赤い階段への転送
うちの階段は赤いカーペットが敷いてあるのだが、それはハリウッドを想起させるようなゴージャスなものではなく、縁が所々ちぎれていたり全体的に垢でずず黒くなっているのでひたすらに薄汚い。滑り止めの効果ももはや無いし剥がそうと祖母に言うも
「新築の時は近所の人が見に来るくらい立派だった」
と話にならない。まあ思い入れがあるってことは分かるけど。
大体からして一段一段が急なうえ暗いから、私はだんだん階段そのものが嫌いになる。対照的に妹はどんどん階段が好きになっていく。退廃主義だとか自称していたけれど、要は変わり者なのだ。妹の階段への謎の偏愛はどんどん増していって、最終的には階段の踊り場に布団を敷いて眠るようになる。そして月に一度程転げ落ちて下の襖に穴をあける。母に危ないから部屋で寝ろ、と言われてもどこ吹く風でなんだったら落ちるのを楽しんでるような節すらある。
ある夜中に水を飲みに台所に行こうと階段を通ると寝ているはずの妹がいない。部屋にもいない。夜遊びをするようなタイプでもないので心配になって家の中をあちこち探すもどこにもおらず、私は階段に座り込んだまま眠る。
気付いたら私はここにいた。上にも下にも永久に続き続ける階段の中。窓はなく、42段ごとにぶら下がっている裸電球だけが唯一の道しるべ。カーペットの汚さは確かにうちのものと一緒だ、しかし赤さに悪意を感じる。被害妄想かもしれないが。
階段は私の頭上の電球だけが点いていて、上にも下にも闇が広がっている。カーペットを剥がしたり壁に穴をあけようとしたり、色々と試したがどうにもならないので今はただひたすら上に向かって歩いている。疲れたら踊り場で眠る。起きると登る。
「お姉ちゃん」
妹の声で目が覚める。やっと夢から覚めたと思うも妹の背後の闇はぱっくりと口を開けたままだ。
「あんたなんでここにいるの」
「いや、私よく来るから」
「なんだか自分が見つけたいい感じの店に友達と行ったら実は友達の行きつけだったみたいな気持ちだわ」
「ちょっと何を言ってるのか分かんないけど、どうする? 帰る?」
「あんた帰り方知ってるの」
まあ行きつけですから、と妹は笑いながら布団にくるまる。
「ほら、お姉ちゃんも」
私は一つの布団に妹と一緒にくるまる。私たちが具の饅頭みたいだね、と妹が言う。ちょっと何を言ってるのか分からない。
そのまま饅頭は階段を転がり落ちて闇に呑まれる。
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