7月28日 午後5時02分 埼玉県大里郡寄居町鉢形
高山巡査長と西川巡査の二人がコンパクトカーで警邏の最中、深谷警察署から直接緊急無線が入った。
警察官にとって、夕方のこの時間は学校を中心に登下校の安全を確保するために小中学校、公園を中心に住宅街を回るの常である。
<こちら深谷PS、深谷
「こちら、深谷
<深谷PS了解>
運転しているのは、後輩の西川巡査だ。高山巡査長がパトランプを屋根に載せサイレンをオンにする。ナビもついているが一応地図をだす。
「今、浦和とか大宮の街中の警察官は交差点手信号で出はらっているんだろう?」
と高山。
「でしょうね」
と西川。
埼玉県は基本、首都圏のベッドタウンだが西に行くほど秩父山系にぶつかり急激に郊外となっていく。
狭山市、川越市なども西武線でどうにか首都圏にぶら下がっている。
「城南中ってさっき警邏して通っただろう」
「ハイ」
西川は運転に必死だ。
『ハイ、緊急車両が交差点に侵入します。緊急車両が侵入します。そこのワンボックスカー停止してください後ろの軽自動車も注意してください』
スピーカーの操作は助手席の高山巡査長のしごとだ。
交通量は少ないが信号がついていない交差点をバンバン通過していく。
地図を見て正確に番地まで確かめた高山がいう。
「3-25って城南中の西側ぐらいか?」
「城址跡のところですかね」
「ジョーシアト?なんだそれ、歴史館のことを言っているのか?」
「そうです」
コンパクトカーのパトカーは順調に市の郊外をさらに山間に向けて走っていく。
そのためのコンパクトカーだ。
進めば進むほど、どんどん民家がまばらになっていく。
車両搭載のナビも間違えだした、リルートが追いつかない。
「主任」
西川が不安そうにいう。
「おう、わかってる、ちゃんと俺がナビするから。次の角北、いや左だ」
「了解」
彼らは西に向かっている。
高山の膝の上には大きな地図が広げられている。
どんどん道は狭く。家々はまばらに。
「城址跡ってなんだ?」
「その名のとおり、鉢形城ってのがあったらしいですよ」
「へーお前、埼玉の出身か?」
「いえ、新潟の長岡です」
「おい、気をつけろ、その先から一通だ」
狭い道は一方通行が多い。夕闇が迫る山間の道をたった一台のパトカーが進む。
しかし、対向車両はない。
一方通行は概ね、交通量が多いところから少ない方向へと設定されている事が多い。
「サイレン消しますか?」
「俺も迷ってた」
無線で深谷署に確かめるべきか?重要犯だと気づかれて逃してしまう可能性もあるし、サイレンで観念してくれる場合もある。被害者には救援が向かっているサインにもなるだろう。無線で確かめるべきか?。
「もうすぐそこだぞ、西川焦らなくていいスピード緩めろ。この辺はすぐ私道になってから気をつけろ。緊急通報でもあとで自治会長とか町議会議員とか難癖ついけてくるからな」
「一回通過しますか」
これパトカーより覆面パトカーがよく使う手だが、道が細すぎてそんな事出来ない。
「次の角だ。曲らずにその脇に止めろ」
「了解」
パトカーが止まると、サイレンも止まった。赤ランプだけ夕焼けと同化してくるくる辺りを狂ったように照らしてる。
主任の高山巡査長が無線を取る。
「深谷
<深谷PP了解。警察庁から直接の指示です。現場保全を最優先にして現場を捜索してください>
「保全!?警察庁!?状況と応援は?」
<深谷PS以上>
「深谷
無線はブチっと突然切れた。
パトカーを隠すように止めたのはなにも手柄をたてたいからではない。
次の角にはコンパクトカーといえども入れないからだ。
大きな林にパトカーを止めたがバックでしか最前の道に戻れない。大きな林だと思ったのは民家の垣根の鬱蒼とした植木だった。
警察には特に地域課には詳しい職業までは置いといてどこにどれくらいの歳の誰が住んでいると行った人別帖みたいなものが周到に作られていて毎年度4月の一日から一件一件尋ね歩きリニューアルし毎年度きっちりアップデートしている。
車も入れないような鬱蒼とした垣根の林を抜けたところに、柏原3-25-11が存在する。
恐らくこの道は私道だろう。
大里郡寄居町鉢形3-25-11は古い農家を最近リフォームし直した家のように見える。2階建てで二階はえらく狭くなり今風の最新の健在で土地にめいいっぱい高い民家を立てる家屋とは一線を画す、まさに古風な家を思わせる。瓦屋根屋根には太陽光発電、古いのか新しいのかわからない。
両脇の鬱蒼とした植木の林はこの家の垣根でなく、両隣の垣根らしい。
Yの字に挟まれているのだ。
大里郡寄居町鉢形3-25-11の家の裏はモロに森、林、山。それこそ雑草と杉の木に覆われ鬱蒼とした大自然に守られているのか行く手を阻まれているのかわからない。
秩父名物のたぬきでも出てきそうだ。
いや狸にバカにされているのかもしれない。
道々地図を見てきた、高山巡査長にはわかっている。狭山署でもわかっているはずだ。
柏原3-25-11の住人は定年退職した
その警察の地図に拠ると、垣根のYの字の片一方は空き家で、、、、、。
その時、垣根の間から、老人の顔がにゅーっと現れた。
高山と西川は思わず、声をあげそうになった。
「何かあったんですか」
老人は尋ねた。こちらも誰かわかっている。田中家の隣の
警察官のこっちが尋ねなければいけないぐらいだ。パトカーが赤色灯を付けてやってきてもうごまかすことは出来ない。
「蓑田さんですよね。お隣の田中さんところで今日お昼過ぎぐらいからなにかありましたか?」
西川が話す。
その間に高山はどんどん歩を進める。
「あそこは、ずっと留守ですわ」
「ずっとっていつからですか?」
「はー、なんか業者さんが来てトンカントンカンやって挨拶回りもなしに、そのまんま、二三年になりますかね」
二三年?おかしい。警察の地域課の資料と合致しない。資料では住んでいることになっている。
隠しても仕方がないので喋る。
「通報がありまして、様子を見にきました。気になるとは思いますがなんかあったらあれなんで家の中に入っといてもらえますか?すいません」
と若い人当たりのいい西川が穏便におねがいをする。
「今大停電でしょ、TVが映らんもんで、暇で暇で、、」
と言いつつ蓑田翁はため息まじりに家に引っ込んで行った。
西川は小走りで高山に追いつく。
田中家は庭木は伸び放題だし雑草も相当伸びてるが、網戸、雨戸など、荒れ放題と言った感じではない。
どこかの宅建のプラカードや上りが立っていてもおかしくないし、中から田中夫妻がすーっと出てきても全く不思議ではない。
「主任」
と西川が半歩前を進む高山巡査長に声をかけた瞬間。
高山巡査長のすとんと真後ろに首がもげた。
そして、躰のほうからは噴水より激しい血飛沫が首があったところから吹き出て、
キレイに全く受け身を足らない形で大外刈りを受けたように高山巡査長の首のない躰は血を吹き出しながら真後ろに倒れた。
西川巡査は刃物を通さない防刃ベストを着たまま半身だけ真っ赤な返り血を受け悲鳴を上げ続けた。
その後輩を落ちた無表情の高山巡査長の首が見上げていた。
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