第十九話 幼女、その男に覚えあり

 アカツキの過去を知りヴァレッタは、気まずくなりこの場から立ち去ろうとするが、それを止めたのはアカツキだった。


 自分をこれ以上辱しめるのかと思ったが、アカツキは帝国に来た本来の目的を話す。


「なるほど。やはりグルメール王国の使者としてか」

「それもありますが、一番の目的は宣戦布告を帝国が行った理由を調べにきたのです。旦那様なら何かご存知ではないかと」


 ルーカスは、さてどうしたものかと悩みだす。

既に退職した身だが未だに諫言かんげんを皇帝にするほど、忠義を示すルーカスは、自国の事を他国の使者であるアカツキに話して良いものだろうかと。


「旦那様の心中は察します。しかし、戦争が始まると多くの人々が犠牲になるのです。それは、この帝国でも同じこと。戦争を止めれるなら、止めなければなりません」


 アカツキの正論にルーカスは反論出来ない。ルーカス自身も皇帝に何度も戦争の中止を申し立ててはいた。

そのことをアカツキに話すと、なおさら戦争の回避のために協力してほしいとお願いされる。


「まず、間違いを修正しようか」


 協力するためには情報の擦り合わせが大事になってくる。

協力に応じる意味でルーカスから、まずは切り出した。


「帝国から宣戦布告と言っていたが、宣戦布告を出したのはグランツ王国だ」

「それは、本当ですか!?」


 アカツキ達は、一斉にざわつく。宣戦布告を出す方と受ける方では周囲の受け取り方が変わる。

意味もなく宣戦布告をすれば、大義を失い周囲から疑惑、やがて反乱などが起きる。


 グランツ王国が嘘をグルメールにした時点で、その大義は失われつつあった。


「一体なぜグランツ王国が!?」

「実はな情報が錯綜しているのだ。私が知る限りの情報を出す。それを聞きアカツキ達も一緒に考えて欲しいのだ」


 ルーカスから手に入れた情報は以下だった。

・グランツ王国からの宣戦布告の理由に、捕まえた勇者パーティーを返せと言ってきている。

・レイン帝国は、勇者パーティーを捕まえてなどいないし、むしろ探しているという。

・二週間以上前に勇者パーティーを帝都内での目撃情報を手に入れている。


「はぁ……勇者パーティーあやつらが原因みたいじゃの」

「しかし、矛盾もあるよね。王国と帝国で」


 なぜグランツ王国は、捕まえていない勇者パーティーを返せと言うのか。

その辺りが鍵なような気がしてならなかった。


「まだ情報が足らないと思います。かと言って、私達が帝都を彷徨うろつくのもどうかと。他に何か手が……」

「私がやりますわ。アカツキの探って欲しいことがあれば、メイラに頼んで探ってもらいます。色街には、情報が集まるでしょうし」


 ヴァレッタの少しでも役に立とうとの提案に、アカツキは快くお願いする。


「それでは、お嬢様。勇者パーティーがこの帝都で何をしていたかを探って貰えませんか?」

「アカツキ、あとは何をやらかしたかも調べた方がよいのじゃ。あやつらなら何かしでかしておっても不思議ではないのじゃ」

「そうですね。お嬢様、お願いします」

「わかったわ。早速メイラの所に行ってくるわ」


 ヴァレッタが出ていき、アカツキ達はルーカスと共に再び手がかりを探る。


「なぁ、アカツキよ」

「ナックさん? どうしましたか」

「いや、ちょっと思ったのだが……」

「ナック。言いたいことはちゃんと言わないと」


“言いたいことは言わなあかん。ちょっと先に何があるかわからん世界や”


 弥生はタツロウに言われた言葉をしっかりと心に刻んでいた。

ナックの言葉一つで、先の展開が変わることもあるのだ。


「いや、本当に些細な疑問なのだが。グランツ王国は、どうして帝国に勇者パーティーがいるのを知ったのだ?」


 確かに言われてみるとおかしい。勇者パーティー自身がグランツ王国に報告したとも考えられるが、よりにもよって、王国と仲の良くない帝都にいると話すだろうか?


「誰かから王国に知らせた? 捕まえたなど事実無根なのに? 誰が……? 帝国が?」


 ルーカスがテーブルを叩き立ち上がる。


「それは、ない。そんな事をして帝国に何のメリットがある? ただイタズラに混乱を招くだけではないか!?」

「旦那様、落ち着いてください。あくまで可能性ですから」

「しかし……!」


 カッとなってしまったルーカスを宥めるが、考えられぬと勢いよく、椅子に座る。


「ルーカス殿、帝国の軍事は今は誰が握っておるのじゃ?」

「今は私の元部下が私の後釜についておるが」


「それなら問題──」


 問題ないのじゃといいかけた時、ヴァレッタが帰って来た扉の音に驚く。

戻って来たヴァレッタは、急いで戻って来たのだとわかるくらいに息を切らしていた。


「どうしたのですか? お嬢様」


 アカツキが水をコップに入れて渡すと、奪いように受け取りガブ飲みする。


 呼吸が整うのを待ち、ヴァレッタが大きく息を吸い込む。


「わかりました。というより、私がもっとお父様に協力して戦争の抑止に動いていればと反省するばかりですわ」

「それはいいですよ、お嬢様。それよりわかったというのは?」

「ルスカ様の言う通り、やらかしていましたわ。勇者パーティー。それもトンでもないことを」


 ヴァレッタがメイラに聞くと答えは直ぐに返ってきたという。

メイラの話だと、勇者パーティーはこの色街でギルドのSSランクパーティーと一悶着を起こしたらしい。


 勇者達と揉めたSSランクパーティー“虎の穴”。アカツキも知る程の実力者で皇帝も目をかけるほどである。


 メイラによると、勇者達に瞬殺されたという。


「ナックさんが酒場で得た“虎の穴”と揉めたというのは、勇者パーティーだったのですね。ルスカ、勇者達はそれほど強いのですか?」

「いや、あり得ぬのじゃ。ワシの見た限りでは、ナックの方が強いの。ただ装備は金をかけていいものを揃えておったが」


 ヴァレッタがメイラに聞いた話だと、勇者達の仲間にいた金髪の男性の仕業で一人でやったとのことだった。


「金髪? そんなの勇者パーティーに居なかったのじゃ。恐らくワシが居なくなったあと仲間にでも引き入れたのじゃろ。

しかし、SSランクパーティーを瞬殺とは異常じゃ……ん? 金髪?」


 ルスカは何か思うところがあるのか、それ以上黙ってしまう。

しかし、ヴァレッタの話は、それだけではなかった。


「色街での出来事だったので、なかなか兵士が来ず、勇者達は、逃げ出したみたいですわ。

ただ、逃げる際に一台の馬車を奪ったのですが……その馬車というのがレベッカ様の馬車で……」

「なにぃ!?」


 ルーカスが、思わずヴァレッタに怒鳴る。


「アカツキくん。レベッカ様って?」

「私が知っているレベッカ様なら、その方は皇帝の娘のはずです。

それで、お嬢様。レベッカ様はご無事で?」

「恐らく無事ではない」


 ヴァレッタの代わりにルーカスが答える。レベッカの事で何か知っているのだろう。

ルーカスの額には汗が吹き出していた。


「レベッカ様は、公にはご病気となっている。しかし、今の話を聞いて、それは建前だろう。レベッカ様は拐かされたのだ、勇者達に」


 勇者と言えば、魔王を倒す役目であり、人々の味方だ。それが、SSランクパーティーを殺し、皇帝の娘を拐ったのだ。

もはや、勇者などと言えないだろう。


 グランツ王国にとっては、恥。

 帝国にとっては、皇帝の娘を拐った相手。


「アカツキ、ちょっとメイラの所に行ってくるのじゃ」

「ルスカ?」

「ヴァレッタ、連れてってもらえぬか?」

「ええ、それは構わないわ。でも……」

「お嬢様お願いします」


 ルスカとヴァレッタが出ていくと、再び情報の擦り合わせにかかる。


「旦那様。レベッカ様が拐われたと知っている人は居なかったのですか?」

「うむ。知っている者が居れば私の耳に入ってもおかしくない」


 帝国ナンバー三の元軍事統括官、そして現軍事統括官は元部下だ。ルーカスを慕う者も多い。

箝口令かんこうれいでも引かれたとしても、ルーカスの耳には入るだろう。

つまり、この騒動は現軍事統括官すら聞かされていないことになる。


「……宰相ブリスティン。だとすればグランツ王国に知らせたのもあの者かもしれません」


 軍事統括官に話が通っていないなら、帝国ナンバー二の宰相の所で止まっていることになる。


「レベッカ様が拐われたことを知っているのは、皇帝、そしてブリスティンくらい、だからか……しかし、あいつに何のメリットが?」


 アカツキは首を横に振り、それは分からないと。

そこにメイラの所から戻ってきたルスカだったが、どうも様子がおかしい。


「ありえぬ……」


 消え入りそうな声で呟くだけで、何をしにいったのかも話そうとしない。


 ヴァレッタに聞くも、ルスカは金髪の男の容姿を聞いていただけだったと。


 ルスカは、一つ大きく息を吐き、頭の中で考えを巡らし終えるとその結論を話し出した。


「まず、あり得ぬ前提で聞いて欲しいのじゃが、勇者と一緒にいたその男──」


 ルスカはそこまで言っても、躊躇っていた。確信はある。しかし、本当にあり得ない話だった。




「その男、恐らく魔王アドメラルクじゃ」 

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