(5)魔王さま、やっちゃって
「この国は約八年前に建国されたばかりの若い国で、町といっていいほどの規模なのですが、隣国ゴモラと領土を争って戦を繰り返してばかりいるのですよ」
「で、わたしにどうしろと」
魔王は不機嫌だ。ミカエルはそれが面白いというように笑う。
「おや、ずっと地上世界に来てみたかったのでしょう」
「うるさい」
魔王、ミカエル、それからデビーと召喚勇者ロンリーの四人は、ミカエルの案内で地上世界にやって来ていた。ミカエルは転移能力があるので、全員、あっという間にデス湖の近くにあるソドムに到着。今は中心街を囲む城壁の外にいた。
「いいから、さっさと要件を言え。神はわたしに何をお望みのなのだ」
「この国に制裁を。方法はお任せしますとのこと」
「そうか、制裁をか。ふむ……」と、魔王はミカエルを見る。
「って、どういうことだ。わたしに手を汚せと言うのか」
「なにをおっしゃる、魔王さん。あなた自分が誰なのか分かってますか。魔界の王ですよ。それに、宰相とも強奪の計略を練っていたではありませんか」
「それとこれは話がべつだ。神かお前ら天使が自分で制裁を加えればいいだろう。なぜ、わたしに言ってくる」
「いいじゃないですか、細かいことを。神がどうぞと言ってるんですよ。それに、この国は愚王によって統治されているのです。その愚王を生み出した原因はなんであるか、分からないとは言わないでしょうね」
「うっ。で、でも、わたしの任期中に建国したんじゃ――」
「さて、魔王さん、わたしも忙しいので。帰りはご自分で転移してくださいね」
「あっ、おいっ」
にこりと笑ったかと思うと、もう消えてしまったミカエル。
魔王は地面を蹴とばした。
「なんだよ、勝手な命令ばかり。あいつらはこれだから嫌なんだ」
「でも、魔王さま」とデビーが言う。
「神からの許可があるほうが、あとで怒られる心配がないですよ」
「それは、そうだが……」
地上世界で派手に活動するとなると、やはり神の目が気になるのは事実だ。それが、「どうぞ、やっちゃって」と勧めてくるのだから気兼ねがない。
「でも、神の制裁と魔王の襲撃じゃあ、人間たちの受け取り方が違うじゃないか」
神なら畏怖、魔王には恨みを抱く。人間の顔色を見るわけではないが、それでも損を食う気がして嫌だった。
「魔王って、大変なんだな」
それまで黙っていた勇者ロンリーが口を開く。
「俺は天使なんて嫌いだ。あいつら自己中だもんな。魔王さま、俺はあなたを尊敬してます」
「そ、そうか」
大天使ミカエルによって勇者に任命されたロンリーは、すっかり天使嫌いになっていた。むしろ魔王といるほうが心安らぐほどだ。
「それにしても、この世界の勇者も大勇者も、くだらない連中ばかりですね。おかげで俺まで村人から白い目で見られたことが、たっくさんありましたよ」
「ロンリー、苦労したんだね」
「うん、まあ……」
デビーが話しかけると、すぐに赤くなる勇者ロンリー。デビーは分かってからかっているんだろうか。魔王はしばらく観察してみたが、どうやらデビーにそんないたずら心はないようであった。
ま、小悪魔だしな。
魔王は横目で二人を見ながら、さて、制裁をどうするかと頭をひねった。
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