7月29日 午前7時21分 官邸

 一旦、病院で検査を受けてからというのが、航空救難隊の規則らしいが鷺野さぎのは、副総理に報告しなければいけないことがあると、無理押しをして、直接、官邸屋上のヘリポートへ運んでもらった。

 剛毅な浜松航空救難隊のUH-60Jブラックホークの機長は快く了解し煩雑そうな地上管制とのやり取りも買って出てくれた。

 

 官邸に到着した鷺野を仰々しく出迎えたのは山川陸将補に佐竹二曹、操あかね士長の第505特殊電算小隊の面々だけだった。

 山川と操あかねは涙さえ浮かべていた。

 副総理に文句をいうことだけを一心に官邸に直接乗り込んだ鷺野だったが、なんと副総理は鷺野が百里基地に警務隊に連行されると、いの一番に都内の私邸に帰ったらしい。

 しかし、官房長官は待っていた。

 もう特別対策室は官邸付きの官僚たちによる後片付けが始まっていた。

 まだ、潮の匂いプンプンの鷺野を官房長官はもう既に撤去された大机があたかもあるように座って待っていて、一言。

「ご苦労さま」

 と言って、頷いただけだ。

 鷺野が何か言おうとモゴモゴしていると、続けざまに

「総理から一言あるそうですから」

 えっ、総理ってもう帰国してるの?。

 そう官房長官は言うと、官邸付きの官僚は残し、官房付きの官僚と秘書官を大量に引き連れて後片付けでごった返す緊急特別対策室を出ていった。

 このあとの月金の毎朝午前11時からの官房長官の定例記者会見でのすり合わせ、ウソのつき方が大変らしい。


 なんだ、これは、、、、。


 警察官が一人死亡し、レンジャー部隊の一チームが壊滅し、優秀な航空自衛官が死亡し、オタクの陸上自衛官が太平洋に投げ出されたのに、、。

 憲法に書かれている法のもとによる万人の平等とはどうやら建前らしい。薄々気づいていたけど、、。

 それに、鷺野にとって第505特殊電算小隊の一大業績といってもいい成果がどんどん整理されて片付けされていくのはかなり悲しかった。

 複数の怪しげな中古高級高性能パーツを買い集めて一応予算内でのコスパを極めた第505特殊電算小隊の備品のPC数台が早く持って帰れと言わんばかりにポツンとまとめておいてあるのもかなり寂寥感が募る光景だった。

 ”元”特別対策室には、もう警備員がポツポツ姿を見せていた。

 用済みは早く出て行けということらしい。

 佐竹と操あかねがカートをゴロゴロ持ち出してPC群をまとめだした。

 この二人はさらに悲しいことに官邸から練馬の第一連隊まで自転車で帰るのだ。

 山川が言った。

「総理大臣にはなんと言うつもりだ?」

 それより鷺野には訊きたいことがあった。

「それより<遼寧>は?」

「転進したよ、外務省を通じてだが中国大使からの正式な謝意もあったらしい。忠告しておくが総理に対してだがな、無駄な抵抗は止めておけ」 

 そう言うと、山川自身も、"元”特別対策室から寂しそうに出ていった。

 もう既に、防衛省の次官を始め背広組み、制服組みともに姿を消していた。

 鷺野は微妙な表情をして"おとこ"、山川陸将補を見送った。もう会うことないかもしれない。

 

 総理との面会は更にすごかった。

 総理を先頭に人の群れが祭りのように"元"特別対策室に迎い廊下を進んでやってきた。

 相当ビチビチのスケジュールらしく群れは全員が早足だ。

 入り口で小柄な鷺野は待っていたが、群れの勢いに思わず、ひるみ"元"特別対策室の中へ引っ込んでしまった。

 群れは、"元"特別対策室を行き過ぎた。群れのリーダーは誰が鷺野か知らなかったらしい。

 が、相当優秀補佐官が居るらしく10歩も群れは行き過ぎなかった。

 総理を先頭に群れは的確にUターンして戻ってくると、ピンポイントで鷺野の眼の前に総理大臣は立ち、こう言った。

「国民を代表して、敬意と謝意を表し、文民統制の自衛隊のトップとしても謝意を表します」

 と言うと、無理やり鷺野の手を握り握手した。総理はTVで見るより確実に老けていて染めている髪の毛の生え際の染め残しが哀れなほどきっちりわかった。

 鷺野がびっくりした顔をしていると、群れの中には多数のメディアとカメラマンが居てほんの数秒でしかなかったが確実に写真を大量に撮影し総理の握手が終わるとともに群れは、早足を緩めることなく、官邸内のどこかに消えた。

 鷺野は決していばるつもりはなかったが、結局、全部総理の手柄にされてしまった。

 鷺野はどっと疲れが出たらしく。

 廊下をノロノロ歩むと、元第505特殊電算小隊の控室だった部屋に入ると、ベンチにひっくり返り眠ってしまった。

 しかし、これら一連の様子をきっちり見ている男が居た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る