7月28日 午後0時58分 種子島北東沖75キロ
海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦、<ちょうりゅう>の発令所で艦長の
そろそろ、引き継ぎの同型艦の<とりゅう>とコンタクトができる位置のはずである。
前方には海中からはもちろん見えないが、中国海軍の空母<
というより、<ちょうりゅう>が<遼寧>をかろうじて追跡しているのだ。
それに加え、水中での長時間での全速力運転で<ちょうりゅう>は無事呉にこのあと、帰港するためにはそろそろ蓄電池の蓄電量がシビアだ。
「ソナー、パッシヴのみでコンタクトはないか?」
艦長の北野はここ数分、ソナー員にしつこく尋ねる。
「ありません」
汚れがつかないように白い布を当てたヘッドフォンを両耳につけたまま、ソナー員の島川一曹が答える。
「<とりゅう> は遅いですね、どうしたんでしょう?」
弓削が小声で言った。
「うむ」
本当は、一番焦っているのは艦長の北野二佐だが顔や態度には出せない。狭い艦内、リーダーの同様は全クルーに
「ソナー!コン!」
島川一曹が叫んだ。
「海水温の断面で捉え切れませんでしたが、コンタクト。真正面、下方です。音源は我が艦の11時の方向、距離15キロ、深度は約150メートル、コース0-9-4。本艦前方を横切る形になります。音源は<ゴースト1>と命名、直ちにデータ・ベースと照合させます」
「船速1/3にスロー」
と艦長。
「船速1/3にスロー」
操舵員が復唱し実行する。
操舵はここ数時間、艦長が
「少し、浮上しますか?それとも停止して、、このままでは<遼寧>からおいていかれますが、、」
航海長の弓削がレコメンドともとれる質問をする。
北野二佐の顔が露骨にくもる。
このあたりが、静寂性は高いが水中で速度の出せないディーゼル潜水艦の辛いところである。
今までも、海自の潜水艦隊総出で交代、待ち伏せで<遼寧>の追跡、追尾を行ってきた。
操舵員の横にいた副長の
「こちら、ソナー、音源<ゴースト1>は米ヴァージニア級攻撃型原潜と判明。36ノット近い高速でコースそのまま0-9-0進んでいます。艦名までは不明」
島川が小声で言ったが、もう遅い。
「ソナー、<とりゅう>とのコンタクトはないか?」
「ありません、いや待ってください。ソナーコン!。<そうりゅう>型の推進音。<とりゅう>です。12時の方向。距離約22キロ。微かですが聞こえます。周囲の海流音からいって現在転舵中と思われます」
「転舵?」
弓削が海図に身を乗り出し訝る。
北野が歯を食いしばる、こんな狭い海域でしかも<遼寧>の後方で同盟を組む国同士の三隻の潜水艦が鉢合わせだ。どういうことだ。
北野は正直、どうしていいかわからなかった。
「こちら、ソナー、音源が微弱ですが<とりゅう>が転進。コース1-7-0、ヴァージニア級を避けるため、南に転舵しています」
「どうなっているだ?」
誰にも聞こえないような小さな声で北野二佐が吐き棄てるように言った。
島川一曹の声が続く。
「前方を通過したヴァージニア級攻撃型原潜のスクリューの大量のバブルで音源ロスト。かき回されました。ほぼ海域全域でソナー・ネガティヴ。<遼寧>のスクリュー音も完全にロスト。」
「くそっ」
北野が毒づいた。
航海長の弓削が続いてリコメンドする。
「艦長、潜望鏡深度に浮上すれば、まだやれます。もしくは、VLFで<とりゅう>
に呼びかけられるかもしれません」
弓削の語気は強かった。
「もういい」
へたり込むように、北野一佐は発令所のシートに座り込んだ。
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