7月28日 午後8時58分 埼玉県大里郡寄居町

 チーム全員が田中邸の周囲をぐるっと取り囲むように配置につく。

 全員背負っていた装備をおろし戦闘に必要なものだけぱぱっと身につける。

 ここからは悪路での移動の速さより本当の動きの速さを要求される。

 各員恐ろしくその手順は早い。

 弾帯は多めに。

 スナイパーだけ、装備は蓑田家の庭に置き、蓑田家の納屋の屋根に腹ばいになりボルトアクションのM-700レミントンを構える。

 田中邸の全家屋の周囲を射程に入れられないが、狙撃に若干有利な高い位置。

思わぬところからの狙撃点がほしい。

 この距離で10mもないこの距離で狙撃ミスすることなどありえない。

 まさにワンショット・ワンキル。敵がいたとして田中家周囲全エリアがデッド・ポイント。

 ダイヤモンドリーダーは、田中家の門扉の門柱に隠れ、狙撃手と二人だけ持っているサーモ・ビジョンで最終確認。

 流石に壁を通過しての熱源確認は無理で窓とカーテンからおぼろげに熱源が見えるが人とは断定できない。

「最終点呼を取る。これ以降各員通信は全ライン、オンライン。私語は禁止」とリーダー。

「コミュニケーション、5ファイブバイ5ファイブ

<5バイ5>

 と最先任の下士官ダイヤモンド6が一人確認で答える。

「ダイヤモンド1?」

<ゴー>

 ダイヤモンド1が答える。

「ダイヤモンド2?」

<ゴー>

 ダイヤモンド2が答える。

「ダイヤモンド3?」

<ゴー>

 ダイヤモンド3が答える。

「ダイヤモンド4?」

<ゴー>

 ダイヤモンド4が答える。

「ダイヤモン5?」

<ゴー>

 ダイヤモンド5が答える。

「ダイヤモンド6?」

<ゴー>

 ダイヤモンド6が答える。

「ダイヤモンド7?」

<ゴー>

 ダイヤモンド7が答える。

「ダイヤモンド8?」

<ゴー>

 ダイヤモンド8が答える。

「ダイヤモンド・スナイパー?」

<ゴー>

 ダイヤモンドスナイパーが箕田家の納屋の上から答える。

 最後にチーム・リーダーが言う。

「コチラ、Dディー、リーダーオールソー・デファネトリィー・アブソリュートリー・ゴー。ホール・メンバーズ・アー、ファッキン・レディー」

 そして、一瞬小さく息を吐き。

「ディス・イズ・ファッキン・ショータイム。ナウ、エンゲージ」

<1、コピー>

<2、コピー>

 ダイヤモンド1とダイヤモンド2の最初に突入するポイントマン二人がすぐに返答する。

 チームリーダーと同じように反対側の門扉の門柱に隠れていいたダイヤモンド1と2は鉄製の門扉を指出しのキャットハンドの布で覆われた手のひらでちょんちょんと触り通電していないか確認。

 ない。

 途端、泥棒のよう無音でさっと門扉を開け、玄関口まで辛うじて雑草の繁茂からのがれている石畳を身をかがめたまま、小走りで走る。

 武装はサプレッサー付きの肩当てストックなしの89式小銃。警察系の特殊部隊が使うMP5は屋内のショート・レンジで弾をばらまくにはいい銃だが、屋外に走り出たターゲットを撃つとなると拳銃と同じ弾丸の9ミリでは少ししんどい。

 1と2が雑草の生い茂る前庭の中辛うじてのこった石畳の道をつたい玄関口に到達。

 お互いで背後射角を確認に維持しながら、1が用心しながらノブに手をかける通電や異音異感はなし。ノブをひねる。

 ガチッ。

 施錠されている。

 斜め上に空調用の排気ノブも見える。ファイバー・スコープも装備してきている覗いて中を確認とか、そんな遊著ゆうちょなことをしている暇はない。

「ブリーチャー、ムーブ・アップ」

 ダイヤモンド1が耳にはめ頬までつたう小型無線機で呼ぶ。

<コピー>

 ダイヤモンド3が答え。

 1と2が踏んだ足跡とほぼ同じ地点を無音で駆け、玄関口へ。

 3がC-4を玄関のノブ側にベタベタ長く引き伸ばして貼り付けていく。

 

 その時だった。


 爆音とともに、田中家の玄関扉が大きく吹っ飛んだ。

 最初は、ダイヤモンド3が扉を破砕したのかと思ったが、ブラストは屋外に飛んできた。しかも、リーダーの居る門柱まで破片が飛んできた。

 玄関破砕のC4にしては爆発があまりに大きすぎる。

 リーダーも思わず門柱に隠れたが、飛んできた破片を見て愕然となった。ボルトとナット、ありとあらゆる長さの釘が含まれている。それと幼稚園でもよく見られるタッパウェアの破片。どれも百均やホームセンターで買えるものばかり。

<リーダーへ、>

 1の声だが無線の呼称かと思うぐらいあまりにも弱い。

<2、3ダウン。二名ダウン、繰り返します。二名ダウン。自分も負傷、肘から先を失い、、、>

「コピー」

 リーダーが覗き込むがまだ爆煙が残っていてよく見えないが二人倒れているのはわかる。

「スナイパー、どうなっている?」  

<爆炎でヴィジビリティ、ほとんどゼロ、サーモでも1、2、3しか見えません。1はしゃがみこんでいます。2は普通に倒れていますが、3は上半身と下半身が、、> 

 リーダーの心拍数が上がる、胸が早鐘そうどうのように鳴り、心臓が口から飛び出そうだ。 

 つまり今ここで吐きたい。

「6玄関へバックアップに回れ、大至急だ。バックアップ、レスキュー、バックアップ大至急」

 本来はポイント・オブ・アタックに一番近い自分が行くべきだが、自分はここを離れて指揮ができなくてはチーム全体が組織的に戦えなくなる。

 しかし9人の内3人倒れてまだ組織なのか!?。 

<6、ログ>

 田中家の向かって右側面に居た6が垣根を多少あらっぽくかき分け、前庭に入る。

 6は身をかがめ、地獄の様相を示している玄関口へ向かう。

 はなから、2、3は諦め、1に肩を貸し、リーダーの居る門柱まで駆け戻ってくる。

 爆煙が消え、若干視界が戻った。とは言え山を背にして立つ家、日本全国で大停電中だ。

 リーダーはノクト・ヴィジョンとサーモ・ヴィジョン両方で代わる代わる見るがよくわからない。

 玄関は爆破され大きく、空いたが、まだ玄関内にもう一つの扉があるようにも見える。あれはただの屋内の扉かじゃらじゃらしたすだれがそう見せているのかノクト・ビジョンではわからない。

 たった5m弱しか離れていないが、遠い、暗い、わからない。

 6が1を肩に抱え門柱まで帰ってきた。

「すいません」

 弱々しく、1が言う。失血で、もはや1の顔色が悪い

「謝る必要なんかない。俺のミスだ。早く止血とモルヒネを、それと輸血はない生理食塩水のパックを失血死するぞ」

「ログ」

 6が答え作業にかかる。

「多分、ノブに繋がった遅延信管ではないかと、、、、」

 1がまだ弱々しく喋る。

「もう喋るな、気を強くもて心停止になるぞ」 

「3はだめですが、見た感じ、2は助けられるかもしれません。爆風と吹き飛んだ扉に逆に助けられて、脳震盪を起こしているだけかもしれません」

 6が言う。

 可能性はある。可能性という言葉の定義においては森羅万象すべてに置いてある。チーム・リーダーは確かか?と言いたいが、6だってわからないだろう。

 どうしたらいいか、自分にも全くわからない。

 空自の入間基地のハンガーでは4回も手順を代えて侵入し成功した。

<リーダー、こちら4&5これから侵入します>

 家の裏側、山側に配置されていた4と5が連絡してきた。

 この二人も玄関での惨劇の様は聞いていたはずだ。

「状況が変わった、4、5ちょっと待て」

 とリーダーが言ったが、無線を通じてガサゴソと二人が動き出す聞こえだした。

「4,5少し待て、繰り返す待て」

 4,5の待機位置から窓までは比較的近い。最初の侵入は隠密性、静粛性を要求され裏窓から逃亡する可能のものを仕留めるのが4,5のアサイメントだが時差を置いて侵入するアサイメントも与えれている。

 やられた1、2、3の敵討ちの意味合いもあるだろう。

 4と5は大きなサッシで囲まれた窓ガラスの前に到達。もうあんな爆発音がしているのだ。ガラスが割れる音を気にする必要もない。

 5がややしゃがみ4の背後の射角の援護につき、4が短ストックの89式銃床の基部で窓ガラスを割る。

 4が割った。

 刹那、爆発音はなかったが、ヒューンヒュンとなにかが風を切って回ってくる音が複数した。

 それと同時に4がぐえっと声を上げ防弾チョッキの上の喉の横を手で抑え、何とか立っていたが堪えきれず、4は肩膝を付いた。

 どんな仕掛けで飛んできたのかわからないが、極細ワイヤーの先端に各種直径のナットを通した物が高さを代えて三本遠心力を利用しぐるっと高速で回り4に襲いかかったのだ。

 円軌道は恐ろしい。最先端はΠパイの倍率だけ移動距離と速度が上がる。

 胴体は防弾ベストで辛うじて守られたが、太ももと喉元に二本ワイヤーとワイヤーに通されたナットが刺さっている。

 どれも、百均は無理でもホームセンターでいつでも誰でも容易に買えるものだ。

「ぐぐぐっ」

 5が4を抱き起こそうとするがまだ首の横のワイヤーは先端のナットとともに深々と刺さったままだ。

 ここは柔道で”落とす”と言われるようにすぐ横に動脈が通っている。

 しかし、ワイヤーを抜かないわけには、ここに貼り付け状態になる。

 5が首に刺さったワイヤーを思い切って抜いた。予想はしていたが、ナットが傷口の組織をかなりの量破壊しながら、ワイヤーとともに4から抜けていき、4は堪えきれずくぐもった悲鳴を上げた。

 と同時に4の首元からがどくどくと出血。

 レンジャーは悲鳴をあげることも訓練で禁じられている。痛みに耐えかねて悲鳴をあげるのは敵に位置を教え仲間を危険にさらす弱い人間の象徴だとも繰り返し教え込まれている。

 しかし、まだ、ふとももにも一本刺さっている。これも抜かなければ4を5は運び出せない。

 5はもう5に寄り掛かるように立っている4の太ももに刺さったワイヤーを思いっきり抜いた。

 そのワイヤーの先端に通してあるナットは首のものとは比べ物にならないほど大きく幾個いくつもあった。

「ぐぐっー」

 4の太ももの筋組織がボロっと出、大量に出血しだした。

 5が悲鳴のような無線を連絡する。

<4ダウン、自分一人でも<ドールハウス>に侵入すべきでしょうか?>

「待て、4を連れてここ迄来れるか?」

<やってみます>

 5は出来るとは言わなかった。 

 もうチームの半数倒れたぞ。どうすればいい。こんな門柱に隠れていてはなにもならないし時間が助けてくれるわけでもない。

 通常の部隊では半数が戦闘不能になると全滅と呼ぶ。しかし、彼らは誇り高きレンジャーだ。一人になろうが全滅ではない。

 リーダーは、サーモとノクト、交互に何度も見る。緑の国と極彩色のドットの国。

 ドットの色は温度は体温ぐらいを指している。人か可能性として獣かも知れないがなにかが居るのだ、あの家には。

 隣に居て1の応急手当が終わった6が言った。

「リーダー、2の救出に行かせてください」

<こちら、7南側より侵入します>

 7も無線を聞いていたはずだし、玄関が吹っ飛んだ爆音を聞いていたはずだ。

 田中邸の南側には風呂場があり、プロパンガスボンベと小さな風呂場用の窓があるだけだ。

 侵入は不可能と入間の空自の基地で判断され、封じ込めるためにサプレッサー付きの89式を持って7と8が居るだけだ。

「ちょっと待て、7」

 そして無線機からはガサゴソを移動し始めている音。風呂場用の窓を破戒し登れば入れないこともないが、今度はどんな仕掛けが待っているかわからない。7もわかっているはずだ。

 全員がパニックになっている。誰もリーダーの指示を守っていない。

 6が更に圧力の追い打ちをかける。

「リーダー、行きます」    

「待て」

 もう6は暗闇の石畳を小走りに走り出していた。玄関口に到着する。C4は火にくべても爆発したり燃えない非常に安定した爆薬だ。まだ3が仕掛けたC4の破片が壁にべっとり残っている。

 6が2にたどり着き、どう判断したのか、担ぐのは無理だと思ったらしい。

 防弾ベストを取っ手代わり襟首を掴むと2を引きずり出した。

 それと同時だった。もと6が居た田中邸の北側から4を肩に担いだ5が現れた。5も出血しているのか4の流した血がついているのか、5も血でべっとりだ。

 普通科の隊員でも動けない一人を肩に担ぐ訓練は受けるがこれは相当な重労働になる。たとえレンジャーでも走ることは無理だ。

 5は4を担ぎ雑草が膝辺りまで生い茂る庭を正確には元庭を小走りにかけてやってくる。

 6もずりずり気を失っている2を引きずり出した。

 どうなったのかわからないが田中家の南側でバリーンとガラスの割れる音がした。

 7が風呂場の高い位置にある小さな曇りガラスを割ったのだろう。

 一瞬リーダーは門柱に身を伏せてしまったが、なにもおこらなかった。 

 しかし、別の所で事はおこった。

 6が2を引きずっていたとき、だらーんと大きく股を開いたままの2の編み上げのブーツが石畳かられて雑草の中に入りなにかにあたりカチンと音がした。

 

 打ち上げ式対人地雷だ。


 ポーンとなにかが打ち上がる音がした。

 二階の屋根ぐらいまで打ち上がったなにかは空中でパーンと映画やアニメの爆発音からは遥かに軽すぎる音をして爆発すると、無数の鉄菱の破片の雨を田中家の庭全面にそれこそ雨霰あめあられと降らせた。

 降ってくる音までざーっと雨のように聞こえた。

 これぞ悲劇の雨だ。

 それは一瞬の出来事のはずなのに、チーム・リーダーには永遠の時間に思えた。

 チームリーダーは、また、御影石みかげいしの門柱のおかげで助かったが、2をひきずっていた6。4を肩に担いでいた5は庭と石畳に倒れたまま、ピクリと動かなかった。

 もちろん3はバラバラのまま。

 それをチームリーダーは血の気が引く思いで見ていた。

 どうなっているんだ。

 この屋敷はアンブッシュの塊だ。

 これ以上の仕掛けがあるだろうか。

 よくわからないが、7が侵入を試みている南側でガタンと無線でなく生音で大きな音が聞こえた。

 7は壁をよじ登り侵入出来たのか?。家の裏の山側はともかく全体像が見えるスナイパーに尋ねるべきだ。

 しかし、対人地雷の爆風で鼓膜が損傷したのか頭を打ったのか、頭がぼーっとしてなかなか聞けない。何人率いて、何人死んだのかもわからない。

 リーダーは思っていた。

 おれは一応、待てと言った。違うか?。しかしチーム全員でこの門柱に身を潜めていてどうにかなったのか?。

<リーダー、リーダー聞こえていますか>

 誰かが俺を呼んでいる。母親じゃないのもわかる。父親でもない。幼い頃お菓子をくれてちんちんを触った近所の中年オンナでもない。あのレンジャーの鬼の教官でもないのもわかる。

 この声はダイヤモンド・スナイパーだ。

 えらく声が小さく聞こえる。無線機が壊れたか?俺が自身が壊れてるのか?まだ7のバディで援護の8が居るはずだ。呼び出すか、呼んでどうする。庭の雑草はわざと伸ばしてある跳躍地雷を隠すため。よく出来ている。

 しかし、石畳は安全だ。下もよく見える。少なくとも雑草はない。

「スナイパー、こちらダイヤモンド・リーダー、今から突入する、援護してくれ」

<援護ってどこを誰を撃てば?自分の位置からは屋根の庇が邪魔になっているせいかサーモに反応は皆無です>

「援護を頼む。以上」

 もう門柱に到達したときに89式のボルトは引いてある。レンジャーとして田中家の中にだけでも入らないといけない。

 なにか持ち帰るのだ。ルーター、HDD、PC、スマホ、携帯。いや、持ち帰らなくてもいい、中に誰かいるならぶち殺してやる。中に居るかもしれないチビでハゲでデブなオタクのハッカー野郎を。鬼女きじょならこの仕掛けだらけの家で一晩中犯してやる。

 そのためには一歩でも家屋の中に入らないといけない。一歩でも。

 チーム・リーダーは防弾ベストの襟を念入りに立て直し小走りに玄関口まで走った。

 どんと、玄関口の脇の壁に背をあてる。

 ここまでは、1も2も到達した。メットに装着したノクトを降ろし、ノクト・ヴィジョンで恐る恐る玄関から内部を覗き込む。

 緑の家の中が見える。全部緑だ。エメラルドの王国。

 玄関の奥に見えた扉はただの暖簾だ。色までは全部緑だからわからないが富士山の柄だ。無性になぜか暖簾の色が知りたくなった。

 スモークか閃光弾か硝煙弾のグレネードを投げ入れるか。白燐弾は家が全焼するので困る。

 中の持ち帰るべき電子機器に問題があっては困る。自分は壊れてしまったようで任務だけは最重要課題として考えの中に残っているから笑ってしまう。

 なんだ?楽勝じゃないか。今のところまでは。9人も連れて来るべきではないのではないか?。

 銃床なしのサプレッサー付きの89式の射撃モードは”レ”の連射モードになっているのを指で再度確認してから、、、。

 思い切って玄関内に入り込む。

 普通だ。

 靴箱が右にあり、前には富士山の暖簾。

 田中家に一歩入った。

 ジリジリにじり進む。玄関と屋内との段差に気をつけ、足を高くあげ、振り下ろす。

 と、振り下ろした右足が奈落まで落ちていきそうになり膝をついたがそこもなかった。

 逆の足のすねを思いっきりなにか木材に打ち付けた。

 ノクトビジョンだと視界視野ともに上下左右とも限られる。視野は四角い筆箱ぶんぐらいしかない。

 あわててノクトビジョンを外して周囲を見やる。

 編み上げのブーツで床を踏み抜いたのかを思ったが、なんとこの家は床が無いのだ。

 コンクリの基礎と床板を渡す角材だけが縦横無尽に何本も走っている。

 その一本に足をぶつけたらしい。

 目が慣れて暖簾の色がわかった。藍色だ。笑いも幻滅も喜びも感動もない。

 床板をめぐらす角材を障害物競走のように足を高くあげながら、進んでいく。

 富士山の暖簾までやってきた。

 89式の銃口で暖簾を押す。三枚にわかれているが二枚に分かれる。

 家屋の内部にアンブッシュは一切ないのか?。

 小型のライトも持っているが敵が居たとして位置をバラすだけだ。

 片手に89式、もう片一方の手のキャットハンドの指出し手袋で暖簾を分ける。 


 なんだ、これ?。 

 

 全面ビニールで覆われた部屋。

 というか暖簾の奥には部屋の敷居、壁が一切ないのだ。

 ビニールというより、なんだこれはシャワーカーテンのような、、。 

 シャワーカーテンの奥は当然ぼやけて見えない。

 しかし、大きなビニールのカーテンだ。

 辺りを探り、サーモビジョンに反応したものがやっとわかった。

 炭火だ。みたことのないぐらい巨大な石鉢のような大きな箱に入れた炭が置いてある。

 石鉢があるのはシャワーカーテンの外だ。

 石鉢の反対側はと見回したときに思わず、チーム・リーダーは思わず声をあげそうになった。

 7が首のない躰で高い小さな窓に肩口だけどうにか家屋内に入れて宙吊りになっていた。

 7の首は血溜まりの中その真下に落ちている。

 風呂場など当然無い。床がないのだから。

 チーム・リーダーは大きく息を吸うと吹っ切れたように思い切って、シャワーカーテンをがばっとめくりあげた。

 開く口がないのだから他に手段がない。

 シャワーカーテンで区切られたのは、田中家の一階部分の山側2/3ぐらい。

 カーテンをめくり匂いで一発でわかった。

 

 ガソリンだ。


 床のコンクリートの基礎の部分を浅い子供用プールのようにして2/3一面ガソリンを溜めているのだ。

 匂いや気化しないようにシャワーカーテンで区切り。

 リーダーがめくった瞬間に、カーテンを止めていた金具がなにかカチンと音を立てたのもわかった。

 リーダーが最後に言った言葉は単純だった。


「ダイヤモンド8、ダイヤモンド・スナイパー、逃げろ」


 田中家は家屋の基礎部分一面に張られたガソリンで大爆発をおこし、小さなきのこ雲まで作った。

 飛び火は蓑田家にまで飛び移っていた。

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