エクレチアン西部劇編第二幕 大学襲撃編

第11話 ゴールドデザート大学

 砂嵐吹き荒れる伝説の砂漠。

 すなつぶは一つひとつが黄金色に輝き、太陽が最も輝くとき一番照らし出された場所には黄金財宝がこれでもかと眠っているという。

 この世界のとある場所には深海があって、その海との道がつながっているらしい。

 運命の輪を結ぶように、大陸と大陸を結び、その量大陸に栄えた敵対する大国の王子と王女が足繁く通い合ったとされていた。


「と、そんな逸話があるからして、この砂漠にそびえ立つ大学はこう呼ばれています。ゴールドデザート大学。このプレートプラネットはわれわれが皆知るチームエクレツェアの初代詠嘆のエクレツェアが、100年前この世界に移動させたとされています」


 あげた頭が印象的な髭のおじさん。50代くらいの彼は深緑のジャケットを着て教卓に立っていた。

 ただの教卓ではない。ここは大学で一番大きな教室の教卓だ。

 彼の視界から広がるのは野球ドームを凝縮したような、差し迫っていると錯覚を起こすほどの生徒たちが、ぎっしりと集まっている。

 その中の一人が目を覚まし、寝ぼけ眼を開くと、段差上の生徒の席がまるでこの空間をドリルのように見せる。その先端にはバーコードの頭が見えるのだ。

 その頭は光るわけではない、ただ凛々しく、ただ凄まじい。


「と、話は逸れましたが、今日はこの大学で詠嘆のエクレツェアさんの公開講義がございます。皆さん、貴重な機会ですので是非参加するように」


 今はエクレツェアの一部となったこの伝説の砂漠は、今や都市が乱立する文化の発信地である。

 特に、この大学の凄まじいところは、辺り一帯を大きく買い取ったのちに建設を始めたため、大学から約1キロが全て砂漠であることだ。

 正直、文化の発信地というにはお粗末な建設計画ではあるが、とある理由からそれが最大の売りとなっている。


 だだっ広い大学の外の砂漠では、彼らが修行に励んでいるのだ。


「サーバント・きりきり舞い!」

「サーバント・ダークアリゲーター!」


 赤茶色の服に銀色のらせん模様がかっこいい青年は、鎌を両手に持つつぶらな瞳のカワウソを目の前に召喚。

 一方、10メートルほど距離を置いて、深緑の布で身を包んだ修行僧のような坊主アタがの男が、その少し前に巨大な緑のワニを出現させる。

 きりきり舞いと呼ばれるカワウソは鎌をぐるぐる回しながら、冷静につぶらな瞳をワニの鼻頭に無理かざす。

 だが、それをワニが鼻息ひとつで振り払ってしまって、体をギュルリトひねると噛み付いた。

 しかし、そこにはきりきり舞いはおらず、ワニの背中を咲きながら開店して尻尾を切断した。

 きりきり舞いはその勇姿に自ら酔っていたが、主人の声を聞いて我に返った。

「下だきりきり舞い!」

 ワニの切り落とされた尻尾の陰から、その一部を丸ごと食らいつ区ほど大口を開けたこれまた巨大なワニが、砂漠の広大な砂をかき分けて現れた。

 そのままきりきり舞いを噛み砕いてしまったのだった。

 ワニはそのカワウソを不味そうに吐き出すと、きりきり舞いの姿が消えてしまう。

 二人は互いの勇姿を讃えあい、ともに大学に戻ったのだった。


 その頃、キシヨたちもその大学を訪問していた。

 キシヨはブロックとリョアンとの修行を中断して、マリを救出した時のグループで『ディオグラディティ社長』の警護任務にやってきていた。

 どうやら、この大学でその社長とよしきの演説会があるらしい。

 その大学のスタッフに通された部屋は理事長室で、小綺麗にされてはいるがどこかカビ臭く、あたりにはこれでもかと様々な受賞歴がけべに飾られていた。

 キシヨはソファに座らされていたが、その隣には偉そうなよしき位の姿が踏ん反り返っていた。

 キシヨはその目の前に座るかなり若い男、髪の毛はクリーム色で笑顔がここの大学の誰よりも優しい彼に申し訳そうな視線を送って尋ねた。

「その、サーバントってのは一体なんですか?」

 目の前の優しい顔の男は、引き続き優しいままで答える。

「サーバントってのはよく聞くような下僕とはちょっと違ってさ、どちらかというと召喚獣に似ているよね。まあ、その召喚獣ってのも自分と契約した優しい天界獣の事を言うんだけど、あんまり難しく考えちゃダメだよ?」

「そうですか、だからこの辺は広い砂漠が広がっているんですね。サーバントを使って戦う練習をしているわけでしょう?」

「ああ、その通り。よしき、君の弟子は言われなくともいろんな状況がわかるような人間なようだね」

 よしきは鼻で笑った、

「はは、そんなの考えたくらいでわかってもなんの意味もない。こいつには後で体験してもらうから大丈夫だ」

 彼はさらに踏ん反り返った。

「ま、サーバントがイケメンや美女の類じゃない事は知っておいてもいいだろうがな」

 優しそうな男が首をかしげる。

「おや? この大学で一番強い生徒の事を知らないのかい? 彼のサーバントは天界獣じゃない、人間だそうだよ?」

「は? なんだそれ?」

 よしきが興味を持って姿勢を正した時、理事長室の扉が開いた。

 後ろから砂漠の暑い太陽に照らされながら、深緑のジャケットを着たバーコードハゲの校長と案内されてきたスミレ、ミーティア、サカ鬼、龍矢が揃った。

 校長は頷くと、

「よしきさん、もうすぐ講義の時間です。準備をお願いします」

「おっ、前座は終わったか勇敢な髭校長よ」

「そんな事言わないでくださいよよしきさん」

 校長はよしきにへりくだっていた。そこには尊敬とか地位とかにへりくだるというよりも、かなり年上のものに対して尊敬を持っているように見える。

 だが、よしきより校長の方が明らかに年上に見えた。

 優しい男は校長のそばにいるエクレツェアのメンバーに視線を向けると、

「やった、僕の護衛に可愛い女の子が二人も付いてくれるなんて、最高だよ」

 キシヨはそれに振り返って目を見開く。

「えぇ!? あなたが依頼人の社長さんですか!?」

「そうだけど……僕の事誰だと思ってたの?」

 そう、彼があのグランバッチ・ディオグラディティ。

 キシヨもグランバッチ社の製作した面白くもない映画のPVを見ている。

 こんなに優しそうな人間があんな映画を計画するとは思えなかった。

 キシヨは早速尋ねる。

「アホなんですか?」

 それはお前だ。

 すると、著名な彼を知るスミレとミーティアが慌ててキシヨの口を塞ぎにかかった。

「すみませんすみません!」

「今のは聞かなかったことにしてくださいっす!」

 ディオグラディティは楽しそうに笑った。

「ははは、君たち面白いねぇ。よしきが弟子にするのも分かった気がするよ」

 サカ鬼と龍矢は興奮したようにディオグラディティに近づくと、無理に手をつかんで握手を求めた。

「わ、私は鬼のいる世界から来ました! サカ鬼と申します」

「あなたクールな作戦兵器を全部知ってます! 龍矢です」

 ディオグラディティは猛烈な勢いの彼らに何一つ嫌な顔をせずに、

「はははは、鬼の世界か、それは貴重だね。兵器はたくさんあるよ、よく知ってるね」

 しかし、サカ鬼に勝ちたい龍矢と龍矢に勝ちたいサカ鬼は止まらない。

「俺は兵器のことならシリアルナンバーも暗唱できます!」

「僕なんかドラゴンと吸血鬼のハーフです! もっと貴重です!」

「俺なんか重要機密知ってます!」

「僕だってディオグラディティ社長のパンツの色を知ってます!」

 ディオグラディティはさすが苦笑って、

「それは流石におかしいんじゃないかな……あはははは」

 二人をなだめようとしてが、サカ鬼と龍矢は互いのライバル意識の方が勝って、ディオグラディティの話などどうでもよくなってしまった。

 胸ぐらを掴みあって喧嘩をする彼らを見て、ディオグラディティは理事長室の大きな机の上にある、布で包まれたお土産を指差した。

「そんなに競いあいたいならあれ食べてもいいよ。中身は最高級和菓子、呂安(りょあん)亭のアイス大福だ。より多く食べた方が僕の会社に来たらいい」

「「よっしゃー!」」

 歓喜したサカ鬼と龍矢が和菓子のお土産に飛びついた。

 よしきが嘆いて、

「お前ら! スカウトしたのにそんな薄情な奴らがあるか!」

 二人は聞く耳を持たず布を剥がした。

 中からはすっごくチープな見た目のパッケージが現れる。

 サカ鬼と龍矢は嘆くよしきを背中に顔を合わせて、

「これ本当に高級和菓子か?」

「ディオグラディティさんが嘘つくわけねえだろ。いただきます!」

 龍矢の先手に負けじとサカ鬼もアイス大福を勢いよく食べ始めた。

 白いその大福が冷たく冷え、モチモチとした食感の後に甘い天国を見せる。

 それが何個も続いた頃には吐き気もしたが、それよりもライバルとの勝負が先決だった。

 よしきは後ろで呆れて、

「スミレ、ミーティア、ディオグラディティの護衛を頼む。キシヨは大学の南の警護を」

 キシヨがアイス大福を食べる二人を親指で指差しながらよしきに尋ねた。

「あいつらは?」

「勝手に警護にもどるだろ。お前とあいつら二人でこの大学の南、北西、北東をマークする。それくらいすれば真上から攻めてこない限りなんとかなる」

「俺はお前の警護をしなくていいのか?」

「何言ってる、せっかく激戦区におまえをおくってやろうってんだろ?」

「激戦……警護は襲撃を抑制するためじゃないのか? 本当に襲ってくるみたいに言うなよ」

「見てろって」

 ディオグラディティは手を振りながらその場を去っていった。

「じゃ、よしき。きみが先に演説してくれ。君に依頼したのはこのためなんだからね」

「……たくっ、何考えてんだか」

 スミレとミーティアは彼の後を追い、よしきとキシヨと校長は演説会の準備に向かった。

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