被り顔がよく分からない。

女性は祭壇前で跪くと、祈り始める。


 チェスターに視線で確認するが、チェスターからの位置だとローブが邪魔で顔がよく見えない。

何度も視線を送られ、急かされるチェスターも、右往左往するだけでは確認出来なかった。


「あら? 神父様、お代わりになりましたの?」


 女性がタツロウを見て疑い出したのか、そう考えたルスカ達はタツロウの足元から喋るなと視線で合図する。


「せ、せやねん。地方から見習いで来たとこですねん、王女様」


 ルスカ達は、心の中で声を大にして言いたい。アホかと。


 よりにもよって、関西弁で、それも地方から来た人間が何故、一目見て王女様だとわかるのだと。


「あら、わたくし名乗りましたでしょうか?」


 案の定、疑い出す女性。しかし、ある意味ナイスだったのかもしれない。自ら自分が王女だと名乗ったようなものだから。


“グラスバインド!”


 ルスカが魔法を唱えると祭壇脇に置かれた観葉植物からつるが伸びて王女を一気に拘束する。

「きゃっ!」と小さな悲鳴を上げたものの、すぐに口を塞ぎ縛り上げた。


 ローブを剥ぎ取り、チェスターを呼んで確認させる。


「間違いなく第二王女のイミル様よ」


 イミルは自分の顔をまじまじと見てくるチェスターに驚く。何故、帝国に捕まったはずのチェスターがここにいるのだと。


「王女よ。先に言っておくのじゃ。ワシはハッキリ言って戦争を止めたいのじゃが、こんな回りくどい手段を取ったのはあくまでもグランツリーに住む人々の事を思ってじゃ。正直、時間が一分一秒でも惜しい。それを踏まえてのぉ、話を聞いて欲しいのじゃ」


 イミルはルスカを睨む目付きに変化は無く、つるから逃れようともがく。ここでイミルに話を聞いてもらえないと意味がない。

チェスターは、ルスカとイミルの間に割って入る。


「イミル王女様。私を覚えていますか?」


 つるで塞がれて喋れないため、頷いて返事をする。自分を覚えていてくれたことに少し安堵したチェスターは、ゆっくりと話に入る。


 自分達がアドメラルクと出会い、帝国でやらかして追われる事になったことから始まり、戦争に至った食い違う王国と帝国の言い分、何より王国の裏に馬渕、そして新魔王の陰があるということを。


 荒唐無稽な話ではある。そもそも魔王が帝国側にいるなど信じられないしチェスター自身が帝国寄りに行動していることがイミルには怪しく思えた。


「ちょっと、ええか」


 更にタツロウが割って入る。今教会の外で警護しているはずの兵士が、時間経ち過ぎだ、と違和感を感じて教会内へと入ってくるまで、そう間が無いだろう。

タツロウの説得で駄目なら、交渉決裂である。


「あんな王女はん。王女はんは、戦争止めたくないんか?」


 イミルは、首を何度も横に振る。


「ほんなら、何で俺らみたいに行動に移さんの? 言っとくけど止めれる立場にある人間が口に言うだけで行動に移さんのは…………それだけで“罪”や!」


 急に語尾を強められて、イミルは体をビクッと震わせる。少し俯きがちになったイミルは、萎縮して黙ってしまう。

そしてイミルの切れ長の目頭から、頬を伝い床にポタポタと雫石がこぼれ落ちた。


 タツロウに弥生やチェスターから白い目が向けられる。いきなり泣くとは、思わず動揺するタツロウ。

フォローしようとあたふたしていたが、次々と流れる涙が止まらない。


 そんな中、唯一ルスカだけは、冷ややかな目でイミルを見ていた。タンッと杖で床を一度叩くとイミルの口を塞いでいたつるがほどける。


「いつまで泣いておるのじゃ。お主に与えられた選択は二つ。ワシらと共に戦争を止めるために行動を起こすか、己の保身を図るかじゃ。早く決めるのじゃ!」


 杖先を目の前に突きつけられたイミルは、袖で涙を強く拭う。そして…………


「わかりました。わたくしも動きます、ただあなた達のためではありません。この国の行く末を案じるためです」


 ルスカに負けじと睨み返すイミルに、ルスカはフッと笑みを溢す。

正直、ここで躊躇うようであればルスカは見限るつもりであった。また、ルスカ達に流されるまま協力するようであれば、この王女も今の王室と変わらないと判断して見限るつもりだったのだ。


 だが、このイミル王女は、感情を揺さぶられながらも、あくまでこの国の為と、ぶれることは無く、ルスカも安心した為の笑みであった。


「ですが、わたくしには立場はあれど力がありません。一体どうするのですか?」

「うむ。ワシの考えで良いかの?」


 ルスカの提案は三つ。


一、グランツ王国の改革。

一、戦争を始めた張本人の炙り出し。

一、停戦後の帝国との和解かつ、新魔王に対抗するべくお互いに協力する。


 二番目と三番目は、話をちゃんと聞いていれば当然といえば当然で、イミルも快諾出来るものだった。

イミルにとって、問題は一番目。グランツ王国の改革。貴族からの反発は当然あるだろうし、何より王室の崩壊、つまり自分の父母兄弟を売ることになる。


「恐らく一番目の提案で、悩んでおるのじゃろ。しかしな、先ほどタツロウも言った、止めれる立場が動かないのはそれだけで“罪”だと。別に処刑しろなどとは言わぬしお主に任せるのじゃ、じゃがせめて後腐れの無いようにするのじゃな」


 追放って手もあるが、それだと必ず後々厄介なことになる。となると、後腐れの無いようにするには……。

自分に任せるというルスカの無言の提案に思い悩むイミルだった。

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