女児の妖怪

 蒸し暑く、なかなか寝付けない夜だった。私は眼を瞑り寝転がりながら色々な事を考えることで早く寝ようとしていたが、一向に睡魔は私を訪れてきてはくれなかった。平常はそんな事はしないのだが、エアコンが壊れていたこともあり、私は服を着ずに寝ていた。

 それが起こったのはそのせいであるとも言えるし、いつもは服を着ているので気づかなかっただけなのかもしれない。

 子供特有の体温の高さをもった小さな足。片足が小指の爪ほどしかない程度のごくごく小さな子供の素足が私の脛に登ってきた。この時、何故だか解らないが、私はそれをはっきりと人間のものだと確信していた。それも女の子という事まで。私は何故だかわからないが私がまだ起きているということを悟られてはいけないと思い、寝たふりをした。

 彼女は私の脛毛に足を取られながら、歌でも歌っているかのように浮かれながら歩いていた。膝小僧の骨をつついてみたりなんかして。彼女は徐々に私の体の上の方に向かってきた。臍に足を突っ込んできたときは、くすぐったさのあまり思わず笑いそうになったがなんとか耐えた。喉仏周辺で立ち止まっているときはその不思議そうな顔が目に浮かぶようだった。

ついに彼女は私の顔まで登ってきた。そこは彼女にとって不思議なもののオンパレードだったようだ。彼女は口を、鼻を、そして治りかけのニキビまで熱心に観察していた。とりわけ彼女はまつげが気になるようだった。一か所に毛がたくさん生えているのが珍しかったのだろうか、つつくどころかついには睫毛を引き抜こうとした。

 私は急な痛みに驚き、眼を開けてしまった。

 彼女と目が合う。顔から笑いがサッと消え去り、爪の伸びた指先が私の眼球に向かって―――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る