第二幕
Episode 2 小悪魔デビーのヒミツ
(1)万魔城にお帰りなさい
「――それで、大勇者殿はこちらの
いま、そこで魔王は宰相であるルキフゲ・ロフォカレの冷たい視線をばんばんに浴びていた。魔王はゆったりとした大きな安楽椅子に深く腰掛け、片ひじをついて彼を見やっていたのだが、その顔には気まずそうな微笑が浮かんでいる。
「わたくしの記憶が正しければ、そう遠くない日にこの名城名高い
視線を投げられた勇者はじりじりと後退し、まるで壁と同化しようとするかのように、そこにぺたりと張りつく。魔王はそれに目をやると、再び宰相に視線を戻した。
「彼も反省している。故郷へ帰りたい一心での愚行であったのだ。それにだな、
「根には持っておりませんよ。ただ、わたくしの執務室に侵入し、大切にコレクションしていた魔界特産冥府焼きの壺を粉々にした犯人が誰であったかと考えているだけです」
じろりと壁際をにらむ宰相。彼は約千年に渡って、冥府焼きの熱心なファンだったのだ。あの日のことは忘れられない。そう、宰相は苦々しく思う。
まさに大事件。魔界史に残る騒動であった。
それが、騒動を引き起こした張本人が、のこのこと舞い戻って来ただけでなく、この
しかし。
あの伝説の魔王が復帰したとのニュースは、そんな
その魔王さまがおっしゃること。まだ言ってやりたいことは山のようにあったが、ここはぐっと飲み込むことが得策と、聡明な宰相は判断する。彼は大きく肩を上下させてため息をつくと、首を二度振るだけにした。
「魔王さまがお決めになったこと。お住まいになるというのなら、仕方ありますまい。ただし、きっちりと魔王さまの管理下においてくださるように。ここや近隣在住の悪魔たちの中にはあの事件にトラウマを抱いているものが、少なからずおりますので」
「うむ。そのことは忘れないよう、しかと配慮に勤めよう」
魔王が微笑むと、厳しい顔をしていた宰相の顔を少しだけゆるんだ。
「魔王さまとまたこうしてお会いできること。まことに喜ばしく思っています」
「そうか。頼りにしているぞ、宰相」
「はっ」
頭を下げる宰相。魔王はそれにうなずきかけながら、勇者が大きくホッと息を吐き出すのを目の端でしっかりと捉えていた。
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