第二十話 青年とナック、いやいやいや…………あり得ないって

「いやいやいや、あり得ないですって」

「いやいやいや、あり得ねぇよ」


 思わずアカツキとナックは同調してしまう。

弥生は、ピンときていない様子だが、ヴァレッタとルーカスも信じられないという表情だ。


「勇者と魔王が? 一緒に? どんな状況ですか、それは」

「分からぬ。分からぬが、ワシが聞いてきた話を纏めると間違いなく魔王アドメラルクじゃ」


 ヴァレッタは、ルスカと共に色街で聞いてきた話を全員に伝える。

ルスカは、勇者と一緒にいた金髪の男が気になっていた。


 パーティーのランク=強さではないが、SSランクのパーティー、それも名を馳せている“虎の穴”。

決して弱いとは思えない。

そんなパーティーを瞬殺など、なかなか出来るものではない。


 勇者パーティーが強い者を仲間にしたがっていたのは、

ルスカ自身が一番知っている。

だとすれば、相当の手練れを仲間にしたのだろうと。


 ルスカは確かめるべく、その金髪の男の特徴を聞いて回った。

やれ、美形だ。

やれ、背が高いなど、これといって特定可能な特徴は見つからなかった。


 しかし、“虎の穴”と勇者パーティーが揉める原因となった女性から特定出来る特徴を聞き出せた。


 その女性は、絡んできた勇者達に無理矢理、腕を掴まれ勇者達のすぐそばに引っ張られ、側で金髪の男を見ていたそうだ。


「紋様?」

「うむ。詳細は話せぬのだが……魔王にも、この紋様があるはずじゃ」


 ルスカは、不意に魔力を高めていく。街に住み着く鳥達は察して一斉に飛んで行き、部屋の中にいたアカツキ達は、背筋が凍りついた。


「これじゃ」


 魔力を元に戻したルスカは、自分の目を指差してアカツキに顔を近づける。

接触しそうなほど近い距離。しかし、アカツキでそこで見たのはルスカの緋色の瞳に写る六芒星、そして六芒星の真ん中をぐるぐると回る円。


「これは、一体……」


 ルスカの顔を無理矢理自分の方に向けさせた弥生も、不思議な紋様に「はぁ~」と声が漏れる。


「全く同じものではないがの。魔王にもこれがある。この“魔王紋”とも呼ばれるものがじゃ」


 すぐそばで、金髪の男を見ていた女性も同じものを見たという。


「魔王紋というからには、魔王にしか無いってことですか?」

「詳しくは言えぬのじゃ。言いたくないではなく、言えないのじゃ」


 ルスカが申し訳なさそうな顔を見せた所を考えると、本当に言えないのだろう。


「それでは、本当に魔王アドメラルクなのですね」

「その女性が見間違えてなければの」


 厄介な事態に、全員頭が痛くなる。勇者と魔王が手を組んで、皇帝の娘を拐うなんて。


 皇帝は、魔王の存在を知らないだろう。

下手に手を出せば、帝国の危機。


 グランツ王国も知らないだろう。

勇者が魔王と手を組んだなど。

国の沽券に大きく関わってくる。


「ベストは、事情を知っている私達が秘密裏に、皇帝の娘を助けて、魔王と手を組んだ勇者にどういうつもりか問い質して、魔王にお帰り願うってところですか」

「何か理由があって魔王は、勇者と一緒にいるはずじゃ。それが叶わぬと帰らぬじゃろ。何より間違いなく敵対してくるはずじゃ」


 暗に魔王は倒さなければ、解決しないと言っているようなもの。アカツキ達に手に負える相手ではない。


「心配いらぬのじゃ。まだ前回の封印から力が完全に戻っておらぬはずじゃ。ワシ一人でもなんとかなるのじゃ!」


 果たしてルスカ一人に魔王を任せてもいいのだろうか。しかし、時間は刻一刻と失われていく。

戦争が始まるまで間もない。


 どうするべきかと悩むのは、アカツキただ一人。

いつの間にか、皆がアカツキに決断を委ねていた。

そして、アカツキは決断する。自分達でレベッカを救おうと。


 準備としてアカツキは、ルーカスに頼みごとをする。


「旦那様。二つほどお願いがあります」

「何でも言ってくれ」

「まず、一つは帝都の南側に人を派遣してください。必ず、何処かに馬車か馬車の痕跡があるはずです」

「アカツキ、何故、南なんだ?」


 突然、勇者達が逃げたのが南だと断言したアカツキ。

ナックは理由が分からず、ルーカスとの会話に割り込んできた。


「ナックさん、それはこの帝都が北と南にしか出入り口が無いからです。

北に逃げる可能性はありません。グランツ王国へ行けますが、今は北の砦の通り抜けは困難でしょう。

ですから、南なのです。南ならルートは二つ。一つはドワーフの国へ向かう。もう一つは南の森から砂漠を横断してグランツ王国に行くルートです」

「それで、南なのだな。馬車では森を通り抜け出来ないだらろうし、確かに置いておくしかないな」


 アカツキの考えを理解したナックは、再びアカツキの話の続きを聞くことにした。


「馬車を見つけたら、旦那様は、なるべく宰相を通さないように皇帝にそれとなく耳に入れて欲しいのです。

宰相でレベッカ様誘拐の件を止めているのなら、皇帝は色々宰相を疑うはずです。

何故なら、宰相は真剣に勇者達を探してはいないはずですから」

「なるほどな。宰相が馬車を私が見つけた、という状況を作る訳だな。

箝口令が外部に漏れている点と、本当に探しているのかの二点で、宰相への疑念を抱かせるのか。

で、もう一つは何だ?」

「もう一つは…………旦那様とお嬢様に死ぬ覚悟をお持ち頂きたいのです」


 この場にいた全員に衝撃が走る。ルーカスも例外ではなかったが、そこは元軍事統括官だけあって、冷静さをすぐに取り戻すと、何故、自分だけでなくヴァレッタもなのだろうと思慮する。

アカツキは先ほど自分を生かす道を示したばかりだ。

そこに矛盾が生じる。


 ルーカスは、今まで得た情報を整理すると共にアカツキの性格を考える。


 人のために行動出来る人間。時には自分の犠牲などお構い無し。そして最悪の事態を最も避けたがる。

それがルーカスから見たアカツキの評価だった。


 つまり、最悪の事態とはアカツキ達が魔王に負け、戦争が起きてしまう。

最低でも戦争は避けて欲しいと、自分に言っていると結論付けた。


「私に、皇帝に逆らえと?」


 アカツキは、黙って頷く。普段のルーカスだと、怒り出しただろう。

しかし、憤慨しなかったのはルーカス自身が、最後の手段として前々から考えていたからである。


「アカツキ、詳しく話すのじゃ。ルーカス殿に申し訳ないじゃろ」

「あくまでもこれは、私達が失敗したらの話です。戦争を止めるために、内乱を起こして戦争を回避してもらいたいということです」


 ルーカスは悩む。アカツキの言っていることは分かる。ただ内乱に失敗すれば、ヴァレッタも家族として罰せられる。

成功したとしても、現皇帝を慕う者もいる。

そうなると、今度は自分が内乱を起こされるだろう。


 気がかりなのは、やはり娘のヴァレッタのこと。

しかしヴァレッタから帰ってきた答えは、意外なものだった。


「お父様。私はアカツキを信じておりますわ。ですので、私が死ぬこともないです」


 真っ直ぐアカツキを見据え堂々と言い放つ娘に、ルーカスも覚悟を決めてアカツキの提案に同意した。



◇◇◇



 地図を広げてまずは勇者達の行き先を探る。

南へと向かったのは間違いなく、奪われた馬車の行き先が南の出入り口に向かったのを目撃していた者がいた。


 問題は、何処に向かったかだ。ルーカスの話ではドワーフの国、ドゥワフ国には向かえないだろうと。

属国ではないとはいえドゥワフ国と帝国は友好国同士。

特にレベッカ自身が、友好を深めるべく頻繁にドゥワフ国へと足を運んでいたと聞く。


「森の中では馬車は無理では? 馬に乗せて行くのですか?」

「いや……むしろ、あの方ならご自分で馬を操るだろうな」


 人質として一番危ないのが、足手まといになることだ。

だが、ルーカスの話だと逃亡の足手まといにはならないと考慮して、改めて地図を見る。


「旦那様、ここは?」


 森の中を流れる川の上流、ドゥワフ国の側に湖がある場所を指差す。


「そこは皇帝の保養地で別荘もあるサワス湖だな」

「管理はされているのでしょうか?」

「当たり前だ。いつ皇帝が来られるかもしれないのだ。食料もたっぷり保管……まさか!!」

「可能性は高いですね。勇者達が知っているとは思えませんが、レベッカ様なら……」


 アカツキは、賭けに出る。もし、ここが外れならばレベッカは殺され、勇者達はドゥワフ国に逃げ込んだ可能性が高くなる。


「それでは旦那様、お嬢様。行って参ります」

「行ってくるのじゃ」


 勇者達を追うことに決めたアカツキ達。目的地は南の森を走る川の上流の湖、サワス湖。

もう、かなり日は暮れ始めていたが帝都は、街道だけでなく、家々の灯りが煌々としており、まだまだ明るい。


 今出発だと夜中に森へと入ることになるが、今は猶予がない。


「アカツキ……気をつけて。皆さん、無事をお祈りしておりますわ」


 ヴァレッタとルーカスに見送られて、アカツキ達は出発し、その姿は人混みの中へと消えていく。


 再会を果たした時、そこにアカツキの姿が居ないことを二人は、まだ知らない。

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