第11話 幼女、イチゴとカレーを掛け合わせる
窓の外から柔らかい日射しがアカツキの目元に当たり刺激する。
翌朝、目を覚ましたアカツキは自分の体の異変に気づく。
異変の先に目をやると、そこには脇腹に抱きついてきているルスカが。
その独特の
そんなルスカが面白く優しく微笑みながら、何度も髪を弄っていた。
「おはようございます、ルスカ」
「んー、おはよ……なのじゃ、アカ……ツキ」
一度大きく伸びをして目を擦りながら挨拶してくるが、その目は、まだ完全に開いておらず眠そうだ。
「顔を洗いに行きますよ。顔を洗えば眠気も取れますから」
ベッドから上体を起こし、すぐに立ち上がるアカツキに対して、ベッドの上を這いながら端まで行き、後ろ向きに床へと足を降ろす。
まだ、眠いのかアカツキから渡された靴は、踵を踏んで履いていた。
「裏庭に井戸があると言ってましたから、行きましょう」
「んー!」
アカツキに向け両手を差し出すルスカ。
一つため息を吐きながらもルスカを抱え上げる。
部屋から出て一階へ階段を降りた時には、ルスカは再び夢の中にいた。
「ほら、ルスカ起きて! 顔を洗ったら、今日は家を見に行くのですよ」
「昨日……お昼寝してないから、眠いの……じゃ」
裏庭に行くと、年季の入った井戸がある。
食堂もあるからだろうか、桶は良く手入れされており井戸も年季は入っているが、苔などもなく綺麗にされていた。
桶で水を汲み上げて顔を洗い、歯を磨く。
歯を磨くと言っても歯ブラシ等はこの世界には無く、楊枝みたいなシュルクという木の枝で、歯の間を掃除する程度である。
アカツキに続きルスカも顔を洗うが、下手なのか寝惚けているのか、黒いワンピースの襟元が、びしょびしょに濡れていた。
部屋に戻ると、昨日パンツと一緒に買った服を渡す。
ルスカの趣味なのか、買った服も若草色のワンピースと地味な物だった。
「さぁ、着替えたらギルドに行きますよ」
「わかったのじゃ」
ルスカは
一度出会った時に見ているとは言え、ジッと見る訳にいかず目を背けるアカツキ。
しかし、当の本人は平然とした顔をして若草色のワンピースの袖に腕を通した。
◇◇◇
「いらっしゃい……って、何だルスカ様ですか……」
ギルドに到着し中に入ると受付のエルフ、ナーちゃんが満面の笑みで挨拶してくるが、ルスカを見るや否やため息を吐く。
「ナーちゃんさん、おはようございます」
それでも律儀に挨拶を返すアカツキと、ジッと睨み付けているルスカ。
ルスカの視線に大量の冷や汗をかきながらも、ギルドの受付として平静を辛うじて保ち対応をする。
「ナーちゃんさんて、言いにくくないですか? ナーちゃんって気軽に呼んでください」
そう言いながら、受付のカウンター越しにアカツキの手に自分の手を添えて顔を近づけてくる。
その距離は近く、不必要に開いた胸元から白い肌を見せつけるように。
しかし、返ってきたのはアカツキの言葉ではなく、白い白樺の杖の先。
腕を目一杯伸ばして、ナーちゃんの額に白樺の杖の先が当てる。
「アイタッ!」
「アイタッ……じゃないわ! アカツキから離れるのじゃ! この、お漏らしエルフが!!」
「なっ!? 一体誰のせいだと……じゃなくて、昨日お漏らしなんかしていません」
アカツキに対して色目を使ってきたナーちゃんに、怒り心頭のルスカ。
ナーちゃんも、反論するがルスカは別に昨日なんて一言も言っていない。
アカツキ、そして朝早くから酒場で飲んでいる昨日もいたギルド所属の男性達は、墓穴を掘ったナーちゃんを生暖かい目で見守っていた。
「朝早くから騒がしいと思ったら、やっぱりアカツキさんとルスカ様ですか」
受付横の扉が開き、出てきたのはギルドマスターのアイシャだ。
「騒がしいとは、不本意ですよ。私は何も騒いでいませんよ」
「何言ってるんですか。ギルドパーティーのメンバーは連帯責任を負うのですよ。ルスカ様のした事は、アカツキさんのした事と同じなのです」
それを聞き、アカツキは益々不本意な表情に変わる。
「それなら尚更ですよ。私とルスカはまだギルドパーティーを組んでいませんから」
「あれ? そうなのですか」
アイシャはとっくに手続きを終えているかと思ったが、終わったのはギルド登録だけで、昨日のドタバタで誰もが忘れていた。
そして、受付のナーちゃんは静かに受付のカウンターの陰に隠れようとしていた。
「ナーちゃん?」
「ひゃい!! イタッ!!」
アイシャに見つかり、勢いよく立ち上がった際に隠れたカウンターの角に頭をぶつけ、のたうち回るナーちゃん。
「何やってるのよ? それよりパーティー登録の手続きを」
「少しは、気遣ってくれても……」
ぶつけた箇所を擦りながら、カウンターにパーティー登録用の登録書を準備する。
「アカツキさん、こちらにご記入お願いします」
「はぁ……えぇと、パーティー名か……どうしますか、ルスカ?」
「イチゴかれー」
二人の間に沈黙が流れる。
まさかの“イチゴカレー”。
イチゴを
「“イチゴカレー”……ですか?」
「決定なのじゃ! 今度、作ってくれなのじゃ!」
ルスカの中では決定しているらしい。しかも、作れと言う。
「チョコレートフォンデュみたいな物なら……」
ルスカには聞こえない位の小さな声でぶつぶつと呟くアカツキ。今はこんな事を考えている場合ではないと、ハッとした顔をし、登録書に記入を続ける。
《パーティー名》 イチゴカレー
「次はリーダー名ですか……これはルスカで」
「ワシだと、依頼人に舐められるしダメじゃ! リーダーはアカツキなのじゃ!」
再びルスカが口を出してくる。
確かに見た目で他の人や依頼人に、幼女が責任者だと言うと馬鹿にするか信頼されないだろう。
登録書のリーダー名の欄に自分の名前を書き込み、メンバー名にルスカの名前を書き込んだ。
「はい、ありがとうございます。これで登録しておきます。後で、更新台で更新しておいて下さい」
リンドウの街のギルド所属パーティー“イチゴカレー”の誕生である。
◇◇◇
ギルドパーティー“イチゴカレー”として、最初にすることは家探しである。
アイシャと共にギルドを出た一行は、アイシャの案内で一軒目の内見をする。
「まずは、ここですね」
案内された物件は、平屋の一軒家で決して新築ではないが、外観は何処かに不備があるように思えない。窓からアカツキが、内部を覗くと脱ぎ散らかされた服が……
「もしかして、人が住んでいませんか?」
服はどうみても女性用で、住人に見つかったら不審者扱いされそうな状況に顔を青ざめる。
「はい、居候って形になります。アカツキさん……って、料理出来ますよね?」
「ええ……だいぶ自己流ですが」
「良かったぁ! 食事を作ってくれれば家賃はタダですよ……って、あれ? どうして二人ともそんな目でワタシを見るのですか?」
料理を作れば家賃はタダ、なんて胡散臭いにも程があると思ったのだろう二人は、アイシャに疑いの目を向ける。
「タダほど怪しいモノはないのじゃ! 何を隠しておるのじゃ!!」
「か、隠してませんよう。ただ……」
疑いの目を向けながら杖の先もアイシャに向ける。
アイシャは慌てて誤解を取ろうと説明するのだった。
「ただ……ワタシの家ってだけですよ」
「先行くのじゃ、アカツキ」
「そうしましょう、ルスカ」
アイシャをこの場に残して、次の行き先は知らずともアカツキとルスカはこの家から離れていった。
「あれー? ダメですかー?」
一人残されたアイシャは自分の家の前で立ち尽くすのだった。
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