第24話 俺が皇帝になる計画

 神聖な教会。忍者の城とは思えないようなわびさびを一切感じないレンガの式場。いたるところがクリスチャンの教会そのものだった。和帝の城、北の塔は政治家のエリア。ここに住む歴代のソフィストたちはあらゆる文化を真似て、憲法を作り、呪いを作り、伝説を作った。


 もし、刀を取られた侍がいるのだとしたら、この国では代わりにサブマシンガンを与えられる。そんな貪欲な国だった。


 お鷹の胸の着物の下から血液が零れ落ちる。量が尋常でなく、マリが思わず口を覆った。


 リスグランツがいやらしく笑顔で、

「えらく重傷だなぁあ。そんなに敵は強かったかぁ?」

「余計なお世話です。そんなことより、その方を返していただきますか」

「早々にえらく礼を欠いているなぁあ。今から神聖な結婚式だってのに、正装もなしかぁ」


 お鷹の胸は両手に小太刀を握りしめて叫ぶ。


「ふざけないでください! その方は初代皇帝『アクイア』様の正当な末裔! あなたがけがして良い者ではございません!」

「ふん、エクレツェアの民にでも聞いたかぁ。ああ知っているさあ、この女が皇帝の末裔であることも、こいつと結婚すれば俺が女皇帝を抑えて権力をふるうことができることもなぁあ!」


 お鷹の胸が首を横に振る。

「いいえ、あなたにはできません。変化を受け入れられない者に国を治めることは不可能です……諦めなさい」

「変化とはエクレツェアと接続することかあ? それなら受け入れてやるよぉ。その話に反対したのは反乱を起こす口実さぁ。本来の目的は、俺が皇帝になることにある」


 リスグランツは急に興奮して、

「俺は昔から本を読むのが好きだったぁ。そして知ったんだあぁ! この国の外では男が帝位につくことが当たり前だとぉ! それは異世界に出てからもそうだったぁ。この世は男が手綱を引くべき者だと知ったんだぁ!」


 さらに目の色を欲望のままに変えた。

「だから俺は過去の文献を読み漁ったさぁ! そして、なぜこの国は歴代の皇帝全てが女で、男が帝位につけていないのかを! さらに、この国の帝位につく方法を突き止めたんだあ!」

「我が国で男が継承者と結婚すれば『黒数珠繋ぎ』にとらわれて命を失います。そんなことできるはずがありません」

「呪いは解けるんだよぉお、妃を殺すことによってなぁあ」


 お鷹の胸は絶句した。そんな発想考えもしなかったからだ。


「今……なんと?」

「この女を殺すって言ったんだよぉ! 朝日を待っているのもそのためだ、この時間が一番『黒数珠繋ぎ』が弱まるんだぁ。そうやって俺と結婚したら死ぬ前にこの女を殺して俺が帝位を継ぐぅう! そして、この和帝の国を真の強国として成長させてみせるさあ!」


 お鷹の胸は呆れ返った。始皇帝の子孫を殺すというのか。


「わかりました……では、もうあなたを生かす方法は考えないことにします」


 すると、小太刀を咥えながら言葉を唱える。


「羽衣の命(はごろものみこと)」


 その時、場が凍りついた。同時に全ての波がピシャリと止まったように思える。妙な圧力が生まれ、それは彼女にまとわりついた。


 それから、オーロラのようなウェーブが生まれ、羽衣となって彼女を着飾る。それがだんだんとまた別の形をなしていき、最終的には七色で半透明の着物へと姿を変えた。


 羽衣の動きが止まると、その場の空気がビキビキと音を立てて騒乱する。


「がはぁ……」


 お鷹の胸の腹部から足元に血液が飛び散る。圧力で彼女の深手がより開いたようだった。

 だが、そんなお鷹の胸の重賞にも気付かず、リスグランツは目の前の光景に圧倒されて感情がいきりたっていた。


「それがお前の本気かぁ、お鷹の胸ぇ。初めて見たぞおぉ、それが和帝最強の能力かぁあ」

「死になさい!」


 お鷹の胸が怒りの限り叫ぶと、ふわりと浮かんでリスグランツに襲いかかった。それは早く、瞬時に彼の首元に刃を押し当てた。

 だが、その速度よりも早く、リスグランツは反撃を繰り出す。


「邪魔だぁああ」


 彼の拳がお鷹の胸のわき腹に刺さる。お鷹の胸は驚いて息が止まった。だが、それは羽衣も同じだった。彼女を守るための強靭であるはずの羽衣はその装甲をいともたやすく貫かれたのだ。お鷹の胸は感じた。ただの腕力ではない、と。


 リスグランツの殴った右腕は黒い数珠のような模様がうごめいていた。彼はそれを眺めて惚れ惚れと、


「悪いなお鷹の胸、もう既に日の出だあ。継承者の花嫁に触れているだけで、『黒数珠繋ぎ』が俺に力を与えるぅう。深手を負った貴様には今の俺を倒せんよお」


 首にかすり傷をつけるだけで彼女は式場の来客席に叩きつけられてしまった。血を撒き散らした彼女の意識は薄れていく。


 リスグランツは大声で高ぶった。


「俺が帝王になってやる! 俺が帝王になって、この国に永遠の泰安をもたらしてやるさあ!」


 瞬間、彼の頬が強く叩かれる。


「永遠の安泰などあるはずがないでしょう!」


 それはマリの叫びだ。彼女のその叫びは、もうすぐ殺されてしまうことよりも、無理に結婚させられることより、国の象徴としての矜持が強く主張していたものであった。


 その目はあまりにも強く、彼女の美しい化粧姿すらも勇敢な心構えを隠しきれずにいた。


「黙れぃ! ないのならば、俺が創ってやるよぉお!」


 蠢く黒い模様が彼の顔を多い始めた。

 朝日まで、あと5分。


「待ちなさい!」

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