プリンセスプリンセス 3

 シナモンアップルとカスタード。苺とクランベリーのコンポートに生クリームチョコレートがけ。

「で、美味しかった?」

「いの一番にそれ聞く?」

 もう泣きそうだった。癒されたかった。上の空のままクレープを口に運んで、ひとくちふたくち交換したりして。終始上機嫌なヒナタと別れた途端あたしは走り出した。

「あそこのクレープ美味しいじゃない。ふたりじめしたんだから、感想くらいきかせてよね」

 どこか冷え冷えとしたユリカの声が意気消沈なあたしの心に刺さっていく。

「美味しかったです~~~~!」

 おいしかった。シナモンアップルとカスタードの約束された至高のマリアージュ。しかも今が旬の林檎は店主が吟味した酸味と甘味のバランスが良くてクリームとの相性も……とにかく、美味しかった。もう片方のクレープをほおばるヒナタは、生地に包まれたルビーとホワイトがまるでお姫様みたいに似合っていて可憐で可愛かった。

「グルメリポーター並ね、いっちゃん」

「ゆりかはいじわるだ」

「どうも。あんた程じゃないけれどね」


「まあいいじゃない。友達では要られるんでしょう」

 ぱりぽりと電話口で音がする。

「失恋話を聞きながらポテチを食べないでください」

「あら失っちゃったの。ご愁傷様」

 ずずず。ことん。

「緑茶ですか」

「煎茶なのよね。甘いお菓子が欲しいわ」

 差が分からない。

「ねえねえねえ真面目にきいてる?」

「だっていっちゃん、諦める気なんて無いでしょ。諦められる気なんて、ないんでしょ」

 あの時とは、違うんでしょう。そう埒外に言われた気がした。

 視界の端でカーテンが揺れて、心の中にまで風が吹き込んだ気さえした。

「そっ、か」

 そうか。諦めなくても良いんだ。諦められるわけないんだから。

「そうよ」

「そうだね」

「そうなのよ。だからこんなつまらない惚気話のために私の時間を奪わないでくれる?」

 そんな風に言いながらもその声色は笑みを含んでいて、こんなだからあたしはユリカのことが大好きでたまらないのだ。これが通話なんかじゃなくて、隣り合って喋っていたならば全身全霊で抱きついていただろう。

「ありがとう」

「感謝されるような覚えはないけど」

「良いの、言いたかったの! あーあ、あたしも何か食べよ」

「あら、やけ食いは太るわよ。いっちゃん」

 ぱりぽり。変わらず電話口に響く音さえもここちよいBGMになって、あたし達は結局2時間くらいたわいない世間話をしたのだった。


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