第32話 序章 リプレイ3
序章 リプレイ3 争いの嵐
『データを再生します』
さて、リプレイの話だ。僕たちが君の人生にどれだけ影響しているのか。それを知ってもらうためさね。
実を言うと、この作業はわかりにくいわかりにくいと言われ続け、僕もどうしたらいいのかわからなかったんだよ。
だがそう言ってもだね、記録されているんだよ。ほんでね、君にどうやって伝えられるのか考えてみたんだ。
エクレツェアがどれだけ楽しくて、君の新しい目標としての価値があるのか。十分にわかってもらうために、職業体験と考えていただきたい。
インターンでもいいよ。とにかく、楽しいことだ。
『スタンバイします』
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ここに来て、この物語の山場の一つだ。
あの太一とキシヨの楽しかった毎日は、最高のひと時だった。そう、半年前まではそうだった。
ハンカチを投げて遊んでいたあの頃は、もう半年も前のことだ。
今、極東の国はグレンシアからの独立を画策し、反乱を起こしている。
だが、半年前まで国民はグレンシアの手厚い施しに感極まっていたはず。なぜそうなったのか? 理由は簡単だった。グレンシアが極東国民を奴隷にする政策を立ち上げたのだ。
グレンシアが科学で極東の国を発展させた後、グレンシアの人間たちが国民を捕虜として捕らえ始めると、また第二次戦争と同じように『フィガー』や『小型核融合兵器』で攻撃を始めた。
彼らにとって極東の国民とは、グレンシアの人間が住める場所を発展させるための道具にすぎず、発展した今となってはただの邪魔だったようだ。
そして、そんな中。太一とキシヨは反乱軍に入ってグレンシアとの全面戦争に突入していた。
「おい! そっちはどうだ?」
『ダメだ、グレンシア軍がすでに制圧している……作戦を変えるしかないな』
しかし、別の作戦などない。
反乱軍はグレンシアの技術を盗み、『フィガー』や『小型核融合兵器』などの武器で応戦していたが、たった今反乱軍本部を突き止められ襲撃を受けていた。
『はーっはっはっはっはっは! この私! グレンシア第一提督の私、バル・グレンシアが来たのだからおとなしく投降しろ!』
巨漢の男の声が響く。彼はグレンシア最強の兵器と呼ばれいてた。
彼に居場所を突き止められてはもう逃げるしかなかった。
しかし、あたりは先進国の姿を微塵も感じさせないほどの荒廃した様で、ポツンと本部だけが立ち尽くし、周囲の主要退路を制圧されていたところ。
ここを抑えられては、もはやなすすべがない。
将棋で言うところの『詰み』である。
太一は通信機を投げ捨てて、
「みんな、投降しよう……」
通信機が皆共通で着ている乾いた砂の色の軍服から落ちるが、つながったゴムが通信機をだらしなく引き上げられた。
その場の反乱軍メンバーが慌ただしく、
「そんな! まだ戦ってみないとわかりませんよ!」
「そうです! この世界がグレンシアの手に落ちればアメリカやロシアの核兵器では太刀打ちできません! 今、私たちが一番あいつらと対等に戦えるんですよ!」
「あきらめないでくださいっ! 隊長!」
その頃、太一19歳であった。
この歳にして隊長を任された太一は、隊員たちの身を守るためにグレンシア軍に投降するしかもはや方法がなかった。
しかし、グレンシアの技術をもって反乱を起こした彼ら以上に、グレンシアに対して戦いを挑むことができる軍や国はもうどこにもいないだろう。
そう、太一たちが負けることはグレンシアの世界征服を意味していた。
ふう、一段落だ。
ここからがややこしい、だがリプレイの真骨頂でもあった。
リプレイとは先ほども言ったが、物語が正確に進むかどうかを確認する作業だ。
だが、一つの世界にはありえないほど多くの生物が存在する。
それらを管理しながら確認作業をする戸言うことがどれほど難解なことか、異世界の民である私すらそういうのだから、きっと普通の人間には想像もつかないだろう。
一つ例を挙げておくか。
例えば、君は物語の主人公で、その物語がマルチエンディングだったとしよう。
エンディングは三つあって1つはバッドエンド2つはハッピーエンドだったとしたら。
さらに、君は過去にすでに選択肢を間違えていて、もうバッドエンドが確定してしまっていたら。
どうする? それをハッピーエンドにすることができるか?
そうするためにはまず世界全体に喧嘩を売らなければならない。
そして、幸せになる権利を酋長しながら、責務を全て果たさなければならない。
自分の手で、運命を切り開かなければならない。
だが、今言ったことは案外簡単だ、楽しい。
そして、それに気がつくことだけがとっても難しいのだ。それだけの話だ。
とはいえ、時代も進歩した。今やほとんどの生物は異世界AIプログラムにより全部自動化されている。だが、察しの悪いものにあえて言っておくが、それでも難しいのは変わらないのだよ。
もし、その物語にセリフを用意されている人物がいたとしよう。
その人間を自動化してしまうと、リプレイとして成立しないのだよ。
ある程度無茶をさせて、ある程度進行確認をしないといけない。
これがこのリプレイの真骨頂である。
● みんな頼むよ。
せっかく説明したんだ。少し時を戻してわかりやすく行こうか。
ギコー、ギュルギュルギュル。
● よーい、アクション!
「おい! そっちはどうだ?」
『ダメだ、グレンシア軍がすでに制圧している。作戦を変えるしかないな』
「みんな、投降しよう」
その場の反乱軍メンバー数名が慌ただしくなった。
一人は先ほどのデザインがうるさいこととの上ない黒の姿をして、
「そんな! ここで逃げたら私たちの面子丸潰れじゃない!」
● なんで女口調なんだ。
隣では和服を着て大胆に地肌をさらけ出した男が、額の右に逆三角のツノを生やして、
「ソウデス! コノ世界がぐれんしあのテニオチレバ……対等に戦えるんですよっ!」
● すっ飛ばしすぎだ! しかも片言! きちんと練習してきてくれよ!
すると、その隣で銀髪のもじゃもじゃヘアーの美青年がメガネをくいっとあげて、
「くそぅ、ここ電波入らないじゃないか。あー、繋がっていたい」
● コーデルさんそれはネット依存だよね? 片手にケータイ持ってるし。
その頃、太一19歳であった。
「だが、どうやったら……」
太一の脳裏に誰かの犠牲がよぎった。そう、今太一の頭の中に誰か一人の犠牲で状況を切り抜ける方法が浮かんでしまったのだ。そのことは、やはり痛みを意味していた。
「じゃ、俺が行ってくるか」
そののんきな声とともに、誰かが窓枠に足をかけた。キシヨだ。
「ちょっと待て! 一人でどうするっていうんだ!」
太一が声をかけた時、その場の誰もがそれ以外の作戦がないことに気がついていた。
キシヨは背中で語る。
「いいか、『エクレツェア』の人間なら、『エクレツェア』の戦士なら、そして『詠嘆のエクレツェア』なら、こんな時堂々と、勇猛果敢に戦うんだろうよ」
彼はこの物語のもう一人の主人公だった。彼はこの世界で最も勇敢な人間だ。でも、それいてとても優しかった。一人飛び出せば確実に死ぬというのにもかかわらず、そんな今でも笑っている。
はたから見ると気が触れているように見えたかもしれないが、キシヨはこんな最後だからこそ、太一たちと苦しい思い出の中で別れたくなかったのだった。
「なんで、なんでいつもそうなんだよ!」
太一が叫んだ時には、キシヨは窓から飛び降りていた。瞬間、銃声と大きな爆音が轟く。
しかし、キシヨの叫びは聞こえてこず、グレンシア兵士たちの悲鳴が聞こえ始めた。
キシヨはたった一人で戦っていたのだ。
グレンシアから盗んだ『フィガー』は、それだけの戦闘力を一人の人間に与えていた。
「よし終わったぞ、隊員をやるのも疲れるな」
「緊張したぞ俺は、めちゃくちゃ片言だったぜ。酒でも飲みに行くか」
「早く電波を……」
隊員の女性に襟を引かれると、太一たちは大爆発を背に本部から脱出した。
● っておい、シーンはキシヨが死ぬとっても重大な場面なんだ! ふざけるのはよしてくれ!
——みなさん、リプレイお疲れ様でした——
——これから転送を行うので、支度を整え帰還してください——
まったく、これだからエクレツェアの民は騒がしい。
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そうさ、こんな風に『詠嘆』に浸っていた頃の僕を返して欲しいよ。でも、それは正直な気持ちだろ?
あんなに時間を割いて! あんなに長く一緒にいたのに! 君は最後の最後で裏切って見せたんだよ!? わかるか!? この気持ちが!?
……いや、いいんだ。僕も少さ熱くなりすぎたようだ。
元はと言えば、君のことを詠嘆のエクレツェアが僕の元に持ってきたイレギュラーだと気づかなかったから悪いんだ。
君に声が聞こえていると気づいた時、本当は修正すべきだったんだ。
記憶を消してでも全部最初っから、ビックバンのあとタンパク質に意識が宿るところから、やり直す必要があったはずなのに。
僕はそれをしなかった、それは君を殺す行為だから。
でもね、僕は最後まで反対したんだよ? 親友が死ぬ設定なんてくだらないとね。そして、君が詠嘆のエクレツェアになり変われば、それを知ることになる。
答えは目に見えていた。
君が親友を復活させる人間が何をするのかは僕が一番わかってるヨ!
だからね、一度だけ本気で話し合いたいんだよ。
君がもし真実を知ってどうなるのか。
もし、現実を受け入れられるのならばどんな物語になるのか。
それを知りたいんだよ。
べつに、事実を知らずに自分の世界に帰ってそのままでもいいんだ。むしろその方が安全なのだから。
君に詠嘆のエクレツェアを継ぐ資格があるのか、少しだけ見せてもらいたいんだよ。
君のことは一番よく分かってるはずの僕だから、最後まで賭けたいんだ。
さて、これで全て思い出してくれたかな?
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