第28話 エクイアの本音
開かれた宴は盛大に行われた。
初め、敵の忍びたちは仲間が殺されたばかりで楽しく飯が食えるかと言っていた。散々城を破壊した者たちと仲良くする発想がなかったのだ。
城を吹き飛ばし、よじれさせ、切断し、中庭を崩壊させたエクレツェアの民を誰も受け入れようとしない。
だがそこに、アリーア率いる医療班がエクレツェアの技術を使って、死んだと思われていた忍びたちの息を吹き返してみせたのだ。
傀儡の兵士になった忍びも見事に回復した。それに喜んだ彼らは治療された仲間とともに敵味方関係なく、楽しく宴に参加した。
朝日もすっかり日が上がり、正午を過ぎて夕日が赤く染まるまで続いた花畑の宴。和帝の宴はお花見スタイルだったが、エクレツェアのバーベキュースタイルに宴が飲み込まれていった。
ハルトとクロカズの勢力はお鷹の胸にほぼ全滅させられていたが、こちらもまたエクレツェアの医療に救われていた。
よくよく聞くと、ハルトとクロカズは忍びというよりは戦闘部隊らしい。異世界からスカウトされた人間が大半を占めるそうだ。中には1・5世界から来た人間もいたそうで、ハルトとクロカズも同様だった。
だからと言って、ハルトとクロカズはエクレツェアの者たちと飯を食うことはせず、居住区の和室で体を休めるお鷹の胸の前に集っている。
「「ありがとうございます。お鷹の胸さま」」
声を合わせて礼を言うと、お鷹の胸は布団の上でクスクスと笑った。
「いいえ、こちらこそ悪かったです。あなたたちに私を殺させようとする口実を作るため、わざわざあなたたちの心と体を入れ替えてしまったのですから」
ハルトは髪の毛をオールバックにまとめ、すの自分でがさつな性格をなんとか少しだけ丁寧にとりつくろい。
「本当だぜ……本当ですよ。でもそんなこと部下たちに言えないですから、側用人になるためとかわけのわからないことを言ってしまいました」
お鷹の胸はにっこり笑って、
「いえ、あなたたちの部下もそれがわからぬほど愚かではありませんでしたよ。さもないと私もこれほどの深手を負いません」
その時、彼女の傷が痛む。
ハルトは焦って、
「やべぇ、どうしてエクレツェアの者の治療を受けないのですか?」
一方、クロカズはバトルスーツに身を包んで紳士的に。膝を崩すとコーヒー片手にティータイムを取っていた。
「お鷹の胸さま。あなたは自分の命を狙えって言うし、エクイア様に関しては我らに実の娘のスミレ様を殺せという! そんなうざいことはできませんでした。どういう意図で?」
お鷹の胸はクスッと笑う。
「それはエクイアに聞いてください。もう生き返っているはずですから」
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「ブハァ! 生き返ったのじゃあ!」
「死んだふりするのに本当に一回死ぬとは。生命力ありすぎだろ」
声がこだまする、墓石の中のような部屋。
「エクイア、これで約束通りエクレツェアとこの世界を接続させてもらうぞ」
「うむ、礼を言うぞ」
黒い部屋の奥、家系図が置かれていた台座の下には階段があった。
階段を降りると墓石の中に作ったようなグレーの部屋に出て、そこにはキシヨと朱色の長髪を持つエクイアがいた。彼女は死に衣を着ながら元気そうにしている。
エクイアは座っていた寝台から起きてストレッチを始める。
よしきは今回の出来事を興味深そうに振り返った。
「しかしまあ、お前もお鷹の胸もよくここまでの嘘をついたもんだ。女皇帝が生きているのならば帝位を継承する必要がない。べつに死んだふりさえしてなければリスグランツも簡単に抑えられただろうに。だが、今回の出来事は全部、アカリとスミレのためなんだろ?」
よしきは策士な彼女たちのことを嬉しそうに、
「アカリには皇帝の重圧からしばしの間、解放させ、スミレにはしばしの間、皇帝の重圧をかけた。各々新たな環境で成長できるはずだ」
よしきは将来を思い浮かべながら、
「どうするんだ? 皇帝のお前には次期皇帝のスミレを罷免させる権利があるはずだ。こんなことしたらあいつら争うかもしれないぞ? 二代皇帝の『メロイア』みたいにな」
「あいつらは仲がいいんじゃ、もし争うようなら皇帝は譲らんわい」
エクイアはそばに畳まれていた着物に着替えながら頷く。
「それより、アカリは重圧から解放されるからともかく、わしが心配なのはスミレじゃ。お鷹の胸はうまく深手を負ったようじゃからな。今回のことで独立心が生まれたはずじゃ。スミレもお鷹の胸のサポートなしで強くならねばならなくなった。さて、あやつはどう出るか」
「ハハハ! とぼけるな、そのためにスミレを狙わせたんだろ? この世界の人間に愛されていないとわかれば、簡単にエクレツェアにくるぞ? そして、それが俺の一番の願いだったわけだ」
エクイアは着物の中から明らかに異世界の品の炭酸水を出して水分を取る。
「そうじゃったな。エクレツェアとこの世界を繋げる話をしに来たと思ったら、スミレをよこせと言いよったのは、本当に驚きじゃった。なぜ、あやつを欲しがる?」
よしきは両指を一本ずつ立てて、
「ちょうど今日弟子を一人とっててな、競わせたら楽しそうだなと」
すると、エクイアはスポーツドリンクをシャワーのように浴びながら頭を洗う。
「お鷹の胸に礼を言っておけ。自分の娘をお前に預けるんじゃからな。それにスミレを少しでも傷つけたら妾は本当に怒るぞ?」
「わかっている」よしきは強く頷いた「今回のことでスミレは自分が腹違いの娘だと気がついたようだぞ?」
「それくらい髪の毛を見た時点で気がつきそうなもんじゃろう」
エクイアは着物を着終わるとため息をつき、思い出す。
「しかし、運命も皮肉よのう。アカリとスミレの父を奪った、お前に守らせるとは」
よしきは頷くと手を合わせて未来に希望を抱いた。
「言っておくが、それは過去の話だ。あいつも本望だろうよ」
彼は軽くため息をつく。そして、話を変える
「すまん、そういえばかなりこの城でやらかしたんだ。半壊しているが、直しておいてくれ」
「またか、お前がくるとそんなことばかりじゃ」
エクイアは仕方なさそうに意識を集中した。
「集え、そして従え」
彼女の言葉をきっかけに、城とその周辺の大地全てが動き始めた。壊れた城壁は時が巻き戻されるように元どおりになり、消え去った部分は新たな素材で修復されていった。
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