閑話

閑話 ラーズの変、その後

 ファーマーの兵士のほとんどが捕縛されたおかげで、家の中に閉じ込もっていた街の住人も出てこれるようになり、僅かにだが活気が戻ってくる。


 ギルドも隅っこの一軒家から、元の場所へと戻された。


「あぁ~、やっと帰って来ました~。アイシャ先輩、帰って来ましたよ~」


 元々ギルドの受付だった場所に頬擦りをして喜ぶエリーを無視して、アイシャは酒の匂いが充満している空気を入れ換えるべく、窓を全て開けていった。


 アカツキとルスカとナックの三人は、ゴブリンの洞窟へと弥生、そして流星達を迎えに向かう。

目的は、今後ゴブリン達をワズ大公がどう対応するのかを話合うために。


 アカツキ達がゴブリンの洞窟に到着し、内部へと入っていくと、その光景に目を疑う。


 アカツキ達の目に飛び込んで来たのは、ゴブリンと人とが共に笑い合い、共に働き、共に食事を楽しむ姿。

一緒に洞窟を掃除したり、いまだに動けない怪我人の世話をしたりと魔物と人との共存する世界がそこにはあった。


「おいおい、本当かよ!?」

「ええ……私も驚いています。初めはここのゴブリンに手を出さない様にワズ大公にお願いするつもりでしたが、これは……凄いです」

「アカツキくん! ナック!」


 茫然と眺めていた二人に、弥生が小走りに駆け寄ってくる。

その手にはまだ幼いゴブリンと手を繋いで。


「ヤヨイー、どうなっているんだよ、これ?」

「私も知りたいですね。幾人かは協力してくれていましたが、これ程の人数を一体……」

「んーっと、初めはゴブリン達が掃除していて、それを見た兵士が手伝いだして、それから輪が広まって、いつの間にか?」


 イマイチ弥生の説明では要領を得なかったが、人の方から歩み寄っていったと言いたいのだろうと、アカツキとナックは解釈する。


「弥生さん、流星さんは何処に居ますか?」

「あ、だったら私、呼んでくるよ。さ、行こ」


 弥生は、子供のゴブリンを抱っこするとそのまま流星を呼びに奥へと行ってしまう。


 改めて周りを見ると言葉ではコミュニケーションが取れない分、お互いに触れあう事で何が言いたいのかを伝える努力が見て取れた。


「おう。お帰り、田代」

「流星さん。凄いですね、これ」


 洞窟の奥からゴブリンの姿で出てきた流星は、アカツキ達に軽く挨拶するといつもの席に座り、アカツキ達にも座る様に促した。


「ああ、俺も驚いているよ。それより、呼び捨てでいいよ、ほんと。何かむず痒いし」

「はぁ……すいません。慣れないというか、今の口調に慣れすぎてしまって、つい」

「まぁいいや。それで、そっちはどうなった?」


 アカツキはファーマーでの出来事を詳細に説明をする。初めは流星らしく何処か能天気に聞いていたが、徐々に神妙や面持ちに変わった。


「そうか……ワズ大公は、一度兄弟子のダラスを登用しに来た時会っただけだが……それは辛いな」

「はい。それで今ルスカはワズ大公の元にいます。何だかんだ言って二人は仲良いですから。

あと、今後の為にもゴブリンの代表として、流星さ……流星に会って頂きたいのです」

「それは願ったりだな。ゴブリン達に危害が及ばないのであれば、何処でも行くさ」


 流星はすぐに出発の準備を始める。洞窟の入口で流星達を待っていると、洞窟から出て来たのは流星、カホ、弥生、そしてあの赤髪のゴブリンだ。


「そのゴブリンは、確か……」

「ああ、俺やカホがここで過ごす事のキッカケになったゴブリンだ。一応、俺がゴブリンの代表って事になるんだろうが、いつまでもここに居るわけにはいかないだろ? だから、今後コイツを代表にしようと思っていてな」

「ぐぎゃぎゃ!」


 赤髪のゴブリンは、アカツキに向かって敬礼する。意味は分かっていないだろうに、アカツキは苦笑いするしかなかった。



◇◇◇



 ファーマーに戻って来たアカツキは、真っ直ぐにワズ大公の元に向かう。

気落ちしているだろうワズ大公の様子が気にかかる。


「おお、アカツキ戻って来たか」

「お帰りなのじゃ!」


 顔色も少し戻っただろうか、ワズ大公は出来うる限りの笑みでアカツキを迎える。

ルスカも駆け寄って来たかと思うと、アカツキを登り始めた。


「そっちの背丈の高いゴブリンが、ゴブリンの代表か」

「ハジメマシテ、ワズ大公。ボクハ悪イゴブリンジャナイヨ」


 重苦しい空気が流れる。カホだけは一人お腹をオサエテ笑うのを耐えていた。


「アカツキ。これは……」


 困った顔をするワズ大公に対してアカツキも困った顔で返す。


「あれ? スベった!?」

「何をやっているのですか、流星は。流星の事はワズ大公に伝えていますよ」


 会心のネタが駄々滑りした流星に対してアカツキは、眉をひそめるのみ。


「田代ぉ、お前ゲームやらねぇの?」

「したことありませんよ。ゲームが関係しているのですか?」

「マジか……ありえねぇ」

「うわぁ……田代くん、戦前生まれでしょ」


 ほとんど学校と家事と妹の世話で手一杯だったアカツキはゲームなどした覚えがなく、流星とカホに呆れた顔をされるが納得がいかない。


「改めて、挨拶を。俺はゴブリン代表のリュウセイ・クドウです」

「カホル・ソガです」


 流星がスキルを解き元の姿に戻ると、ワズ大公は少し驚く表情を垣間見せるが、すぐに表情を戻す。

かなり大きく長いテーブルに着席するようにワズ大公に促され二人、そして赤髪のゴブリンは椅子に腰をかける。


「うん? お主ら何処かで……」

「お会いするのは二度目かな。以前クリストファーのじいさんに師事していた時に」

「おお! ダラスの時か!? すまぬな、直ぐに思い出せなくて」

「ワズ大公、そろそろ本題に」

「わかった。それでは話し合いを始めよう」


 アカツキに中断され、今後ゴブリンとどう向き合うか話し合われた。


 まずはワズ大公にアカツキがゴブリンの洞窟の現状を伝える。

人と魔物との共存など俄には信じられなったワズ大公だが、流星の隣で大人しくしている赤髪のゴブリンを見て、ゴブリンへの認識を変えることを公式として発言する。


 流星からはゴブリンの特性がワズ大公に伝えられた。


「ゴブリン達は基本働きたがり。何かをしていないと落ち着かず、仕事っぷりは職人気質と労働力として問題ない。あとは食事さえ貰えれば文句なんてない。そんな奴らさ」


 ワズ大公はそれを聞き前のめりになる。今ファーマーは、労働力が不可欠だ。正門の修理など特に。


「ブラック企業が聞いたら喜ぶ人材ですね」

「ははは、だろ?」


 茶化すアカツキに、流星も同意して声を出して笑って見せる。


「ふむ、流星。ゴブリンが街で住む事は可能だと思うか?」


 ワズ大公に尋ねられ、流星は腕を組みしばし思慮する。


「……ゴブリン達の方には問題は無ぇ。街の住人が受け入れるかどうかになると思う」

「やはり、こちら側が問題か……」

「それなら、派遣がいいのではないでしょうか?」


 アカツキの提案にワズ大公も流星も頷く。


「派遣か……よし。それならば、こちらはゴブリン達の食事並びに必要な物があれば、用意しよう。それでどうだ?」

「もう一つだけ。ゴブリンの巣の辺り一帯をゴブリン達の領域として欲しい。

それで許可のある人しか入って来れないようにしてぇ。中には悪さを考える奴もいるしな」

「わかった、それで構わぬ。それでは決まりだな」


 ワズ大公は立ち上がり流星に握手を求めると、流星も快くそれに応えたのだった。



◇◇◇



 ゴブリン達の派遣が決まり、流星達は派遣するメンバーの選定と洞窟に居る人達の街への帰還の為に一度洞窟へと戻る。


 その間にワズ大公から、今回の事件での褒賞が与えられる。


 一番喜んだのはアイシャだ。元々ゴブリン掃討という理由でここまで来たにも関わらず、結局ゴブリンと共闘する事になり報酬が出ない筈だった。

しかし、ワズ大公からファーマーのギルドに褒賞が出た為に、そこからアイシャの手元に銀貨十枚入ってくる。


 ハイネルら“茨の道”とヤーヤー達“姫とお供たち”にも、褒賞が与えられた。

その他にも今回の事件を緊急クエストとして処理したことから、“茨の道”はBランクへ、ヤーヤー達“姫とお供たち”はBランクからAランクへと昇格する。

これはグルメール王国の全ギルド初のAランクパーティーの誕生だという。


 ナックは今はグルメールの警備兵。お金は入ってこないが、後々エルヴィス国王から爵位を授与されると言う。


「お、俺が!? ガラじゃねぇよ!」

「お貴族様じゃ!」

「ナック……立派になって……うう……」


 顔を真っ赤にして照れているナックをルスカと弥生がからかったりしていた。


 そして、アカツキとルスカ、そして弥生。三人にも爵位の話をするが、アカツキとルスカはギルドに所属している事を理由に断る。

弥生には断る理由はないが、特に嬉しくもなんともないので、丁重に断りを入れた。

三人には各自に銀貨二十枚ずつ与えられたのだった。

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