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 <探龍たんりゅう>は最初は高い高度から俯瞰で次は、プログラムの二項分岐の指示どおり被害の酷い箇所を最優先にして高度を徐々に下げていく。

 <探龍>のウィングスパンはDwing(x)関数でもう64ビット近くにまで伸びている。

 4つ目のもう一対の目で丹念に記録し調べていく。

 これも、行列と線形代数で延々と桁数をn次元に増やして情報を収納する場所は確保できる。


 なんなら、任意のn行n列に。


 上空は天国だが、下は地獄だった。


 もう、<ナイト・キング>に支配されていない箇所はない。

 <ナイト・キング>本人は<探龍>からは未確認だが、その重臣たち<ナイト・バナーメン>に<ナイト・メンズ>、<ナイト・ウィメンズ>に率いられた、小さな電子の往復でしかない<リビング・デッド>がぞろぞろ徘徊している。

 無事な村や、街、城壁、システム、方法、マニュアル、プログラムはない。

 殆どが、無尽蔵に増えた<ナイト・メンズ>に率いられた<リビング・デッド>に取りつかれている。 

 城塞都市キープの城壁には<リビング・デッド>同士が我先にと登るかわりにそれ自体が人梯子ひとばしごと化し、後からきた<リビング・デッド>が楽に城壁を越えていく。

 もう城壁の意味がない。


 中には、城塞の砲台を乗っ取った<リビング・デッド>が他の城塞めがけて臼砲をばっすんばっすん放っている。

 サーカスのように<リビング・デッド>自身が大砲の弾になっている場合さえある。見ているだけなら滑稽だが四方に拡散し空飛ぶ疫病の如き<デッド>である。

 まさにエアボーン・空気感染。

 

 城壁の外にある小さな村の井戸が城内への抜け穴になっている場合もある。<ナイトメンズ>や<ナイトチルドレン>はこの手のことに長けていて安々と電子のゆらぎや一秒間に何万回の周波でしかない<リビング・デッド>を抜け穴つまりバックドアに送り込む。


 要塞や町の統治者は、首をはねられているか、焼かれ、逆さまに吊られて城壁のグロテスクな装飾の一つとなっている。

 

 <探龍>は何一つ見逃さない。

 <探龍>は、プログラミングに従った、イベント関数、エンター・キーかマウスのクリックの指示を受けた。

『最大で重要な大型城塞都市へ急行せよ』

 位置を表す三次元に時間と重力の二軸を足した五次元の世界では通電配電システムにあたる。五次元に置いて電力の回復は最優先事項だ。

 実際、電力がだめならこの<探龍>も飛べないし、<デッド>たちも死滅するだろう。

 <探龍>は大きく翼をはためかせ、旋回。

 最大の城塞都市エレクトリシアに向かう。Dwing(x)関数で速度を上げやすい翼の形に引数を与えて戻り値を返す。

 五次元のリアル・ワールドならマッハ2クラスの巡航速度だ。

 

 一瞬でエレクトリシアの手前まで到達する。

 しかし、ここも酷い。城塞都市エレクトリシアの上空には<ナイト・バーズ>が雲霞の如くぐぇー、ぐぇーと泣き叫びながら旋回している。

 <探龍>は更に速度を上げ、わざと<ナイト・バーズ>の中へ突入するかの如きコースを取る。

 <ナイト・バーズ>の群れは巨大な<探龍>の突撃に恐れをなして群れを二分する。

 まるで、<ナイト・バーズ>の群れそのもの自身が生き物のようだ。

 そして<探龍>は<ナイト・バーズ>の群れの中心で急旋回、急降下を行う。

 丁度、城塞都市エレクトリシアの中心の真上に当たる。

 黒い<ナイト・バーズ>は慌てふためき対応が出来ない。

 <探龍>はビットやバイトで出来た雲海を抜けて、急降下。

 どんどん4つ目の<探龍>の眼前がんぜんに城塞都市エレクトリシアが広がってくる。

 ここが一番酷いのではないか?。

 <探龍>のもう一対の目で全てを記録する。

 城塞都市エレクトリシアには、それこそスウォームといったていでアリが群がるように<リビング・デッド>が城塞都市の全てを覆い尽くしている。

 まるで城塞都市エレクトリシアのCAD模型に<デッド>のテクスチャーを全面貼った感じである。

 <探龍>は唯のプログラム。二項分岐に従い物事を進めていくだけ。

 高度をある程度下げたところでDwing(x)関数に引き数を再度与え翼の形を代え翼面荷重を軽くし、大きく羽ばたきこうか速度を殺し空中停止に近い形をとる。

 うまく行き、得意げに耳をつんざくほどの叫び声で吠える<探龍>。

「ぎぃぇえええええええええええええええ」

 叫び声は、64GBギガバイト四方に響く。

 城塞都市エレクトリシアを覆い尽くしていた<リビング・デッド>の幾体かも<探龍>に気づき、ノロノロと見上げる。

 <デッド>の動きは遅い。

 見上げるたびに首をぽとっと落とす<デッド>すら居る。

 <探龍>はもう一対の目で行動するための周囲を探り、もう一対の目で見える限りの各々の<リビング・デッド>のアッセンブリ言語をすべて記録し龍舎に数万Hznの周波数で情報を送る。

 任意のn行n列なら楽勝だ。

 しかし、<ナイト・バーズ>の一部が降下し<探龍>に追いついてきた。

 獰猛で飛行速度の早い<ナイト・バンシーズ>だ。

 <ナイト・バンシーズ>も翼を翻し降下速度を殺し、<探龍>と同高度を保とうとする。

 <探龍>は紛うことなき龍である。一息吸うや、Dfleme(x)関数を使い一閃周囲270度ぐらいに炎を吐いた。

 <ナイト・バンシーズ>は焼かれて落ちていく。

 <ナイト・バンシーズ>の断末魔も<探龍>に負けず劣らず恐ろしいばかりの鳴き声だ。

 <探龍>は羽ばたく、<ナイト・バンシーズ>にかかずらっているいる間にどんどん高度が落ちている。

 城塞都市エレクトリシアでは<デッド>を率いる<ナイト・バナーメン>が現れていた。

 <探龍>のもう一対の目はコレを待っていた、逃さない。

 軍団<ザ・ナイツ>の将校格である<ナイト・バナーメン>のアッセンブリ言語を全て丸裸にし、即座に龍舎へ。

 <ナイト・バナーメン>もこの龍の襲来の事態をただでは済まさない。肉は腐り削げ落ちた腱と筋と骨だけの細い腕を一直線に伸ばし<探龍>を指差す。すると<デッド>たちが次々と投げ槍や城塞のレンガすら引き剥がし、<探龍>に向け投げ出した。

「ぎいぇああああああああああああああああ」

 下から、ありとあらゆる飛び道具が<探龍>に飛んでくる。<探龍>の翼に刺さった槍すらある。

 Max関数の二項分岐に従い、<探龍>は自衛手段から攻撃へと入る。

 偶々近くに飛んでいた<ナイト・バンシーズ>に噛みつき咥えるや、<ナイト・バナーメン>に向けて大きく首を振り投げつけた。

 ボロボロの襤褸の鎧を着た<ナイト・バナーメン>はあっけなく<ナイト・バンシーズ>の巨体に押しつぶされて、圧死した。

 しかしゼロイチの世界では、プログラムがたった数桁間が一行ずれただけである。

 おののく<デッド>たち。

 その後、<探龍>は、エレクトリシアに向けて、Dflame(x)関数で炎を盛大にぶちまけた。

 誰も今まで気づかなかったことだが<リビング・デッド>は燃えた。

 燃えるらしい。この事実も<探龍>のもう一対の目は逃さない。

 これも、計算を行う行列の数字に割り振られた位置情報の桁が数個入れ替わっただけである。

 ゼロとイチで出来た死体が火葬になっただけであるが、城塞都市が可燃物に覆われたことには間違いなかった。


 <探龍>はやりすぎたかもしれないが、恐らく一瞬、五次元のリアル・ワールドでは電力が復旧したはずである。

 ほんのほんのたった一瞬かもしれない。

 ゼロイチの世界に時間の概念は周波数で考える限り五次元とは全く異なるから。

 ゼロイチでは時間は次元の概念の一つですら無い。


 <探龍>が<デッド>が燃えることに気づいた刹那、人間<デッド>櫓となっていた<デッド>の最上部の<デッド>が<探龍>の尻尾にくらいついた。

 <探龍>は高度を下げすぎていた。

 <探龍>はDflame(x)関数で炎を自身の尻尾にまで降り注ぐべく吐きかけるがときはすでに遅かった。

 蟲のような<デッド>が次々と<探龍>に這い登り、<探龍>はビットとバイトの風が吹く中、翼にまで<デッド>が覆いはじめ揚力を得られす失速し降下していった。

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