第三十六話 指紋


 まだ下層が存在しているようだ。

 ボスを倒して、発現した魔法陣に乗って、下層に移動する。全員が乗った所で、魔法陣に魔力を流す。


 魔法陣は・・・。

 発動したけど、ここで問題が出るのか?


”4桁の数字を並び替えて、最大にしたものと最小にしたものとの差を計算する。これを繰り返すことで、現れる数字を答えよ。ただし、同じ数字だけで構成された整数は除く”


 また面倒な問題だな。

 カプレカ数だろう?


「アル。問題には、選択肢は出ているのか?」


「出てない。4桁の数字を入力する様になっている」


「”6174”と入力してくれ」


「わかった!」


 アルが、問題が表示されている板?に数字を入力する。

 4桁でよかった。3桁は、”495”と覚えているけど、それ以外だと計算しないと解らなかった。カプレカ数を知らなければ、計算が出来ても答えには辿り着けない。


 どうせ、一回しか回答権を与えられていないのだろう。間違えたら、入口にでも飛ばされるか、もう一度ボス戦だろう。


「兄ちゃん!」


「入力したら、回答してくれ」


「うん。6174と入力した。回答!」


 いきなり、魔法陣の転送が始まるのか?


 光が俺たちを包み込む。


 光が無くなっている。一瞬で終わってしまった。


「エイダ!」


『最下層です』


 最下層の扉にも問題がついている。

 今度は、495が答えになる。4桁の方が難しいと思うのだけど、別に困らないからいいのか?


 答えをアルバンが入力すると、扉が開いた。

 前室になっているようだ。


「カルラ。アルバン。この部屋を整えてくれ、必要な物は・・・」


 周りを見ると、いろいろと物資が流れ着いているように見える。


「かしこまりました。旦那様がお休み頂ける部屋にしておきます」


「頼む。ゆっくりでいいからな」


 食料を渡しておけば、飢える事はないだろう。


『マスター』


「どうした?」


『”黒い石の解析を実行したい”と思います。ご許可を頂きたい』


 黒い石に関しては、少しでも情報が欲しい。

 ただ持ち込めばいいのか?それとも、何か条件があるのか?条件があるのなら潰せばいい。持ち込むだけで発動してしまうのなら、持ち込ませないようにする必要がある。罠の応用でできるか確認が必要だが、転移する罠で武器だけを奪うことができる。同じように、黒い石だけを奪う事が出来れば、持ち込ませる状況を回避できる。


「わかった。許可する。ただし、俺も一緒に解析を行う」


『了』


 奥の部屋も気になるが、黒い石の方が重要だ。

 それに、黒い石の正体が解らないまま、ウーレンフートに繋ぐのは怖い。危険だ。直感から来るものだが、この場で解析を行ったほうがいい。


「カルラ。アル。黒い石の解析を行う。なるべく近づかないでくれ」


 二人から了承の返事が来る。


 ノートパソコン--DELL製の13インチモデル--を、取り出して接続を行う。普段開発で使っているSurfaceは繋がない。DELLのいい所は、パソコンに癖がないから、いろいろなOSが試せることだ。一部には、ドライバが必要になる場合もあるが、標準のドライバで動いてくれる。


 繋いですぐに判明した。

 黒い石は、やはりウイルスが仕組まれている。と、いうよりも、”黒い石”自体がウイルスだ。


 機能は単純だ。

1.繋がった端末に自分をコピーする

 この時に、抵抗ができる。パソコンに繋いだ時にすぐに判明した理由だ。

2.相手に強制的にスキルを植え付ける

 感染フェーズで、どうやら動きが単純になってしまっていた理由のようだ。乗っ取りを行うのだが単純な行動パターンになってしまっている。

3.複製の作成

 今回は、これがうまく作動していなかった。複製が行えれば、感染した端末を使って別の端末に感染させられる。経路が複数になるようには調整されていない為に、”1”が邪魔して複製が失敗している。

4.魔核(石)に侵入して機能を複写する


 ワクチンは必要なさそうだ。振れなければいいだけだ。

 これで、各階層に置かれていた理由がわかった。魔物たちが、倒されて、魔石が残されると、そこから新しい黒い靄を纏った魔物が産まれる。これの繰り返しだった。

 接触で侵入を行う。


 解析を行って、プログラムの癖が解った。

 サンプルが一つだけだから、正しいか解らないが、回りくどい方法を用いている。わざとそうしているのか?癖なのか?それとも、何かのサンプルのコピーなのか解らない。


『マスター』


 エイダに頼んでいた、黒い石の固有情報に思える物が見つかった。あとは、全ての黒い石で共通する部分か、何かしらの係数を与える事で、同一の物とみなす事が出来れば、識別が可能になる。これは、俺じゃなくて、エイダが得意とする分野だ。

 今まで、いくつかの黒い石を見つけてきていた。ウイルスにも、指紋のような物は存在する。プログラムでも同じだ。抜け殻になっている黒い石にも残された情報を見つける事ができた。


 総当たりの計算は、簡単なプログラムを組んで、あとはエイダに任せてしまおう。


「エイダ。情報をまとめてくれ」


『了』


 結果が出るまで、俺はこのダンジョンの設定を行う。


 奥の部屋に入ると、そこには、NEC PC-8801MHだ。

 なつかしさがこみあげて来る。キーボードも純正品だ。モニターは残念ながら純正品ではなかった。EPSONのモニターだ。

 PC-88には、ネットワークアダプターは存在していない。RS-232Cからデータの吸い上げを行おうかと思ったが、簡単に行きそうになかった。周りを見ると、1,200bpsのモデムが落ちている。

 手元にはないが、ウーレンフートにならモデムが搭載されているパソコンがあったはずだ。

 RJ11で繋げばいいはずだ。リバースにする必要は無かったはずだ。モデムがビジネスモデムの様だから、6極4芯のケーブルを用意すればいいのか?


 うーん。ここで、コネクタを作るのは出来そうにない。

 一度、ウーレンフートに戻ってコネクタを作るか?


 それとも、もうウーレンフートと繋いでしまって・・・。


 もしかして、このダンジョンの魔物やボスが単調な動きになっていたのは、PC-8801MHをコアに使っていたからか?


『マスター』


 前室で、解析を行っているエイダが何か報告があるようだ。


『どうした?』


 こちらは、もう何もできないので、前室に戻る。


『マスター。解析が終わりました』


「早いな」


『はい。同一のフィンガープリントが存在します』


「そうか!それなら、識別は出来そうだな。全ての魔石か?」


『はい。元を作成して、コピーしているようです。ボスの部屋で見つけた物は、元々の魔石が大きかった為に、プログラムが残っていたようです』


「通常の魔石では見られない特徴だよな?」


『はい』


「フィルタリングは可能か?」


『可能です』


「追跡は?」


『不可能です』


「接触感染だと、センターから排除は可能か?」


『可能です。ダンジョンへの侵入検知が可能です』


「わかった。それで、防御を組み立てる」


『了』


 これで、黒い石に関しては、安心できる。


「エイダ。手伝ってくれ、ウーレンフートに繋げて、コアを変更する。今の物では、処理能力が不足している」


『了』


 カルラとアルバンには、引き続き前室の掃除を頼んだ。

 エイダとコントロール室に戻って、今度はエイダとウーレンフートに繋げる準備を行う。


 黒い石の解析に使った、DELLを使う。ウーレンフートに繋げる。向こうにいるヒューマノイドに、こちらのダンジョンに接続を行うように指示を出す。

 すぐに、接続確認が表示されたので、承認を行う。


 あとは手慣れた作業だ。

 ヒューマノイドに必要になる機材を持ってこさせる。RJ11のケーブルを作成して、モデムを経由して、ウーレンフートから持ってきた端末に繋げる。


 データ移設には、21時間が必要になるようだ。

 戦闘ログなどは残っていない。殆どが、階層データの様だ。後は、中で戦っている者たちをどうするのかだけだ。


 データの移行が終わってから考えよう。

 今日は疲れた。

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