エレク湖の湖畔にて、しばしの休息 その壱

 いつものアカツキ達一行の他にエリー達ファーマーギルドの“茨の道”と“姫とお供たち”、流星とカホは、ファーマーの街とアイルの街の間にあるエレク湖に来ていた。


 何故、エレク湖に来たのかと言うと、話は一時間前に遡る。



◇◇◇



 アカツキ達はワズ大公からゴブリンとの関係の改善を取り付けた流星達と一度別れた後、怪我人を搬送するためにとゴブリンの洞窟までの案内を任される。


 再び合流したアカツキ達と流星達は、怪我人とゴブリン達を連れてファーマーに戻り、ゴブリン達をワズ大公に預けたアカツキ達は、服を新調するために服屋へと向かっていた。


「大きい街とはいえ、数日前まで荒れていましたから、品揃えは期待出来ませんが、やむを得ませんね。私もルスカも服が破れたままというわけにはいきませんから」

「なぁ、田代。そのボロボロになった服、くれよ。ゴブリン達が掃除に使うからさぁ」


 流星が手を合わせて頼み込むが、アカツキの顔は眉をひそめていた。


「何を言っているのですか。後で繕って洗ってまた着るに決まってるでしょう」

「お前、おばあちゃんか」


 アカツキと流星のやり取りを聞いていた一行は、通りの真ん中で大声で笑い出す。


「どうして笑うのですか!? 全く……ほら、服屋に着きましたよ。って、あれ……」


 少しむくれたアカツキの視線の先に見知った者達が、現れる。


「あ、アイシャセンパ~イ。皆さんもどうしたのです」

「エリーさん、それにハイネルさんとヤーヤーさん達こそ」

「あたい達は服を新調しに来たんです」

「だったら、同じですね」


 エリーや“茨の道”と“姫とお供たち”も、アカツキ達と同じ目的だった様で、それなら一緒にとアカツキ達は服屋に入って行った。


 店内に入ると真っ先に駆けて奥へと入って行ったのは、やはり女性達。

弥生を筆頭にカホ、アイシャ、エリー、そしてヤーヤーが我先にと女性用の棚を物色していった。


「あれ? ルスカは行かないのですか?」


 アカツキと手を繋いだままのルスカは、興味なさそうだ。


「ワシのはアカツキが選べばいいのじゃ。どうせ、こんな店にグリゼの製品が置いて──な、なんじゃと!!?」


 街は大きいものの、グルメールほどではないし、王国入口のリンドウほど交易が盛んではない。

片田舎と馬鹿にするルスカの視線は、店内の一番奥に飾られている服に向かう。


「あ、あれは幻のグリゼ製品! “熊ちゃん印の水着セット、麦わら帽子付き”!!」


 ルスカはアカツキの手を離し、店奥に向かっていった。


 お目当ての製品を目にして、ルスカの目が輝き出す。

もっと近くで見たいが、棚の一番上に飾られており背の低いルスカには良く見えない。


 ルスカは一旦、自分の服を選んでいたアカツキの元に戻ると、激しく手を引っ張る。


「アカツキ、アカツキ! ちょっと来て欲しいのじゃ!」


 ルスカに手を引かれ、連れて来られたのは女性用の水着売り場。

ルスカの目的が水着なのだから、当然置いてある場所は水着売り場になる。


 さすがにアカツキでも二の足を踏む。決してアカツキ自身、来たことない領域ではない。

妹の初めてのブラジャーを購入しに行ったこともある。

それでも慣れる場所ではなかった。


「る、ルスカ! ここはちょっと……」

「あれが良く見たいのじゃ。アカツキ、抱き上げて欲しいのじゃ」


 それならばアイシャや弥生に代わってもらおうと、弥生達の方を見るが、二人の視線がこちらを向いておらず呼ぼうとするが、「早く、早く!」と急かしてくる。


 覚悟を決めたアカツキは、ルスカを売り場の入口で抱え、そのままルスカのお目当ての前に行く。


「ルスカ、どうですか? まだですか?」

「うーむ、本物みたいじゃ……」

「あの、よろしければ試着出来ますよ」


 突如後ろから声をかけられ、アカツキの心臓は鼻から飛び出るくらいに驚く。

後ろを振り向くと、女性の店員がニッコリと微笑んでいた。


「それじゃ、そうしましょ。さ、ルスカ」

「うむ」


 ルスカは店員に連れられて試着室に入っていく。


「この世界の女性店員は、心臓に悪いですね」


 リンドウの街の服屋の店員を思い浮かべたアカツキが、そう呟き売り場を出ようと振り向くと、弥生達全員がアカツキを見てニヤニヤと笑っていた。

若干気取った所もあるハイネルですら、笑いを必死に押さえている。


 アカツキの顔はみるみる赤く変わり、店を飛び出して行ってしまった。


「アカツキ、どうじゃ? 似合うかの? あれ、アカツキ?」


 照れ臭そうにしているルスカが試着室を出ると、アカツキがおらず、小首を傾げるしかなかった。



◇◇◇



 一度出ていったアカツキが再び戻る頃には、ほとんどの者が買い物を終えており、残りはアカツキとルスカの分の支払いのみとなっていた。


「ねぇ、アカツキくん」


 弥生が話しかけるが、アカツキは返事をせずに黙々と自分の服を選ぶ。


「ちょっと、アカツキくん! 聞いてるの!?」


 アカツキの耳元で叫ぶ弥生に対し、アカツキはジトッとした目で見てくる。


「……なんですか?」


 アカツキは完全に拗ねていた。


 しかし、弥生も負けていない。良い意味でマイペース、悪く言えば厚顔無恥。

持ち前の明るさで、アカツキが拗ねていようがお構い無しに話を続けてくる。


「うん。ルスカちゃんの水着見ていたら、みんなで泳ぎに行こうってなって。だから、アカツキくんも水着買ってね」

「私は行きませんよ……私は忙しいのです。縫い物したり、洗濯したり、料理の下ごしらえしたり、あなた達をどうしてやろうかと作戦考えたり……」

「え? 私達、何かしたっけ?」


 キョトンとした顔をする弥生は、本当に思い当たる節がないようだった。


「はぁ……もう、いいです。水着ですね。それじゃ弥生さんが、適当に選んできて下さい」


 大きなため息をついアカツキは、仕返しとばかりに弥生を男性用水着売り場へと誘導する。


「うん、わかった。じゃあ、ちょっと行ってくる」


 全く気にせずに、ズカズカと男性用水着売り場へと向かう。

アカツキの仕返しは全く通用しなかった。



◇◇◇



 急遽水着を購入した一行は、弥生の提案でファーマー近くの湖、エレク湖へと骨休みを兼ねてやって来たのである。


「それではワタクシ達、女子達は向こうの岩山の陰で着替えて参りますわ」


 ヤーヤーを先頭に、女性達は着替えに向かい始める時、誰かがポツリと呟いた。


「女子って歳じゃないだろ……」

「今、何か言いまして!?」


 目付き鋭く振り向いてきたヤーヤーに、アカツキ達は首を横に振る。

アカツキはチラリと横にいる“姫とお供たち”のメンバーを見た。


「ほら、ルスカちゃんも来るの」

「ワシはいいのじゃ……」


 どこか元気の無いルスカだが、弥生が強引に引っ張って行った。


「それじゃ、私たちも着替えますか」

「え? 田代、覗きに行かないのか?」


 流星の言葉に気のせいか男性陣全員が色めき立つ、アカツキ以外は。


「え? なぜ、覗きに行くのですか?」

「田代、お前本当に俺と同じ歳か?」


 などと、男性陣が着替えながら話をしている時、女性陣らも同じく会話で盛り上がっていた。


「誰も覗きに来ないね。流星なら来そうなんだけど」


 何故か不満そうなカホに弥生、この際聞いておきたいことがあった。


「来て貰いたいの!? と言うより流星くんと付き合ってるんだよね、カホ。それでいいの?」


 二人の雰囲気が昔と違い、距離が近いように感じていた。

しかし、弥生はこのあと更に驚くことになる。


「え!? 付き合っってないよ。もう結婚したんだし。それより、やよちゃんはどうなの? 田代くん? ナックさん? どっちなの?」

「え……? わ、私? ……いやいや、それより結婚!? 二人結婚してたの!?」

「結婚……」


 驚きのあまり弥生は、履きかけた水着の下を膝の辺りで止めたまま、カホの肩を両手で掴みかかる。

そしてヤーヤーの表情が暗くなっていった。


「やよちゃん、水着、水着! 七年も一緒だもん。成り行き……って訳じゃないけど、そういう感情が芽生えてもおかしくないよ」

「僅か七年……こっちは二十年一緒なのに……」


 ますます表情が暗く落ち込んでいくヤーヤーのパーティー“姫とお供たち”は、二十年来メンバーは変わらずにいた。


「そうなんだ……カホが大人に見える……同じ二十四なのに……」

「四十手前の、ワタクシはどうしたら……」


 ヤーヤーは、今年三十八。若く美しかった女魔法使いは、姫と呼ばれて二十年が経っていた。 


 着替えながら弥生とカホが女子特有の恋愛話に花を咲かせているが、時折ヤーヤーが自虐的な毒で合いの手を入れてくるため、気まずい空気の中、弥生は突っ立ったままのルスカに視線を移す。


「えーっと……あれ、ルスカちゃん着替えないの?」

「ん、あぁ、着替えるのじゃ」


 ルスカは弥生達が着替え終えた後、モソモソと水着に着替えるのだった。

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