郷愁より来る
きし あきら
郷愁より来る
(OPEN)
コトリ。床板を
生まれつきの顔なのか、性分からなのか、心配げに寄ったかたちで
手が、
コトリ、コトリ、コトリ。おれは歩いているのか。古びた、しかし
――いらっしゃいませ。
なにか
だがだめだ。金はない。金もない。おれのものなど、もはやひとつもない。おれさえ、おれでないのだ。
主人はみじんも
ゆっくりと腕が動いた。左はないが、右のほうは残っているらしい。どうしても目の前のカップを取りたいと思った。
乾いて汚れた手が、青い
美味い。
すこし甘いようなのは麦の糖だ。どこかで知っている。知っている。どうしようもなくひもじいとき、寒いとき、こうして飲ませてくれたじゃないか。母。おれの母が。
ふいに、カップを
もういいのだ。おれは十分に歩いてきた。足が
力なくカップを置いた手が、すこしずつ
おれは最期に、おれを呼ぶ母の声を聞いた。
(CLOSE)
郷愁より来る きし あきら @hypast
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