第23話 ステンドグラスが舞い散る頃
中庭では奇妙な現象が起きていた。地下の迷宮に落下していた忍びたちがどういう原理かふわふわと飛んで、宙に浮き始めたのだ。一方、中庭全体では崩れた地面が時間を巻き戻すように元の姿に戻っていた。
「ひゅ〜、慌てるんじゃない、お前たち」
「いちいちうぜぇな、これくらいならなんとでもなるっつーの」
クロカズとハルトが各自、手で印を結びそれらのことをなしているようだ。
そんな時に、コーデルは悠長で。
『そろそろ終わったかいサカ鬼くん、龍矢くん。こっちは片付いたよ』
サカ鬼が叫ぶ。
「この量は酒も飲まずにはやってられないぜ! 酒とつまみと応援を頼む!」
彼の隣には龍矢もいたが、敵に囲まれ窮地に立たされていた。サカ鬼はあらぬ方向に腕が曲がり、龍矢は翼が折られている。かなり追い詰められていた。
だが、二人の奮闘はハルトとクロカズが本性を現すほどの頑張りだったようで。ハルトは演じるように荒れくれていたのを、途端にクロカズのような冷静な性格に振り替え、クロカズは真逆にハルトのような荒くれをすの自分で演じていた。
互いの、うぜぇ、ひゅ〜、の口癖も入れ替わっている。
クロカズは赤銀の髪の毛をたくましく振り乱し、目の前の二人を罵った。
「うぜぇ。お前ら、よくもここまで暴れてくれたもんだなあ! 落とし前つけさせてもらうぞ!?」
ハルトは青銀の髪の毛をかきあげて、片眼鏡をいじる。その姿がすでにインテリのようだったが、口調も手稲で頭が良さげだった。
「ひゅ〜。きみ、人の体で粗暴にするな。さっきから戦いを見ていると、技名をちゃんと言えてないだろ。スペシャルキックってなんだね、ボキャブラリーなさすぎだろ。技名は『清潭永世六中七破(せいたんえいせいろくちゅうななは)・三条の翔(さんじょうのしょう)』だぞ」
「うぜぇ、三条さんの清潭67周年万歳記念かなんだかしらねぇが、悪かったな。お前と体が入れ替わってからと言うもの、うざくて仕方がない。そもそも、お前はうざい漢字で名前つけすぎなんだよ厨二病が」
「ひゅ〜、厨二病とは、アニメの主人公になりきり自分を進化させるものだ。読書というこいうも、主人公にのめり込むことで5日間ほど脳が活性化すると言われている」
「そういう話じゃねぇんだよ、うぜぇな」
あたりを取り囲むリスグランツの手下はそんなハルトとクロカズをみると。
「ハルト様はあんなクロカズ様のように頭が良さそうじゃなかったぞ」
「クロカズ様はハルト様のように粗暴だ」
「もしかすると、入れ替わっているのか?」
少し確信をついた言葉にハルトとクロカズは固まる。慌てて各々の青銀と赤銀の髪の毛をかきむしった。元の口調に戻して、サカ鬼と龍矢を問い詰める。
「うぜぇ、もう捕まってくれないか?」
「ひゅ〜、てめぇらは俺がここ叩きのめしてやる」
サカ鬼と龍矢は隙を見て反撃を始めた。二人とも雄叫びをあげながら力にかませて戦いを繰り広げる。折れた腕はかばいながら振り乱し、翼は片方だけヨレヨレと沈んでいた。
ハルトがほとほと呆れて、
「ちぃ、往生際のうぜぇ奴らだ。さっさと観念するかしろよ。エクレツェアの民らしくな」
「ぎゃあああああー!」
その時、彼らの後方から叫び声が聞こえる。そこは居住区へと繋がる正門であった。向こうから何か近づいてくる。彼らの前に現れたのは黒い影。
いや、黒い着物姿というべきだった。凄まじい音を袖からたなびかせる姿は、地面に足をつくでもなく引力に引かれるようにまっすぐ突き進んでいた。その速度は、尋常ではない。
中庭の芝生を削りながら、彼女は近づくものすべての殺人方法を窺っていた。その証拠に両手を裾に隠している。その下には刀や手裏剣が握られいるはずだ。
隙のないその身のこなしは、弾丸が透明な刀で居合い斬りするがごとく。
ハルトとクロカズは共にお鷹の胸の迎撃態勢を構えたが、それが間違いだとすぐに気づくことになる。
「どきなさい」
怒るでもなく、叫ぶでもなく、だだの命令。その声は正門方向から二人とその後方の忍びたちにも聞こえたが、従わなければただの処刑宣告であった。瞬間、強烈な殺意。
ハルトとクロカズは即座に回避を始めた。だが、避けきる前に彼女が傍まで近づいてくる。その際、反撃を試みたが、それを制止するように彼らの頬を斬撃がかすめた。
彼女はどうやら北の塔へ向かっているようだった。
だが、リスグランツの手下の黒い忍びは二人のように殺気を感じず、お鷹の胸を妨害しようとした。
もちろん、殺気を感じなかったのは彼らに致命的だった。お鷹の胸は通り過ぎると同時に忍びたちをズタズタに切り裂いてしまう。
しかし、躊躇することなく北の塔へ向かい、そのまま一番上の大きなステンドグラスから中に突入してしまった。
真っ白で神聖なウェディングロードに色とりどりのガラスがばら撒かれる。
お鷹の胸は室内に入った瞬間に周り全ての把握を始めた。
四隅に二人ずつの黒装束の忍び、足元にはリスグランツと花嫁姿のマリ。
お鷹の胸はマリ以外全ての者に手裏剣や脇差などの刃物を的確に投げつけ、命中させた。敵兵を倒してそのまま着地して新郎にしてはあまりに粗暴な姿のリスグランツを見やる。
だが、彼はクナイをたやすく受け止めていた。
「遅かったじゃないかあぁ、お鷹の胸ぇ」
朝日まであと7分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます