第十話 幼女と青年、困難が立ち塞がる

 グルメールの街の西門を抜けたアカツキ達は、一路ワズ大公の領域へと向かう。


 アカツキ達の予想だと、ワズ大公の一行は首都へ向かう途中の各街を通り抜けて行くだろうと考えた。

つまり、西門を抜け街道に沿って走れば、いずれワズ大公に会う事が出来る。


「アカツキさん、何とかこれでワズ大公に遭遇出来ますね」

「アカツキ?」

「……いえ、戴冠式というのは、しめやかに行われるものですか?」


 アカツキは街道を飛ばしながら、疑問に感じる事があった。


「ええ? それは無いですよ。国の一大事ですから、もっと派手で……も」


 アイシャは途中で言うのを止めると、アカツキ達から離れ近くの小高い場所へと馬を走らせると、丘になっている場所で、馬を放牧させている男がいた。


「……やっぱり」


 アイシャが馬を翻し急いでアカツキ達の元へ戻ってくる。


「アカツキさん、大変です! 余りにも静かなので話を聞いたのですが、やはりワタシ達より少し前に一軍が通ったようです。恐らくワズ大公を迎える為だと」


 つまりワズ大公に会うには、先を行く軍を追い抜かなければならない。


「問題は、王族直轄の軍を追い抜いたら問題になります。街道が静かなのはそのせいだと」


 アカツキの疑問、それは街道を行き交う人が少ない事だった。


 ワズ大公に会うには、街道を通らずに且つ軍より先に着かなければならない。


「森を進めば、距離は短くなりますが」

「馬の速度は、大幅に落ちますね」


 森の中は足場も悪く、枝や草木が邪魔をする。しかも、最悪な事に今から行くとなると、夜になり更に視界が悪くなってしまう。


 万事休すか……とアカツキとアイシャが、苦虫を噛み潰すが一人ルスカだけは、余裕の笑みを浮かべていた。


「ふふーん、ワシの出番のようじゃ」


 ルスカは胸を張り、アカツキを見上げる。


 アカツキは嫌な予感しかせず、少し考えるが他に手が浮かばずやむを得なかった。


「ルスカ……お願いします」

「わかったのじゃ。アカツキ、また支えて欲しいのじゃ」


 そう言われ、いつもの様にルスカの体を片腕で固定すると、ルスカは白樺の杖の先を森に向ける。


“風の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を シャインバースト!!”


 白樺の杖の先端に白銀と呼べる白い光が集まり、森に向かって飛んでいく。

光は森に着くと目映い輝きを放ち、森の奥へと帯状になり真っ直ぐに進んでいく。

森の影を消し去りながら。


「終わったのじゃ」


 アカツキがルスカと出会った後、魔物が姿を見せる事なく消し去った魔法。

しかし、そんな比ではなかった。

アカツキ達の目の前にあった森には真っ直ぐに伸びた新しい道が。

アカツキとアイシャは口を開けて、ただただ佇んでいた。



◇◇◇



「仕方なかった……仕方なかったのです」


 アカツキ達は、ルスカが作った道をひた走るのだが、先ほどからアカツキは同じ言葉を繰り返していた。


「うわぁ~ん! アカツキ、ごめんなさいなのじゃ~!!」


 ルスカは目頭と目尻から大粒の涙を溢しながら、ずっと泣きっぱなしだ。


「だ、大丈夫ですよ。ワタシ、鼻いいんですよ。少なくとも人は居ませんでしたよ。目に見える範囲内ですが……」


 アイシャは、フォローになっていないフォローを繰り返していた。


 アカツキは、ルスカの魔法で人を巻き込んだのではないかと後悔していた。しかも、万一この先に街でもあろうものなら。


 ルスカは、アカツキに使うなと言われた魔法である事を忘れて、使ってしまいアカツキに怒られたのだ。

後にルスカは、あの目は今まで生きていて一番怖かったと言ったとか言わないとか。


 アイシャは、馬で走り抜けながら、僅かでも人の匂いが残っているか鼻をヒクヒク動かしながら進んでいた。


 三人が三人ともこんな状態だが、道は全く荒れておらず、夜の暗闇もランプの灯りでスムーズに歩み続ける。


“ぐすっ……キュアファイン”


 鼻をすすり、目からは未だに流れる涙。しかし、馬やアカツキ達の回復に努めている。


「止まって下さい!」


 アカツキがアイシャに呼びかけると、慌てて手綱を引っ張った為、後ろ脚で馬が立ち上がる。


 アカツキ達の前には、再び森が。どうやら、ルスカの魔法はここまでだったみたいだ。


「ルスカのおかげで、だいぶ短縮出来たはずです。慌てず、ランプの灯りで道を確認しながら進みましょう」


 アカツキを先頭に灯りに照らされた道を五分ほどだろうか、進んだら街道に出た。


「……ギリギリだった、と言う事ですか」


 慎重に行こうと言った手前、ちょっと恥ずかしくなったアカツキ。


 街道は、ずっと下り坂になっており、時折うねっている。

アカツキ達の眼下には、夜にも関わらず街の灯りが見える。

そして、街の西側には、夜営している軍が。


「間に合った……ですよね?」

「はい。西側に配置されていますからワズ大公の軍だと思われます」


 アカツキとアイシャは、肩で息をしながらも安堵の表情に変わる。


「ルスカ。あなたのお陰です」

「ルスカ様の魔法、初めて見ましたが凄かったです」


 アカツキの前に乗るルスカの顔を、自分の方に向けさせると、まだ目尻から流れる涙を拭いてやる。


「ひっく……もう怒ってないのじゃ?」

「ええ。私の方こそ、怒ってすいませんでした」


 ルスカは馬の上で、体の向きをアカツキの方に替えると、顔を隠すように抱きついてきた。


「仲が良いのはわかりましたから、行きましょうよ」


 時折二人が作る自分達の空間に、いつも置いてけぼりを食らってしまうアイシャは、不貞腐れた顔をして先に進む。


 アカツキも馬を進め、アイシャに並走する。


「アイシャにも感謝していますよ。しかし、正念場はここからです」


 ふん、だ。と、不貞腐れたアイシャは、そっぽを向くが、お尻から生えている、ふさふさの尻尾は元気よく左右に動いていた。



◇◇◇



 アカツキ達が街の入り口に着いた頃には、辺りは薄暗くもやがかかり視界を遮る。

しかし、ワズ大公が来ているからか、街の中には明かりが灯されていた。


「この街は、ハービスですね。ワタシも通り抜ける程度なので余り詳しくはないです」


 リンドウみたいに外壁は石造りではなく、木の柵になっており、門はあるものの門扉は無い。

アカツキ達が歩みを進め、中に入ろうとするが二人の門番は、止める様子もなく欠伸をしていた。


「軍は外。余り大きな街ではなく、門番も少ない。ワズ大公に会うには、邪魔も入らず丁度良かったのかもしれませんね」


 アカツキ達は、街の真ん中を走る通りを進むと、この街には不自然な警備をしている宿を見つける。


 宿の前に三人、その宿の横の路地に一人ずつ。


 アカツキ達は横目で確かめながら、その宿を通りすぎてから宿の見える位置の路地に入っていき、馬から降りた。


「さて、アイシャさん、どうやって会いましょうか。警備している兵士もいますし、事を構える訳にはいきませんし」

「やはり待ち伏せでしょう。一旦軍と合流すると思うので、ワタシ達の前を通るはずです」


 アカツキ達が路地からひょっこり顔を出し確認すると、静かなものでワズ大公も、まだ休んでいるのだろう。


 ルスカが大きく口を開けて、欠伸をし目を擦る。


「ルスカ、寝てていいですよ。見張りは、私とアイシャさんでやりますから」

「む~……」


 ルスカはアカツキの立ったまま脚にしがみつき、器用に寝息をたて始めた。



◇◇◇



「アカツキさん!」


 アイシャが路地から顔を覗かせながら、アカツキを手招きで呼び寄せる。


「動き出しましたね」


 抱き抱えて寝ているルスカを、一時家の外壁にもたれさせると、アイシャの元へ行き同じように顔を路地から覗かせた。


 宿の警備が全員入り口に集まると、入り口から精悍な顔、薄い茶髪に若干の白髪が混ざる男性が赤いマントをなびかせて、お供と思われる数人と共に出てくる。


「アカツキさん、どうしますか?」

「行きましょう。ワズ大公が話を聞いてくださる方なら有難いのですが。ルスカ、起きてください。行きますよ」


 ルスカに呼びかけ起こすが返事がない。


「ルスカ? あ、あれ?」


 アカツキがルスカを見ると壁にもたれさせていたはずが、居ない。


「あああアカツキさん! あそこ!」


 アイシャの指差す方向、ワズ大公と思われる男性の前に立ち塞がっていた。


「ワズ大公!! 絵本を燃やすのじゃ!!」


 いきなり怒られたワズ大公らは目を丸くする。

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