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 生暖かい、いやな電子の風が吹いていた。しかし、電子の水は冷たかった。



 風蕭々しょうしょうとして易水寒し。壮士ひとたび去ってかえらず。



 背も低く髪もきちんとゆっていない風体のよくない酔っぱらいが、フラフラと歩いていた。

 オタクと呼ばれては忌み嫌われ、酒やら怪しげなドラッグでいつもハイになっている変人と周囲からは呼ばれていた。

 今も足取りは怪しげだ。

 名はという。しかし、誰もその漢字の”にんべん”なのか”くるまへん”なのか部首ぼへんを知らない。

 生まれはASCIIコードの16進法の41でAという。

 幼い頃から壮士になると周囲に風潮し言い続けてきたものの、地元のASCIIコード、16進法の41のA侠客にからまれてもめったに喧嘩はせず、ついには誰からも相手にされなくなった。

 今回のこともしっかりとした目的をもってとある御大人おたいじんから依頼された壮士のみがこなせる重要な仕事とは言っているが、実に怪しいものである。

 

 目指すは<ナイト・キング>が暮らす王宮、鋼の電子の要塞<ナイト・キープ>。

 電子構造のコットも堅固な組み合わせでその城壁は出来ているという。

 番兵は<デッド>でも最も屈強にして大型の<デッド>、<CPU・ベインズ殺し

 今までは、この世界を統治する<ナイト・キング>の居場所を誰一人知らず、存在すら、影武者が数人居るとか噂のみ先走り誰にもわからなかった。

 しかし、先のAIハンニバルとの第三次ポエニ戦争で王自ら出陣し自ら恩賞も出し士気を鼓舞したため天下の衆目を集め、皆がその存在顔かんばせを知ることとなった。


 <ナイト・キープ>に向かうは珍しく衣冠を正している。

しかし、手に持っているものが異様に怪しい、抜け毛の多い髪の毛を掴み朽ちかけた生首を持っている。<オーキー・ハン>と呼ばれていた<ナイト・バナーマン>の首である。

 先の大戦で裏切ったともされる<ナイト・バナーマン>と言われているがあれだけの混乱した大戦おおいくさ、誰も詳細は定かでない。

 整えた衣服の懐も何を詰め込んでいるのか大きく膨れている。

 <ナイト・キープ>の番兵、<CPU・ベインズ《殺し》>が身をかがめ、可を質す。

「小さき匹夫ひっぷよ、如何いか用か?」

「王に用事これあり。これなるは王が求めし<オーキー・ハン>首なるぞ」

 そう言って、<オーキー・ハン>の首を差し出す。

 身の丈で言えば、の3倍はあろうかという<CPU・ベインズ《殺し》>が更に身をかがめ生首を確かめる。

 言われれば、<オーキー・ハン>にも見える。

「通れ」

 二人の番兵<CPU・ベインズ《殺し》>は、を通した。

 は<オーキー・ハン>の生首をひこずりながら、<ナイト・キープ>に堂々と入った。

 <ナイト・キープ>の城内は和洋中華折衷の理論上最も防衛上高度にして完璧な演算で成り立った建築物である。

 これ以上、防衛に適した城塞は任意のnに対して理論上ありえない。

 城内を行き来する、<デッド>たちも壁という壁にぶつかりあいながら情報の電子をやり取りしている。

 しかし、どういったわけか、は迷うことなく<ナイト・キープ>の城内の複雑な任意のnの隘路に対して迷うことなくするすると王のもとへと進んでいく。

 <ザ・ナイツ>の中枢である宮廷の番兵にも<オーキー・ハン>の首を指し示せば、なんの問題もなく宮廷内に入れた。

 幾人もの大型の異様な姿の<ロード・オブ・ナイト>や<ナイト・バナーマン>が跋扈する中、小男のが宮廷に入ってきた。

 宰相である12MBもの長身の<ロード・オブ・ナイト>が可に気づき身を屈め尋ねる。

「何者で、何用か?」

「我は申すもの、王が求めし生首とともに献上物も持ち合わせて、<ナイト・キング>に会はんと欲す」

「ほう、<オーキー・ハン>の首か」

「左様。献上物は、これこのとおり、」

 は片手で生首を持ったまま、もう一方の手でふところから巻物になった地図を持ち出す。

 古来より地図とは軍師でさえも最も重要視する軍事上の最重要機密で地図を差し出すとは、そこの土地をそっくり差し出すことと同義である。

 可は続ける。

「引いては、人払いの末、王と二人のみでの謁見の願ひ出ん」

 宰相は、大きく頷くと答えた。

「よかろう、丁度よい、王は今、一人で別室で王務おうむを行っている最中である。そこへ参られよ」

「あいわかった」

 かくして大仰おおげさな礼もせず、は王家の家令の<デッド>に導かれ別室に向かった。


 別室の前で家令の<デッド>は一礼もせずに下がった。扉は開いているらしい。

 ここは、要塞<ナイト・キープ>でも、<ナイト・キング>の個室であり私室らしい。

 は一切臆することなく、入室する。

 室内は昏く、<ナイト・キング>は一人、古く大きな鉄板でしかない机に付いて、王務とやらに付いていた。

 <ナイト・キング>背後には、これまでにシステム・ダウンさせてきた、システムのプログラムの一行目が特大の大きなモニターに羅列してある。

 どの一行目も名前だけは派手だ。

 //hyper tower ver2.18

/*triton 9000

 //ultimate renderer ver0.2

 //THE Hyper SUN systems 5.88、、、、、、、、

 /*Greatkiller、、、、、、、、、、、、、、などなど。

 数えきれないたった一行が下に永遠に続いている。

 そして、その大型モニターの前に<ナイト・キング>人と語っていいのか、その人が居る。

 大型の<ロード・オブ・ナイト>や<ナイト・バナーマン>ほどは大きくない。

 普通の<デッド>や”人”のサイズである。

 <ナイト・キング>は日本の放送システムを乗っ取った時の画像やAIハンニバルが崖の上で垣間見たときよりも、顔面の崩壊は進み、今や錆びたついた王冠をかぶった一部腐った皮膚がとりついた骸骨でしかない。

 鉄板の上でしきりと嫌な音を立てて動く指はカビ臭いにおいの骨でしか無い。

 しかし、普通の王と違いゴテゴテした装飾は一切なく、実用一点張りでありとあらゆる任意のnに対する実用性しか重んじていない部屋は少し共感は得られるが、如何せん<ナイト・キング>自身が醜悪で醜い。

「貴様は誰だ」

 <ナイト・キング>が尋ねる。

「王の求めしものと、献上物を持参いたした、語りうる名もなきものでございます」

「語りうる名もなきものだと、無礼な奴め、名を名乗れ」

と申します。姓は何とでもお呼びくださりませ」

「わしが求めしものとは?」

「この首」

 が引きずり痛みきった<オーキー・ハン>の生首を差し出した。

「ほぅ早いな、裏切り者か」

 <ナイト・キング>は首を一瞥して言う。もうあまり興味が無いらしい。

 もう戦争は終わったのだ。今や<ナイト・キング>による平和、統治が訪れている。

「はっ」

 は丁寧に一礼するが、<ナイト・キング>は装飾と同じで礼儀にも興味が無い。

「献上物とはなにか?」

「地図にございまする」

 は、大きく膨らんだ懐から地図の巻物をゆっくりと持ち出す。

「ほぅ」

 <ナイト・キング>のもはや眼孔でしかない、髑髏の二つの暗い暗い穴の奥が光った。

 こちらには大変興味がある様子だ。古びたただの鉄板席を離れ、の居る鉄板のこちら側へとブーツに骨が生えただけの足で歩んできた。

「どこの土地だ?」

 質問も早い。

「はっ、ASCIIコードの16進法にて、20F17Aから20C23Dあたりになりますかと」

「数十EBエクサバイトはあるんのではないか?」

「然り」

 は答えつつ、慎重に地図の巻物をするすると開いていく。

 数十エクサバイトもある土地の形があらわになっていく。

 巻物がによって最後まで開かれたとき、巻物の中心に巻かれていた何がかコロンっと床に転がった。

 匕首あいくちである。

 <ナイト・キング>のもはや皮膚の張り付いた髑髏でしかない表情が変わる。

「衛兵ーっ!」

 <ナイト・キング>が叫んだ。

 は<ナイト・キング>の襤褸らんるのようなボロボロの袖をぐいっと握り掴むと<ナイト・キング>を自身に引き寄せた。

 <ナイト・キング>は驚くべきほど軽かった。よく出来たプログラムほど軽量化され少ない分量と容量で合理的にかかれている。

 そして、はその匕首あいくちを<ナイト・キング>の首元に思いっきり刺した。

 <ナイト・キング>は悲鳴をあげず、幾本か歯の刺さった口腔を大きく開けただけだった。

 <ナイト・キング>は死に際しても、容量が小さく軽量かつ合理的だった。非常に優秀でよく出来たソフト、アプリなのである。

 <ナイト・キング>は、顎をカクカクさせ、下半身あたりから、大量の0と1または、オンとオフ、もしくは陰と陽をこぼれ落としながら、死んでいった。

 しかし、同時にAIハンニバルが勝利の間際見たものと同じ漆黒の黒き黒き光が<ナイト・キング>の体の中心から光りボロボロの服の間から漏れ出していた。

 崩壊に補ってリブート再計算が行われているのである。

 こと、鷺野さぎのは言った。

「そう来ると思った。誰が書いたのかは知らないが未練がましいソフトめ」

 鷺野は、<ナイト・キング>首を匕首で掻き切ると、首と錆びた王冠を床に転がし、その昏き黒き光の中心を探した。

「面はぐにゃぐにゃ、幾つ穴が空いているかで決まる柔軟でもっとも進んだ幾何それこそがホモトピーだ。位相幾何でこの光の中心を見つけてやる」

 そしてその黒き光の中心に匕首をどかっと刺し直した。

「くたばれ、この演算野郎!」

 匕首を刺されると、光は一瞬にして消え、その体内の中心部には

 //NIGHT KING//

 と書かれていた。そこにKの文字を先頭にシフト・キーを押して大文字にして書き足した。

 //KNIGHT KING//

 その時王の私室の扉がバっと開かれ、屈強そうな大型の<デッド>を引き連れた<ロード・オブ・ナイト>や<ナイト・バナーマン>が数十人現れた。

 鷺野は、落ちてた錆びついたかなり臭い王冠をかぶり、今も読みは<ナイト・キング>である、骸骨でしかない生首を掴かみ、その駆けつけた<ザ・ナイツ>の偉いお歴々に叫んだ。

「我が新王なるぞ、我が前に膝まづけ、生き死にを超えた下賤の下郎どもめ」

「ははーっ」

 すべての<デッド>、<ナイト・バナーマン>、<ロード・オブ・ナイト>が剣を床に立て忠誠を誓い、その場に膝まづいた。

 鷺野は続ける。

「我が名は、、今までは、人偏にんべんであったが、これよりは、車偏くるまへんと名乗る。かばねけい荊軻けいかと名乗る。以後しっかと見知り置け」

「ははーっ」

 <ザ・ナイツ>は全員が膝まづいたままであった。

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