第十一話 幼女と青年、説得する

「絵本を燃やすのじゃ!!」


 いきなり目の前に現れた幼子が、絵本を燃やせと言う。

ワズ大公が、お供らが困惑するのに無理はなかった。


 ただ、警備の兵士は違う。ある意味優秀なのだろう。

いきなり現れた幼子でも、ワズ大公を危険に晒さない様に追い払おうとルスカに近づく。

無防備に。


「おい! ガキが、大公に近づくな!!」


 怒鳴り声を上げれば逃げていくと思っていたのだろう。

見ていたワズ大公も、威圧的な兵士に辟易した表情になる。


 鈍い音がしたと思えば、近づいた兵士が膝をつき前のめりに倒れた。


 ルスカの杖の先からは白い拳が飛び出ている。


 一部始終を見ていたアカツキとアイシャは、思わず天を見上げた。


 他の警備の兵士が腰から剣を抜く。自分に向けられた殺気を感じたルスカは、急激に魔力を高めていく。

ワズ大公は堂々としているものの、周りのお供は震えていた。


「ちょっと、待って下さい!」


 一触即発の所でアカツキ達が慌てて飛び出してくる。

本来なら直ぐに出たい所だったが、それほどルスカの行動に呆気に取られてしまった。


「ワズ大公ですね。お話を聞いて貰えないでしょうか?」

「いきなり出てきて、話を聞けとは。しかも、兵に危害を加えといて。無礼な奴だな」


 ワズ大公の言い分は最もだった。


「アカツキさん、ここはワタシが」


 アイシャが一歩前に出ると、片膝をつき礼を執る。


「お久しぶりです、ワズ大公。ワタシはリンドウの街のギルドマスターのアイシャ・カッシュです」

「リンドウの? おお、久しぶりだな。わざわざこんな遠くまで。我の戴冠式はグルメールで行われるのだぞ」


 ワズ大公は、鼻の下から顎にかけて蓄えられた髭を触りながらアイシャに話かける。


 話を聞いてくれる。アカツキは、そう思ったのだろう、緊張感が解け、ホッとした表情をする。


「ははは、まさか。誰が愚王の戴冠式になど参加しますか」

「なにぃっ!!」


 無礼だ! と、兵士が再び剣を、今度はアイシャに向かって突きつける。

アカツキは思わず片手で顔を覆い、愕然とする。


「我が愚王だと!?」

「え? 違いますか。まんまと担がれ、操り人形になりに行くなど愚王以外、他にありますか」


 ワズ大公の眉がピクリと動いたのをアイシャは、見逃さなかった。


「兄上の第一王妃のことか。ふん! 我があんな女に担がれているとでも? 一応兄上の妻だからな、城に住まわせてやるが、我には妻がいる。色仕掛けでもされたとでも、考えたのか?」

「これだから、愚王は……」


 やれやれと、アイシャは落胆の色を見せる。が、もちろん、これはわざとだ。

ワズ大公の顔は赤くなり始めている。

アカツキは、とうとうしゃがみこみ、ルスカはもっとやれと囃し立てる。


「ワズ大公、前国王が麻薬中毒だったのはご存知で?」

「ふん、知っておるわ。第二王妃の一派の仕業だろう。兄上が憐れでならぬわ」


 やはり第一王妃の一派が吹き込んでいるようで、ワズ大公も信用しているようだ。

アイシャは、今までふざけた顔をしていたが、ここにきて急に鋭い表情に変わる。


「ワズ大公! 貴方は言葉に踊らされ恥ずかしくないのですか! 正直に言いましょう。第二王妃のご子息、エルヴィス様はワタシ達が保護しております。ワズ大公はエルヴィス様にお会いになった事は?」


 一歩間違えたら捕まりかねない発言に、周囲の空気が張り詰める。


「……一度もないが」


 ワズ大公が、一言兵士に命じれば捕まえにかかるだろう。


「ならば、一度会うべきだと進言します。会えば、僅か七歳とは思えない、これぞ真王だと気づくはずです!」


 今まで見せた事の無いアイシャの真剣な表情と、ワズ大公が睨み合う。


「ワズ大公」


 アカツキもアイシャの隣で膝をつくと、アイシャと同じように目付きを強める。


「私は、リンドウギルドのアカツキと申します。貴方が愚王では無いことを願い進言させて頂きます。我々か第一王妃か、正しい事を言っているのがどちらなのか見分ける方法がございます」

「ほう……言ってみよ」

「ワズ大公は、ギルドにある更新台をご存知で? あれには嘘は記入されません。つまり、嘘発見器なのです」


 アカツキがリンドウのギルドで見つけた策、それはギルドにある更新台。

ルメール教の物を流用した物だ。


「なるほど……あれは確かに嘘発見器と言えるな。

しかし、あれはルメール教時代の遺物だ。

この国の歴史を知らぬのか? ルメール教に苦しめられた歴史を。そんなものを信用しろと言うのか? この国の英雄ルスカ・シャウザード様に失礼になるだろう」


 腕を組み、仁王立ちでワズ大公は、アカツキ達に威圧感を与える。


「だそうですよ、ルスカ」

「お前達の絵本に書かれたワシの事の方が、よっぽど失礼なのじゃ」


 ルスカは杖をぐるぐる振り回し、怒りを表す。


「この幼子が、ルスカ様を名乗るか! 兵士ども、捕らえよ!!」


 どうやらワズ大公の中で、ルスカを名乗る事が、愚王と言われるよりも大きいらしい。


「お待ちください!! 大公!!」


 止めたのはワズ大公のお供だった。フードを深く被って顔はよくわからないが、声から若い男性と伺える。


 フードのお供は、ワズ大公に耳打ちすると鋭い目付きが丸く大きく開く。


「間違いないのか……?」

「少なくとも、この辺り一帯は……」


 小声で話す為、上手く聞き取れないが、さっきからチラチラとルスカに視線を送っている。


「幼子よ……」

「なんじゃ、小童こわっぱ!!」

「こわっ……!?」


 ルスカにしたら、大概の人は小童扱いだ。

まさかこの年になって、子供扱いされるとは思わず、言葉に詰まるワズ大公。


「ぐっ……本当にルスカ・シャウザード様なのか? 子孫とかでは……」

「ワシに子供がおるとでも? 全く失礼なやつじゃ!」


 ワズ大公には、今一つ信じて貰えていないようで難しい顔をしている。

しかし、アカツキには手があった。


「ルスカ、これをワズ大公に」


 アカツキがルスカに手渡したもの。それは、ルスカのギルドカード。

更新台で嘘は記入されない。


 ルスカは、ギルドカードを渡した……おもいっきり投げつけて。


 ピトッ


 ルスカの投げたギルドカードが、ワズ大公の額に張り付く。


「……」


 ワズ大公は、黙って額からギルドカードを取るとじっと見る。


 確かに名前は、ルスカ・シャウザードとある。しかし、年齢、種族が書かれていない。

年齢は偽ったのかとも取れる。

しかし、種族を偽る理由は?


 ワズ大公は再びルスカを見るがどう見ても人間だ。

悩んでいるワズ大公にアイシャが書かれていない理由を話す。

ルメール教がルスカを禁忌事項として扱うのは、分からないでもない。

アイシャは自分が幼い頃、ルスカに会った話や曾祖父とルスカの関係性も続けて話をする。


 バーン・カッシュ。流石にアイシャの曾祖父の名前は知らないはずがない。何せ、前回の魔王アドメラルクを倒した一人だ。


 正直、疑えばきりがない。ただ、疑えない言葉があった。


 それはワズ大公の横にいるフードを被った男の言葉。兵士を止め、ワズ大公に耳打ちした内容が無視出来なかった。


「大公。この幼子に手を出してはいけません。この幼子の魔力、僕でも手が及ばないほどです」

「間違いないのか……」

「この辺り一帯は、何も残らないかと」


 この男はワズ大公の側近中の側近で、その力に惚れてワズ大公自ら迎え入れたほど、信頼が高かった。


 その男が、自分の手では負えないと言う……


 ワズ大公は改めて耳打ちされた内容を思いだし、ルスカのギルドカードを返した。


「わかった……ただ、すぐに信用するわけにはいかん。時間をやろう。我らは、ここを動かぬ。我が信に足ると判断した時は、力を惜しまぬのは約束しよう」


 これで少なくとも、ワズ大公に城に入られ手出し出来ない状況は回避された。


 今後アカツキ達がどう動くのかを説明するために、ワズ大公とフードの男、アカツキ達は宿へと戻っていった。


 アカツキ達とワズ大公は、部屋の一角を借りて話合う事にする。


 テーブルを挟んでワズ大公側にはワズ大公が座り、アカツキ側にはアカツキ……と、アカツキの膝の上に座るルスカが。


「それでは、まず私から……」

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