とあるアップローダーにうpされた、.txt 3

 私はある意味、帰国子女だった。


 今でもそうだ。よくいる帰国子女はヒアリングとスピーキングは出来てもリーディングとライティングは全然だめ、漢字はだめとか、カラオケで歌詞が読めないとかいるけど、私は違う。


 ヒアリング、

 スピーキング

 リーディング

 ライティングすべて、完璧にこなす。

 漢字がだめなら日本語で書かれたものは一切読めない。

 これをバイリンガルって呼ぶのだろうか??。


 父親は大学の工学部のポストと企業の研究所をいったりきたりする技術者で当然、世界中の主に米国だが、大学や企業の研究機関をパテントの説明、生産のラインに乗るまでの立ち上げ、全てに関わり合っていて、大学での肩書きは准教授止まりだったがその道では世界的な権威だったとか。

 理科系の純粋数学や実験設備を必要としない学科では珍しいらしいが実験系の研究者ではよくある話らしい。私自身は研究とか一切興味がない。

 実験系だと早い話実験設備がないとはなから無理だ。


 私の家族は、律儀に父親を単身赴任させることはなく、接着剤のように父親にしがみつき、父のカシオの腕時計のようについて回った。父親も教育とは本人が意思さえ持てば、場所や言語には関係ないという考えだった。

 私と妹も刷り込みのように自然とそうなった。 


 そんな父の娘が巨大システムの塊である鉄道事故に巻き込まれハンディキャップをおったのだから、その落胆というか、落ち込み具合も理解できるであろう。

 しかし、父の怒りは鉄道会社とか監督官庁とかに向かなかった。

 社会にさえ向いていなかった。

 何通も送られてくる事故被害者の会の封書やメールには目もくれなかった。

 ただただ、自分とその娘の運命にだけ怒りが向けられた。

 それも、十分に理解できる。あの朝、妹は傘を忘れたといい父に駅まで送られ、一本いつもより遅い電車に乗ったのだ。

 

 もし、あの日、雨がふらなければ、

 もし、あの日、傘を忘れなければ、

 もし、あの日、傘を諦めていれば、

 もし、あの日、あの運転手でなければ、、、、。

 

 父親はしばらく、トリガー・ハッピーのようにパンパン見えもしない敵に小銃を狙いもせず放っていたが、やがてそれに対処できないことがわかると逃げ出した。

 娘からも、家族からも、そしてなにより自身からも、逃げ出した。

 前にも書いたかも知れないが、城址巡りという何百年も前にだけ存在する歴史的虚構に身を置き出したのだ。


 ある意味、父のほうが痛々しかったかもしれない。父は学会や技術者会から消え、本当に城址巡りだけ行う人になった。

 しかし、誰が父を責められよう。


 マスターからメールを貰ったというのは、記憶は定かではないが、この頃のことで、私が実家に戻りちぎれんばかりのこの家と家族を両手両足で繋げていた頃だ。

 マスターとは、父の友人。もちろん、技術者仲間で元同僚だ。


 名前はどっちでもいいだろうがラストネームはドイツ系っぽい、ファーストネームは私もあいまいな記憶があるが、転居に転居を重ねた欧米では悪いが顔と名前が一致しない。

 それに時間も経っているし。

 ドイツ系の名前で英語だと、差別する気は毛頭ないが、ユダヤ人である可能性が高い。

 まぁ偽名かもしれないし。

 ユダヤ人はWW2の関係上アメリカに沢山いてまた、恐ろしく教育熱心だ。技術者、研究者、そして今はイスラエルがあるけど、本来国を持たない流浪の民だ。お金にのみ固執する。投資家、銀行家。

 そんな彼、マスターから、父の宛からCCで転送されたのではなく、私宛の直接のメールボックスにメールが来た。

 普通は怖いとか、なんでとか、この人何考えてるの?となるだろうが、私の家は普通ではなかったので、そんな感情は一切持たなかった。

 もちろん、文章は英語。

 丁寧、親切、暖かく、私にどうすればいいか、何が最善か、書かれていた。

 もちろん、妹や、母、父をどうすればいいか。

 沢山のオプションとアドバイスとサジェストと物理的支援。

 

 そうお金だ。


 私に丁度いい心療内科を薦めてくれたのもマスターだ。

 ちょっと優しい先生すぎて処方薬中毒になっちゃったけど。

 

 万事が行き届きすぎていた。父に対しても、母に対しても、妹に対してさえだ。


 私は父と違い怒りが妹のリハビリでの一言以来、社会そのものに向いていたので、マスターにこっちのほうはどうにかならないのかとしきりに苦悩、苦情にもにた叫びを上げるようになっていた。

 それも契機だったと思う。

 マスターがハンドラーになり、私がスリーパーからアセットになったのは。

 その時、初めて若干の恐怖を私は抱いたが、もう遅かった。

 

 それに私の心はもう決まっていた。


 妹や私の家族をこんなにしたこの社会をぶっ潰す。

 社会と人生の半分は復讐で出来ていると思いだしていた。

 いやそう思うことに決めたのだ。

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