7月28日 午後2時47分 市ヶ谷
市ヶ谷の防衛省、庁舎A棟の一室では、まだ鷺野二尉、山川陸将補、井上審議官 榊原政務官の4人の男性がすし詰めになっている。
山川は300回の深い腕立て伏せのあと、汗だくになり夏服の制服を上半身だけ脱ぎ量販店のタンクトップ一枚になっている。
こちらのほうがガタイの良さが際立つ。
鷺野も同数こなしたはずだが、こっちはちゃっちゃっとこなし同じく迷彩の作業服の上着を脱ぎ、Tシャツ一枚に。
先程、ヘリが低空を飛ぶ音がした。
「井上、我々はどうしてここに集められとるんだ?」
山川が尋ねる。
「わかりません」
井上審議官の蚊の泣くような声。
井上審議官はチビチビ、富士山麓のおいしい水を飲みながら小さくなっている。
「我々は、控えの控えで失敗した時の責任を取らされるんですよ、たぶん」
と鷺野。
それに対し、榊原がにやり。
笑いながら言う。
「僕の経歴がだめになってしまうな、総理や官房長官とは違う派閥ですから」
榊原は、タブレットでネットサーフィン。できるだけ情報を集めたいらしいがネットにつきものの、検索ワードに合致した情報がダラダラ、アメリカ大手の検索エンジンから流れるだけで、言葉を変えるだけで両論併記で結論は検索エンジンでは教えてくれない。
「どうして、TVを止め、メディアを止め、交通を止め、電気を止め、ライフラインを止められるのにネットだけ繋がったままなのでしょうねぇ?」
気楽に榊原が鷺野に尋ねる。
「必要だからでしょう」
鷺野の返答は早い。
「サイバー攻撃するためにですか?」
「もう初期の目的は達成しているのでしょう。復旧の度合いとか、総務省管轄ですか、
「なぜわかる」
重い声で山川が尋ねる。
「すべての情報を塞いで、攻撃なんか出来ないんじゃないですか、さっきのA4のペーパーだと田舎のほうはあんまりサイバー攻撃というか被害を受けていない。大都市だけ狙っている。丁度戦時中の空襲みたいにね。相当指向性をもって攻撃しています。ハッカーなんてファイアーウォールを突破してみせたり、どっかのシステムに自分の名前を落書きをするぐらいの愉快犯がほぼですが、そうじゃないと思いますね」
「なぜわかる」と山川が訊こうとしたとき、ドアがノックされ空いた。
「きゃっ」
山川のタンクトップシャツ姿に先程の美人WAC隊員、高杉里奈が顔を赤らめ声を上げた。
山川は渋々、夏服を肩に掛け着用しだした。
「鷺野二尉、井上審議官、榊原政務官、官邸お呼びです」
山川の顔つきが変わった。
「なぜ、俺が呼ばれとらんっ」
”必要ないからですよ”と鷺野は言いそうになったが、それは榊原政務官の役目だ。
「もう通信大手やサイバーセキュリティの専門家がさじを投げ出すとはちょっと早いですね」
時計を見ながら、榊原が言う。
高杉里奈士長が書類となにかを持ったまま言う。
「車は渋滞のため無理です。ヘリポートにヘリが待機しています。官邸にはヘリで向かってもらいます」
「映画みたいに成ってきましたね」
と榊原。
WAC隊員が一人づつに官邸のセキリティを通過出来る臨時のパスを渡していく。
当然、山川陸将補のパスはない。
「井上ぇーっ」
「はい」
「俺の分を直ちに防衛省から直々に官房経由で官邸に申請しろ」
「私は、一介の審議官ですよ、無理ですよ」
「防衛政策局の塚口局長にナシをつけろ、
「と、
「見ろ、軍隊ちゅーもんは、星の数よりメンコの数なんだよ、旧軍のときから」
と、もう星がいっぱいついている陸将補が言うんだからしょうがない。
パスを持ってきた高杉里奈士長は獣でもみるように、美しい眉をひそめ山川を見ている。
「やれ、井上」
井上審議官がスマホで通話しようと試み、電話は不通なことを思い出し慌ててウェブ・メールに切り替える。
「井上、元レンジャーのと付け加えて、山川重五郎と重ねて言え」
井上審議官のスマホでの文字入力は驚くほど遅い。
「急いでください。ヘリが暖機運転のまま待っています。行きましょう」
高杉里奈が促す。
「こんなひょろひょろの二尉を一人を陸自の代表として日本国の中枢の官邸に送り込めるか!。パスは官邸の入り口で渡してもらえるんだろな、井上っ」
「まだアドレスも呼び出せていません。官邸でどうなるかわかりませんが、私のパスをお使いください、陸将補」
「よーし」
「大丈夫ですかね、臨時のパスとはいえ、官邸の警備って自衛隊じゃなくて警視庁でしょ」
もう、井上審議官を除く3人は美人WAC隊員に先導され歩きだしていた。
「おれは、防衛省本省のどの職員より警官のほうが嫌いだ、町中でいばりくさりやがって、誰が日本を守っていると思っているんだ。俺は柔道二段だぞ、サツカンは一人残らず官邸の玄関から叩き出してやる」
「余計、入れないんじゃないですかね」
こんな時でも、榊原政務官は楽しめる様子だ。
庁舎A棟屋上には二機分のヘリポートがある。
ヘリポートには、木更津の陸自第102飛行隊の通称”ロクマル”UH-60Jブラックホークが回転翼を回しながら待機していた。
もう既にダウン・ウォッシュがすごい。
「涼風、
と山川。
「そのころは、UH-1Jのイロコイだったでしょう?」
山川が言った鷺野をにらみつける。
「それに、
山川は鷺野を無視しもうブラックホークに乗り込んでいた。搭乗している機付き兵の士長がヘッドセットを三人に渡す。
ヘッドセットが三人の耳元に語りかけていた。
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