第27話 中庭はお花畑に

 光の運河。そう呼ぶにふさわしい光景が、二つの銃口の先に見えた。明るい光が朝日にかぶって一段と輝いた。

 流れに飲まれたりすグランツと黒数珠繋ぎは宝物庫に叩きつけられた。そのまま彼を城壁にねじ込み、家系図を守る障壁にりすグランツの手が触れた。

 家系図の障壁は見事砕けたが、もしかするとキシヨとスミレの放ったこの光の運河だけでどうにかなったのかもしれない。


 だが、塔は崩落して、迷宮に落ちていった。

 そして、キシヨとスミレも落ちていく。

 二人はエネルギーの放出を体感して一気に気が抜けてしまっていた。全身を心地よい疲労が隅々まで届き、まるで動く気がしない。

 このままじゃ下に落ちる。

 それだけを理解していたキシヨはそっと手だけ空に伸ばした。こんな気持ちで手のをばしたのは久しぶりだ。

 心が傷ついた時、だれかに傷つけられた時、認められずに足掻いて疲れた後、キシヨは横になってそっと店に手を伸ばしていた。

 だれかが掬い上げてくれるかもしれない。そうときめいて一心に手を挙げていた。でも、その答えは自分で立ち上がるしかない、だ。

 それは当然だった。周りを見れば自分のことを考えてくれている人間が大勢たのだから、それを見ずして天井に手を挙げても、差し伸べられている方向が違うのだ。

 その手が、過去か未来か現在か、どこから届いているかは知る由もないが、ただ必ず手を伸ばしてくれている。それはつかまれるのではなく掴むのだと、これまでの経験で知っていた。


「まあ、そん固いこと言うなよ。たまに掴まれたっていいじゃないか。俺はそれがしたくて生きてるんだからな」


 よしきが、中にふわふわ浮いて、キシヨとスミレの手を掴んでいた。二人とも同じように経験して、手を伸ばしていたのだとしたら、さすがは主人公と言わざる得ない。

 すると、崩れた中庭に、城壁から花が咲き始める。一旦咲き始めると突然満開になり、中庭の穴を埋めていった。

 場内が一面花で覆われる。

 よしきはキシヨとスミレの二人をそっとその場に寝かせてあげた。

 そのあと、花畑に落ちてきたのはリスグランツ、黒い触手がほぼすべて全滅して黒い数珠玉が彼に巻きつく程度だった。まだ息がある。

 だが、全身の色が真っ白になって、同一人物とは思えなかった。

 その時、頭上から声が。


「うぜえええええ!」「ひゅ〜、僕は飛べる」

「お前よくも髪の毛をゲロまみれに!」「おえええええええ!」「ぎゃあああああ!」


 ハルトが花畑に落下、サカ鬼は龍矢に振り払われて花畑に衝突。

 クロカズは風をまとって着地、龍矢も着地したシャワー室を探し求めた。


「うぇえええ!」

「シャワーくれえええ!」

「コラァア! うぜぇからおとなしく!」

「ひゅ〜、まだ戦うか?」

「てめぇらいい加減にしやがれ!」

 よしきはそう叫ぶと上空に向かって『Xバースト』をなんども撃ちはなった。


 大音量が彼らの争いを再度止める。

 そこに青年姿のコーデルが近寄ってきた。ジーパンもピッタリと履きこなして銀髪が一段と似合っている。

 よしきに巻物を手渡した。それは家系図だ。

 視線が集まったところで手の巻物を見せびらかした。


「これ、なーんだ?」

 クロカズとハルトは驚愕した。

「ひゅ〜、家系図!」

「うざいことはやめ」


 よしきは家系図を開いてペンを取り出すと、


「和帝の国、憲法第3条。『もしも、正統継承者の結婚と接吻によって継承が行えない場合、この家系図に記入した名前のものを正統な継承者とみなし、帝位を授ける』。さて、私は一体誰の名前を書くでしょうか?」


 すると、家系図におっきく油性のマジックで名前を書いて見せた。

 スミレ、と。


「次の女皇帝はスミレちゃんでけってぇ〜い! もう取り消せないよぉだ」


「ひゅるるるる!?」「はああ!? うざすぎる!」ハルトとクロカズが目を向く。


 中庭にリスグランツは家系図に乗った名前にバツをつけられて、数珠繋ぎから解放された。

 よしきは背伸びをして家系図を仕舞った。


「では皆さん、戦争終了! 二次会に参加の方は、大広間に来てくださいねぇ」

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